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Full metal judgement  作者: 直線T
10/19

「今回は一日休んでいいのか・・。ていうかどうでもいいがまさき率そうとう高かったな・・・戸口・・・」

 「まぁ正明なりに苦労したんだよきっと」

 「・・・・・・。今日はぐっすり寝るとしよう」

この先何回戦あるのか見当はつかない。武はとてつもない能力を持っているがそれが通じるのは予選まで。一回戦は初めて傷を負い、二回戦ではかなりの打撲だ。どんどんこのゲームは過酷になっていってる。いや過酷になっているのは相手がふるいにかけられて強い者ばかりが残って言ってるからだろう。

 武は眠りにつくまでの間、自分について考えていた。自分自身の生きる上での目的・・それは他者とは違う、自分だけの特別な人生を歩むこと。能力を手に入れた時点で彼は満足感でいっぱいだった。しかし今は違う、この大会に参加してから気づいた。この大会はその特別が集団となって出来ている。それは特別ではない。全員が特別ならそれはすでに特別ではない。それは武が求めた物ではない。

 普段は八時間ほど寝る武であっても残りの十六時間はとても退屈だ。武の能力は鍛えて強くなるようなものではない。一般常識の戦略ではどうにもならないのがこの大会だ。頭でデモンストレーションなど無意味に等しい。

 「そういえば今の経験値はどれくらいだ?レベルアップするかは決めてないが一応聞いておきたい」

 「ん?ああ、少し待ってて・・・・えーっとね・・だいたい50000ってところかなぁー結構あるね」

前の時は19000だったな。おそらくレベルアップできるだろう。でも今の能力も捨てがたい。

ここはこの能力のまま行ってダメならその場ですることにするか。

 「レベルアップした場合での経験値のあまりってのはないんだよな?」

 「あまり?いや、ないけど・・・どうして?」

 「そうか・・あまり多数を相手にしても特はないか・・・」

どうやらレベルアップというのはどれだけ経験値が多くても一度使用すると余った分が次に持ち越されるというのはないようだな。できるだけ少人数で稼いでいくのが定石といったところか。タイミングが難しいな。

 「次のゲームについての発表をいたします。集合時間は一時間後です。遅れずに来られますようお願いいたします」

そうこうしてる間に時間は過ぎて行っていたようだ。

 「やれやれやっとかよ」

 「待ちくたびれたぜ・・ひひひ」

他の参加者も24時間という長さにあきあきしていたようだ。

 会場に着くと、高い位置から参加者を見下ろしている藤堂を参加者全員が円になって見つめていた。藤堂を見ていた視線がいきなり武に向いた。藤堂も同じように武を見た。どうやらまた武が最後だったようだ。

 「では今から次のゲームのカードを選ぶとするかのぉ。次は・・・そうだなぁ・・・お前だ。そこのお前」

名前は分からないが女性のようだ。この大会には女性は少ない。能力を渡されても戦闘を行わない者が多いためか最初の試験を受けないで終わる。そんな中勝ち残ってきた女性は勝気な者が多いと思いきやこの女性はおとなしそうだ。

 「え・・あ・・・私ですか?」

 「ああそうだ。選べ」

 「えと・・・その・・・じゃあ・・・Death。死神でお願いします」

おとなしそうに見えるが死神のカードとは、なかなかいかついのを選ぶ。

 「死神か。なるほどなるほど。君はなかなか場を盛り上げてくれると思ってたよ。では次のゲームは死神だ。死神はトーナメント戦。名の通り死者がたくさん出る試合となるよう期待してまっている・・・フハハ」

 「会長それ以上は・・・」

会場がざわつき始めた。会長の言う通り恐ろしいゲームなのだろうか・・。当事者しか知らないがこのゲームは二十一枚の中で一番恐ろしいゲームだった。

 ゲームが決まると参加者は次々と会場を出て行った。

 「俺たちも行くとするか」

 「はいよっ」

死神のカード。名前からして今までのように甘いゲームではなさそうだ。まぁそんなことを考えたところでどうしようもないがな。とりあえずカードでルールを把握した後荷物を確認するとするかな。

