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血の繋がりと告白

「ううう……私の……私の攻略本……」


「まったく……」


 すぐ目の前には、椅子に転がり寝ている店長……苦しそうに寝言を言っている、嫌な夢でも見ているのだろう。寝返りを打ち、落ちそうになっている店長を何度も元に戻す。


「お兄ちゃん……お兄ちゃん……手首が痛いの……少しでいいから緩めて……それに喉も乾いたの……お兄ちゃんのいれてくれたジュース飲みたいよ……」


「緩めるのはダメだ、ジュースは俺が飲ませてやるから少し待ってろよ」


「うん……」


 店長から少し話した場所に、莉奈を縛って座らせているが……莉奈が泣きそうな声で紐を緩めてくれと言うたび、思わず緩めてしまいそうになる……


 しかし、本のおかげで助かったが一度店長を刺したのだ……もしも店長が本を服の中に入れていなければ……なぜ服の中に本があったのかわ知らないが、莉奈を近づかせるわけには行かない。


「ほら、零さないようにな」


「ありがとうお兄ちゃん……紐も緩めて欲しいな……」


「ダメだ、少しの間はそのままでいろよ」


 こぼさないようにゆっくりと莉奈に飲ませていくが……零れてしまったのか頬を伝たったジュースが、莉奈の服の中へ行ってしまった。


「つ、冷たいよお兄ちゃん……自分で拭くから紐解いて!」


「す、すまん! でも紐をほどくのはダメだ……」


 すぐそこには店長が寝ている。解くわけにはいかない、でもどうやって拭けば……涙目の莉奈に上目遣いで見つめられては……仕方がないか……


「お兄ちゃんが拭いてくれるなら、それでいいよ……」


 迷っていた俺に莉奈はそんなことを言ってきた。……見張っていれば特に何もしないだろう、ただ零してしまったジュースを拭くだけで……


「ほら、早く拭けよ」


「ありがとお兄ちゃん……」


 後ろを向いているから分からないが、変なことはしないだろう。店長も俺の目の前で寝ている、何かするようであればすぐに捕まえれば問題はないだろう。


「もういいよ」


「わかった、じゃあもう一回縛るぞ」


 嫌そうなん顔をした気がするが、素直に手を差し出してくる。少し経つと裏のドアが開いたような音がした、頼んでいたものを京介が買って帰ってきたのだろう。


「おう! 買ってきたぞ蒼真! これでいいんだよな?」


「ああ、よかったよ……これで店長も起きた時元気になると思う」


 京介が袋から出して渡してきた物は、カッターナイフに刺されたものと同じものだ。これで許してくれればいいが……二、三回ぐらいなら殴られることを覚悟しておいたほうがいいだろう。

 なんせ本がなければ本当に刺されていたのだ……あの時すぐに入っていれば、本が刺されることもなかったのだが……


「どうしたんだ莉奈?」


「え? な、なにが?」


 少し動いている……といっても少し体が揺れているぐらいだが、それが気になる。さっきまで静かに座っていたのに、急に動き出したのだ。トイレに行きたいのだろうか? でもそれだったら言ってくるはずだが……

 それに手の方を気にしているようにも見えたが……もしかしたら紐を強く縛りすぎたか? 跡がついたりしたら悪いし……


「ちょっと緩めてやるからな、ごめんな……強く縛りすぎたか?」


「い、いい! 大丈夫! さっきよりは痛くないし! そ、それよりあの店長さんに早くその本渡してあげたら?」


 本当に大丈夫なのだろうか? それにさっき刺した相手を心配するものだろうか? とても怪しい……


「いいってば! ダメ! ダメダメ!」


「何言ってるんだよ莉奈! 緩めるだけだろ……それにさっきから何握ってるんだよ?」


「いやいやいや! 触らないでお兄ちゃん! あ……ち、違うの! お兄ちゃん大好きだよ! でも今は……今はダメなの!」


 莉奈が何か隠している気がする……少し強引だが、またあのようなことをされては困る。何かを握っているように見える莉奈の手を開こうとすると、急に暴れだした。


「はぁ……何してるんだよ莉奈、あとこれ落ちたぞ?」


 莉奈の手を無理矢理だが開くと、何かが床に落ちた……


「あ、あの……お兄ちゃん? 莉奈ね……莉奈ね……」


「もういいよ……今日はもう帰ろう、店長のこと頼んだぞ京介」


「あ、ああ……じゃあまたな!」


 多分ここにいれば、莉奈が何かを起こすことは今わかった。莉奈の手に握られていた小さな刃物がその証拠だ。紐を切ろうとしていたのだろう、あと少し気づくのが遅ければ……

 京介と店長には悪いが、先に帰らせてもらおう。俺がいないということは、今日この店は開けないということだ。京介にはジュースでも奢ればいいが……店長をどうするか考えておかなければ。