 出口を出ると今まで通り係員がカードを持って待っていた。

 「これがあなたのカードです。あなたは三組目ですので」

手渡されたカードにはゲームのルールがかかれていた。

【死神のトーナメント】

Ⅰ,30名は5名づつに別れてすること。

Ⅱ, 一回戦は4名で対戦し、一人をシードとする。シードは任意、シードの対戦は決勝のみ。

Ⅲ, 武器の持ち込みは一切禁止する。

Ⅳ,試合時間は無制限。勝敗は死、あるいは降参と認めた場合。

※なお、死者がでてもこちらは一切責任を負担することはない。

 「ここの※は相変わらずだな。問題なのはシード権・・・」

 「そうだね、それがゲットできれば無駄な争いを最小限にとどめられるんだけどなぁ。まぁそう上手くいかないもんだよね」

このシード権とやら・・・普通は二回戦と思っていたが決勝まで待機とは少しひいきすぎじゃないのか?まぁ利用できるものはありがたくいただくが敵にうばれた時を考えるとかなり不利になるな・・・。

 会場はまたもや突然に出来ていた。どうやら見たところ十二階建てのようだ。武は五階に通された。

 「では三組目の方々。全員私の前に集合してください」

 「武!呼ばれたよー」

階の端々に散っていた参加者が係員の指示で集められていく。

 「ん?ああ、今行く」

この階にはルール通り武を含めて五人。

 「それでは今から皆様がちゃんとご本人であるか確認のための作業をさせていただきます。ではまず一人目・・・『剣道 正一-けんどう しょういち-』様」

 「おう!」

真面目そうで身長が高い。鍛えているのがよくわかる体格。しかしなぜ剣道着を着ているのだろうか?と皆が疑問に思った。別に剣道をしているからといっていつも着なくても・・・むしろ私服なのだろうか。

 「『中岡 鳥尾-なかおか とりお-』様」

 「ん?ひひ・・・俺だ・・・」

こちらは真面目そうな剣道とはうって変わってラフな格好をしている。全体的な感じは細見であまり運動をしていなさそうだ。どちらかといえばいつも机に向かってそうだ。剣道とは対極な位置にあるような人間だ。性格的にもそう見える。しかし弱そうだから、で決まる大会ではないとだれもが知っている。

 「銀 武様」

 「ああ、俺だ」

 「『海野 透哉-うみの とうや-』様」

 「います」

小柄だが年下ではない様子。わざと中学生のような服を着て敵を油断させようとしているようだ。しかしそのずるがしそうな性格が表情に表れている。

 「『柴谷 正宗-しばたに まさむね-』様」

 「ハイ、僕です」

外見はごく一般的な学生。まさに特徴がないのが特徴とでも言わんばかりの風貌である。体格も運動を少ししてそうな程度。しかしこういう人間ほど強かったりする・・・武もその一人だからだ。

 「はい。確認が取れました。全員いるようですね。ではこれよりシード権獲得のゲームなどを決めていただきたいと思います。話し合いでもかまいませんので。この時点で何か異論などはございませんか?ルールについての質問は今しか受け付けないので」

 「貴殿に一つ提案があるのだが少しよろしいだろうか?」

やはりきたか、今までのルールについて参加者にどうこうさせるなんていうことは一切しなかったはず。なのにこの係員は『この時点で異論などはございませんか』なんて聞いてきた。この係員にはルールの変更なんていう権限は持ってないはずだ。ならば変えられるのはシード権だけだろう。まぁそんなのは考えなくてもわかることだが。問題なのはそんなことじゃない。どういう方法でシード権を決めるかだ。

 「わかりました。それで提案とはどういったものでしょうか?残念ながら事によっては私では変更できないこともございますので。そういったことをふまえてでの提案ならお聞きいたしましょう」

 「ああ、シード権についてだ」

やはりか。さてこいつはどう自分に有利な方法にもっていくか・・・。墓穴を掘るのを待つとするか。

 「ここはじっくりと話し合いをして決めようと思う。もちろんそれはみんなの反論がなければだが・・・」

意外な方法で来た。剣道はあまり話し合いは得意そうじゃないように見える。自分に有利には見えない。

 「おいおい待ってくれよ。ひひ、シード権なんてだれでも欲しいに決まってるだろ?話し合いなんかで決まるわけねぇだろうが」

 「たしかにそうですね。もちろん僕も欲しいですし、話し合い以外の方法を探しましょうよ。ちゃんと決められる方法で」

中岡と海野が反論しだした。たしかに二人の意見も正しい。決勝まで無傷だなんておいしい権利を軽く手放すはずがない。話し合いで決まるはずがない。あきらかに時間の無駄にしか思えない。

 「まぁ待て、そう焦るな。簡単に決まる方法があるだろうに。一番この中で弱い者にシードを渡すのだ」

 「ほうほう・・おもしろいですね・・・それはまたなんででしょうか?」

係員がにやりとして興味深そうに質問をする。

 「俺達の力は基本的にはあまりかわらないだろう?まぁそれは上だけ見てでの話なんだけどな。上がほぼ同格なのであれば下から見てはどうだ?決勝まで登って同じ力のとぶつかるのはおそらくほぼ勝ち目はないだろう」

 「なるほどなるほど。たしかにそれは一理ありますね。自分より下だと思う相手がシードにいるならば決勝は自分が重症を負っていてもまだ勝ち目があると。まぁ、それでも難しい話でしょうがまだ希望がありますね」

海野がにやりとした。

 「そこでもう一つ俺から提案がある」

まったくでしゃばりな奴だなぁ。たしかに奴の意見は一理あるが、これ以上あまり目立つ行動をしていると今後のゲームで自分が不利になる要因にもなる。ここは静かにいるのが一番だと思うが。

 「なんでしょう?」

 「俺からシード権候補に値する参加者の推薦だ。すまないと思うが俺はあいつがシード権を持つべきだと思う」

他の参加者がざわつき始めた。

 俺が弱者か・・・なかなか目立たせてくれるな。俺の作戦にひっかからなかった強い奴がいくつかいたがこいつではないようだな。まぁいい、そんな奴らの顔まで見る暇なんてあの時はなかったしな・・・。

 「ねぇ、武。どうするの?なんかシードくれるってあの人言ってくれてるけど・・もらっちゃう?」

 「流れを見る」

武は剣道を見た。

 「ねぇ、ねぇねぇ?なんで・・・その・・・銀さんなんですか?ほら、ほらほら僕とかどうですか?」

海野がやたらと焦りだした。表情を見ていれば分かる。焦って反論してくる海野を剣道はじーっと見た。

 「お前の下心など誰でも分かる。持ってるそのかばんに着替えがあるのであろう?そのみすぼらしい格好をやめてこい」

 「ギクリッ!」

海野はギクリとした表情を浮かべた。海野にはぜひポーカーフェイスというものを覚えてほしいものだ。武の『お前のその作戦、ばればれだ』という視線を感じてか、またギクリとして着替えに走り去っていった。走りながら口笛を吹いたりこちらをちらちらみたり、人をおちょくってるのだろうか。

 「途中だったな。銀、それでいいか?」

 「ん?あー」

さてどうしたものか・・ここでおとなしくもらってもいいが、経験値アップのために幾度も戦うというのもまた手だ、しかしほぼかならず勝てるのがシードだ。

 すると剣道が武のそばに来て小声で話し始めた。

 「強者と弱者の見分けは少しは出来る。貴殿の強さはよく分かっている。私の望みは真の強者との手合せ。もう一人の強者にその座はわたるやもしれぬが希望は持っていたい。ここは退いてくれ・・・」

武は係員の方に視線を向けた。

 「かまわない」

 「決まったようですね。では始めましょうか・・・『死神のトーナメント』」

ついにゲームの本番が始まった。今までのお遊びとは違う戦うことが目的のゲーム。

 初戦。張り紙を見ると最初の試合は剣道と中岡であった。

 「よぉ、見た目通りの脳筋だと助かるんですがねぇ・・ひひひ」

 「我は真の強者を探してこの大会に出た。しかしはじめに見つかったのは真の下種のようだな。軽く腕試として使わせていただこう」

 「いっちょまえに挑発してんじゃねぇよ脳筋。くそやろぉ」

意外と冷静な剣道に中岡はいらだっていた。しかしこの剣道。実力者であるか否かは分からない。まだ判断にはいたらないところだ。

 「ねぇねぇ武さぁ、あの剣道って人、武が強者だって言ってたけどあの人自身は強かったりするの?」

 「さぁな。力が強さにイコールしないこの大会で強者を見分けるのは難しい。つまりそいつが強者に見えたってことはそいつの強さは中にあるって理解している証拠だ」

 「それでは試合を開始いたします。はじめっ!」

係員の合図とともに二人は攻撃をしかけると思いきや、剣道は目を閉じて何もない所を竹刀を持つように握りしめている。おそらく刀なのであろう空を下に向けるように構える。あの状態では振り上げるの時間がかかる上、相手の攻撃を防げない。

 「いくぜおらああああああああああ」

中岡がジャンプをして戦闘態勢に入った。そして突如背後から無数の針が飛び出し中岡の周りをグルグルと飛び回りだした。

 「そらよっ」

中岡の声とともに針の集団が一斉に剣道に向かっていった。しかし一瞬、剣道がすり足で針を避けた。すべてかわしたと思われたが針は数本剣道の足の親指にささった。

 「なんてことはない。痛みすらまったく感じない」

その言葉に海野は驚きの表情を見せた。

 「すごい鍛錬だ・・・痛みすら感じないなんて・・・」

 「痛み・・・ねぇ・・フフフ」

海野の言葉に係員はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その表情を武はじっと見ていた。

 「ひひひ、自分の日々の鍛練のおかげで痛みなんか感じないと思ってるのかぁ?んなわけねーよばーか。親指、動かして見ろよ」

なるほどそういう能力か。それじゃあ痛みは感じないはずだ。

 「う・・・動かない。この親指は本当に俺の親指なのか・・?まるで感覚がない、取り替えられたようだ・・」

 「そうさ、動くはずなんかねぇ。神経が無いんだよ。おれの能力は刺さった位置の半径1cm内の円に入るすべての神経を消し飛ばす。その飛ばした時に痛みすら感じない。まるで無かったように消すんだ。痛みのシグナルなんか遅れるはずないよなぁ?ないんだから。もちろん動かすことなんてできるはずないさ。普通は説明の時に俺が攻撃されてもおかしくないけど逆だ。俺は今てめぇのどこに針を刺したでしょう?ひひひ、必死に探してろバーカ」

なんの構えかいまだに分からない。しかしそんなことのために先手をあえて受ける、その構えにいかほどの価値があつのか。

 「愚問だ。それこそ鍛錬していれば分かる。貴殿は探せと言ったがその言葉はおかしい。場所は右足全体だ。こんな広範囲に打たれては気づかないはずはなかろう」

そう言いながら崩れた構えを元に戻す。

 「おいおいまだそれやんのかよ。もうお前の負け決定だろぉ?俺こういう勝負あんま好きじゃねぇんだよ。降参しろよ雑魚」

 「信ずれば自ずと道は開けよう。我が力はとても不器用でもろい・・先手は相手にゆずり、構えも隙だらけ。しかし己が力に慢心しているようでは貴様の道・・知れている」

剣道の目が開くと同時にその手に一本の刀が現れた。その刀を上段に構えると深く息を吸い込む。剣道は中岡の元に近づくが中岡は下がる。しかし中岡は振り下ろす刀に吸い寄せられていく。

 「はぁ?おいおいなんでだよ。体が勝手にてめぇの方に・・・」

 「我が刃。信ずる心に呼応して力を決める。我勝利を確信す・・」

素早く下ろした刀に中岡は無残に切り裂かれる。

 「武、どういうこと?」

 「・・・。あまりこういうのは好きじゃないんだが、つまりは『斬れると思ったら斬れる』。完全な精神論だ。しかし確信が大きければ大きいほど奴の力は強まる。恐ろしいのは勝利を確信したらそいつはかならず斬られなくちゃならないということだ。力の度合いによってははじかれるだろうがな」

 一閃。剣道の刃は中岡を真っ二つにした。

 「名もなき我が刃の糧となることを誇りに思え」

 「これにて初戦を終了させていただきます。勝者は剣道様。次戦は海野様対柴谷様」

二人は向かい合う位置に立つと試合開始の姿勢へと入る。

 「試合はじめっ!」

 「この試合いただきました。僕の勝ちですね。諦めた方が身のためですよ?」

 「人間は皆、自分を偽って生きている生き物だと思います。でも中には偽り切れない先ほどのような能無しがいるものですよね」

 「てめぇ・・・僕の能力は無数の手で相手を徹底的に嬲り殺す!貴様のような愚か者にはちょうどいい能力ですよおおおおおお」

海野の背後から無数の手が現れた。今回のゲームには何かを大量に出す参加者が多いらしい。決して手抜きではない。出された拳は一つ一つが常人のそれをはるかに上回るスピード、威力を持ち合わせている。そしてその全弾が柴谷に直撃した。柴谷は壁に叩きつけられ倒れた。

 「うぐ・・・」

柴谷は鈍い音立てて地面に叩きつけられる。口からは血を吐く。

 「・・・。勝者、うみ・・」

 「待ってください・・まだ負けちゃいない・・」

何事も無かったかのように立ち上がり、柴谷は戦闘態勢に入った。

 「俺の能力は攻撃を受けても無傷でいられる事です・・しかし痛みはちゃんとありますよ。まぁ半分以下には減らせますが、こういう能力なので痛みは慣れてますけど」

 「・・・・ぐあああああああアアアアアアアアAAAAAAAAAAAAAAA」

海野は突然悲鳴をあげだした。ダメージは受けていないはずなのに。

 「言い忘れてました。なぜ無傷でいられる能力なのか。なぜこんな能力でGhostを倒せるのか?それは本来の能力の性質上これがないと耐えられないからです。彼を見て想像つくかもしれませんが俺の能力は恐怖。相手が自分に攻撃を与える度に恐怖を重ねていく。彼と俺の相性はかなり悪かったみたいですね」

 「う・・うあ・・・・オウェ・・・ぐ・・・あ・・」

海野は嘔吐しながら床をのたうちまわった。目を見開いてい。まるで目が飛び出してきそうな勢いだ。床を爪でひっかき回す。だれしもがこの状況を見て思う一つの感情は『恐怖』であろう光景。

 「ああああああああああああああああああああああああ・・・あ・あ・・・ああ・・」

大きな叫びをあげた途端、静かになった。それもそのはず、海野は自らの目玉を抉り取り、胸をひっかき、その手が心臓まで届いていた。海野は自殺を選んだ。

 「ひどい有様だ・・・」

 「胸糞悪い・・・・」

ひどい能力だ・・・できれば相手したくないが今ここには奴にかなう者はいないだろう。作戦をたてないと・・・。

 「勝者柴谷様」

 「係員さん、待っていただけませんか?。僕の能力は一人が攻撃を食らうとそれがまるでウイルスのように感染していくんですよ。ほらそこの剣道君を見てください。どういう状況かお分かりいただけますよね」

指されたそこには剣道がいた。剣道はおびえていた。元々恐怖という物を外側に出さないタイプの剣道であったが今は違う。恐怖が漏れ出している。だれが見ても彼はおびえている、目が敵を見ていない。

 「俺は・・・俺はまだ戦える・・・まだ負けるわけには・・・負けるわけにはいかんだあああああああああああ」

だめだ剣道、現状を見失うな。このゲームはルールが絶対だ・・故に今お前がしている行動はルール違反だ。今すぐ退くんだ・・。

 「ほらほらぁ。恐怖で現状を理解できていないじゃないか。彼はこの時点で失格ですよね?さて、恐怖している人間にこの拳はどう見えているんでしょうかねぇ・・」

柴谷はゆっくりと拳をあげた。そして走ってくる剣道の丁度額の高さに持っていくと剣道はその場でぴたりと動きを止めた。

 「う・・・・ああ・・・・あ・・・」

そしてその場に崩れ落ちた。恐怖は物事を過剰に見せてしまう。剣道にはその拳がどれほどの物に見えたのだろうか・・・。

 「ルール違反により剣道様は失格とさせていただきます。では繰り上げにより今から決勝戦に入りたいと思います。銀様対柴谷様」

 「やれやれ、もう出番か。もう少し休みが欲しかったが・・」

 「武大丈夫?奴の能力は止めるとかそんあ方法はないよ?」

奴の能力は触れた者の恐怖を無限に植え付けていく能力。感情を司る能力に対しておれのは海野と同じ大量の攻撃をいっきに当てるタイプ・・・おれの攻撃の威力がないと思っているわけではないが海野の能力の攻撃は明らかにまともな状態で生き残れるはずがない・・・当たれば最低でもほとんどの骨が砕け肉がつぶれる重症。しかし今回は壁にまで挟まれている。その状態で痛みに耐え平気な面して能力の解説だ・・・・常人の神経をしているように思えない。奴を一度死なせる必要があるな・・それほどの痛みならおそらく・・・。

 「ああ、まぁな・・・・」

心配だ・・武。僕の能力は可能性を無限に生む・・勝てると信じよう。

 「では試合はじめっ!」

柴谷がゆっくりと武に近づいてくる。

 考えたってしかたないよな・・・今の能力では手詰まりだろう。ならば可能性はもう一つしかないか・・・我ながら情けない・・・。とりあえず直接攻撃するのはまずい。ならばしばしの間止まっていてもらうには・・・・。

 「少しそこで休んでいてもらおうか」

人の顔ほどの大きさの球体が柴谷の足元に現れた。重力のあるその球体は柴谷を引き込んでいった。

 「おれの能力は様々な大きさの球体を出す。その球体の重力はその球体の大きさに関係なく調整できる。しかし小さすぎると威力の幅は小さくなるし大きすぎるとそれなりに体力もつかうんでな。しかし重要なのは範囲。これも自由だ、そこでお前の頭から肩までの範囲を重力範囲内に設定した」

 「別に全方向に設定してもいいんじゃないですか?」

足で踏ん張りながら軽く頭をさげたような状態で話をする柴谷。

 「まずなぜ全方向にしないのか、それは全身を引っ張ると引き込むことでお前はダメージを受けてしまうからだ。それが元で俺にもダメージがくる。つまり今のような足でこらえている程度の重力が最も望ましい状態。そしてもうすぐお前は俺の能力外でダメージを受ける筋書きになっている」

武はパチンと指を鳴らすと球体が少し膨張した。膨張することで範囲が広まり天井の瓦礫が崩れてきた。一時的に威力がましたことで柴谷もその球体に引き込まれ体勢をくずした。

 「おわっと」

その球体にくっつくかくっつないかというギリギリの所で球体は消滅した。柴谷はそのまま地面に倒れる形となった。柴谷が倒れると上から破片が落下し、ぐしゃっと音がし、頭部に直撃した。

 「・・・・・・」

 「・・。よし、俺はこの通り何も起こってない。間接的ダメージはやはり能力の範囲外か・・」

 「その・・通りだ。でもいつまでこんなまどろっこしい事する・・つもりだい?」

頭を抱えながらこちらをのぞく柴谷。

 「今のままの俺ではお前に勝つのは難しい・・いや、勝てない。俺は次の段階にかけることにした」

武の後ろからGrowがふわふわと出てきた。いや、それは良く見るとただの抜け殻。そのさらに後ろを見ると仮面をつけた少年のような生物が立っていた。今まで見ていたのとは違う姿だった。

 「やぁ、よろしくね」

手を振りながら今更なあいさつを柴谷にするGrow。

 「さっきまでと大きさが・・・いや、形そのものが違う・・?」

なんだあの姿は・・抜け殻・・脱皮?奴は成長しているのか?成長して強くなっているかもしれない・・これは早めにけりをつけなければならないかしれない。しかしこっちの能力は相手がしかけないと発動することが出来ない。不利だが当たれば絶対的な勝利をもたらしてくれる能力だ。

 「君の能力。重力を操るんだっけ?早くそれでけりをつけたらどうだい?今のようにちまちま攻撃してたらきりないよ?一度俺を殺して見たら?」

その挑発を聞いて不敵に笑う武とGrow。

 「・・・なんだよ。さすがの俺でも一撃で殺せるような能力なら死んじゃうのになぁ」

俺の能力は無傷であること。しかしそれは一度ダメージを負ってからまるでそれがなかったかのように無傷に戻る。つまり一度は痛みを味わっている。しかし死んでもまた戻る・・かもしれない、確証はない。さらに問題なのは精神的に耐えられるかということだ。

 「その言葉・・聞けてよかった」

Growの体が煙とともに液体のようにどろどろと溶けて行く。その液体は武の腕にへばり付くと、まるで鉄のような・・それ以上の硬い物質へと変わって行った。武を煙がつつむ。煙がはれるとGrowは黄土色のガントレットとなって武に付いていた。

 「なんだそれは・・・?」

カランカランとGrowの仮面は地面に転がった。それを武は拾い上げると自分の額に持っていき、装着した。

 「仮装パーティのつもりかい?ださいね、まるで道化師だ。姿を変えることで自分を強くみせようとする道化師だ」

 「仮装パーティ・・道化師・・なかなか面白いことを言うなぁ。ところでお前は攻撃されたら恐怖を植え付けるらしいが攻撃とは別にただ触れるだけならどうなる?恐怖は俺に植え付けられないまま終わるのか?」

 「試してみたら?」

武はスタスタと柴谷に近づいて行った。そして何事もないように、恐怖を感じていないかのように柴谷の肩を掴んだ。

 「なるほど。植え付けられた」

 「ふーんやっぱりね。さっきの時も一人だけ何事もないように平然と座っていたし、怪しいと思ってたけどさ・・・君の恐怖ってどれだけ深いんだろうね。推測だけどこの大会には何かしらの思いがあって皆参加している。いろいろ理由はあるだろうがだれかが死んだ、または殺されたケースは稀だろうね。そこまでして参加させたい者だったのかな?」

先ほどの恐怖。つまり海野戦での恐怖だが武が受けたのも海野と全く同じ、それは剣道にも言えることだ。その恐怖とは自分自身がその恐怖に耐えきれない、その恐怖から逃れたいが故に自殺をしてしまうほどの恐怖。人間という者はとても臆病で、自分がかなわない敵がいるとその場から逃れようとする。しかし自分の背中にくっついてい逃げても逃げてもいつまでも追ってくるその『恐怖』は走って逃れられる物ではない。ならどうするか、死んでしまえばいいのだ。

 「別に俺は恐怖していないわけじゃない。むしろ怖くて怖くて逃げだしたいくらいさ・・そうだな、たとえ話をしよう。俺たち敵は『ドミノ』。お前自身は『手』としよう。お前はその手で俺達ドミノを倒すだろう?でももしお前と同じ力、あるいはそれ以上の力で反対側からドミノを押す手があるとすれば?」

武は今まで多くの人間を殺して来た。主催者への憎しみが能力に影響してくるほどに・・ならばなぜそこまでしなければいけないのか?それは武が親しい友を目の前で殺されたからだ。もう一人も事故死して武の友はいなくなった。死ねないのだ・・・死の恐怖を知ってしまった武は柴谷と死の恐怖に板挟みとなり死ねずにそこに立たされている。立つしかないのだ。

 「言ってることは理解できた。自ら命を絶つことは体が恐怖して出来ない。だけどそんな状態で本当に体は持つの?」

 「グォア・・・・」

血が混じりの嘔吐をした。恐怖をひたすらに植え付けられることで強烈な吐き気やめまいに襲われながら無理にその場に立たされていることで体が悲鳴をあげている。もう立っていられる状態ではないが立たされている。

 「おいおい汚いなぁ・・・近寄るなよ」

やれやれとぼやきながら武の血がついた上着を脱ぎ捨てた。

 「ここまで醜い姿をさらしてまで立っていなくてはならない・・死にたいほどの屈辱だ。しかし俺はお前に勝利する」

 「はぁ?何を言ってるんだ君。そろそろ死ぬんだよ?はぁ・・・あきれた。もう君は放っておくことにするよ。君の戯言を聞きながら見物としますか」

 「なぁ・・一つ質問させてもらっていいか・・・?」

ゆっくりとお互い腰を下ろしながら武は柴谷に言った。

 「なんだい?一つと言わずいくらでも受けてあげるよ」

 「そうか・・・お前が好きな災害・・それか嫌いな災害ってあるか・・?」

 「災害・・・?」

何を考えてるんだこいつ・・何かの能力か?まぁいい、もって数分ってとこだろうな。楽な試合だったよ。

 「そうだねぇ・・・火災かな?人が焼けて肉がどろどろに溶けて死んでいく姿なんかがたまらなく好きだ。美しいしね」

 「お前らしい下品な趣味だ・・能力と同じでな・・分かった、お前は火災だな・・」

 「俺は笠井じゃないよ?柴谷だ。なーんてね。そろそろ君の寿命は五分くらいかな。よくがんばったよほんと」

武は目をつぶり、静かに深呼吸した。

 二人の会話から四分が経過した。以前静まり返った会場内・・・先に口を開いたのは武だった。

 「大規模な災害ってさ・・とても恐ろしいよな。前に家の近所が火災で燃え尽きちまってさ、とても怖かった・・」

 「俺も近くで火災を見たことあるよ?どこが怖いんだか・・・」

 「それはお前が身近に感じなかったからじゃないのか?俺は近所の優しくしてくれてたばあちゃんの家だったからな・・・」

 「どうでもいいよそんなこと。さっきからさ、一体何が言いたいの?」

たしかに災害のことなんて今はどうでもいい。武の遺言になるかもしれないのによくもそんな会話ができるものだ。

 「もしもの話だ・・災害がさ・・場所に起こる『現象』なんかじゃなくてさ・・・俺達自身に起こる『病気』みたいな、ウイルスのようなものだったらどうする?そしたらお前も恐怖しないか?そういう人を死に追いやる物が自分自身で起こる物なら恐怖も災害の仲間だよな・・伝染していくところがまさにそう・・」

 「まぁ・・災害が感情のように広がっていくなら恐怖もそれと同じかもしれない。面白い話だが現実味がないね。災害が自分自身ってその時点でおかしい」

 「そう・・・もしもの話だ」

武が指を弾くと柴谷がいたと思われるそこには『何かが』燃えたのであろう炭の跡だけが残っていた。

 柴谷がいなくなると武に重たくのしかかっていた恐怖は何事も無かったかのように消え去ってしまった。

 「勝者銀様」

武の前に立っている少年は武の付けている仮面を手に取ると自分に付けた。

 「やっと終わったね。お疲れ様。今回は特に厳しかったね」

 「あ・・・顔見ればよかった・・・」

 「フフ・・・やーだねっ」

そのあと武は深い眠りについた。


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