「行くぞ莉奈、今日はもう帰る」


「うん! えへへ、嬉しいな……」


 なぜか腕に抱きついて甘えてくる……突き放そうにも、もし店に戻ったりでもすれば大変なことになる。家に帰るまでどこかに行かないようにしなければ……



「もう……もうしないから……入れて……お兄ちゃんと一緒にいたいの……お兄ちゃん! 開けて! 早く開けてよ! 誰かいるの? 誰かと電話してるの? お兄ちゃん!」


「はぁ……なんでこうなるかな……」


 家に帰ったのはいいが……何もなかったのかのように甘えてくる莉奈に、怒鳴ってしまった。泣き出した莉奈を気にせず部屋に戻ったが……ドアが壊れそうなほど強く叩いて開けようとしてくる。

 この状況がもう十分近く続いている。そのうち近所の人が来そうで怖い……開けるしかないか……


「ほら……入れよ」


「お兄ちゃん……お兄ちゃん! えへへ、寂しかった……どうして開けてくれなかったの?」


 擦り寄って甘えてくる……反省しているのだろうか? またやらないか心配になる。突き放してもさっきのようになっては意味がない。どうすればいいのか……


「なぁ莉奈、どうしてあんなことしたんだ?」


 また同じことを起こす前に、なぜしたのか聞いておこう。俺がいない間は莉奈を見張ったりなど出来ない……ならやらないようにさせなければ。


「へ? あんなことって?」


「店長を刺そうとしたことだよ! もし本がなかったら……」


「だってあの人は悪い人なんだよ……お兄ちゃんのこと騙してるんだもん!」


 まただ……莉奈は何か勘違いをしているのだろうか? 店長に騙されたことなんて一度もない。むしろ優しくしてもらっているし……


「店長が騙してるって言ったな、騙されたことなんてないぞ! 」


「嘘だもん! だって……だって……お兄ちゃん……お兄ちゃん一緒にいてくれないんだもん! 莉奈のこと好きだよね? 好きでしょ? 莉奈のこと大事だよね?」


「兄妹なんだから当たり前だろ! 妹を大切に思うのが普通だ! だからって店長を刺したのには関係ないだろ!」


 兄が妹を大事に思うのは別におかしいことではないだろう。莉奈が何を言いたいのかが、よくわからない……兄妹だからってずっと一緒にいるわけでもない……


「莉奈知ってるもん! お兄ちゃんと莉奈は血が繋がってないこと知ってるもん!」


「な、何言ってるんだよ! そもそも誰がそんなこと言ったんだよ! 変なこと言ってないでもういいから早く部屋に戻れ!」


「へぇ……やっぱりお兄ちゃんと莉奈の血は繋がってないんだね……嬉しい……莉奈お兄ちゃんのお嫁さんになれるんだよね? 結婚したらずっと一緒にいられるね……」


 赤くなった顔でにじり寄って来たと思ったら、いきなり抱きついてきた……強く抱きしめてきて、何度も頬擦りをしてくる……そんなことよりも、どうやってそのことを知ったのかが知りたい。

 あいつらが話すわけがないし、だとしたらどうやって知ったのか……覚えていた……ということはないだろう。疑問を持っていて、俺の反応を見て後に確信したということか……

 面倒なことになったな……出来れば昔のことはあまり思い出したくない。あの頃のことは忘れていたかった……



「この子を私達が育てるの? 面倒なこと残して死んでくれたわね、あの馬鹿ども」


「だからといって引き取らないわけにもいかないだろう……」


「まったく……なんで私があいつらの兄妹だからって、引き取らなきゃいけないのよ!」


「しょうがないさ……それに大切に育てる必要なんてない」


「そうね……わかったわ……」


 目の前の人達が何を話しているかは分かる、僕のことを面倒だと思っているんだ。僕のお父さんは、他の人たちからお金をいっぱい借りて返さなかったから。

 この人たちもきっと僕のことが嫌いだ。だって僕のことを見る目が、お母さんたちと一緒だから。



「りなはね、りなっていうの! おにいちゃんが、りなのおにいちゃん?」


「そうなの……かな、よろしくね……りなちゃん」



「お兄ちゃん? どうしたの?」


「な、なんでもない……それより少し離れてくれよ……暑いぞ」


 俺の本当の両親にはもう二度と会えない、借金をしすぎた父さんは、母さんと一緒に家で心中をした。寝ていた俺が起きた時には、いつもの見慣れた場所でなかった。

 その後、少し経った後に心中をしたことを知った。その当時に伝えられたことは、もう二度と母さんと父さんに会うことができないということだけ。

 子供の頃の俺は、そのことの意味がよくわからなかった。そして、父さんの唯一の兄妹だったあいつに引き取られて俺は育てられた。


「それよりどこでそのこと知ったんだ? その……血が繋がってないってこと……」


「……ただの偶然なの、夜起ちゃって……下に降りたら部屋の電気が付いててね……気になって覗いたらあいつらが話しててね……」


 あいつら? 莉奈は顔を俺に押し付けていて見えない、ただその声はどこか、怒りに満ちているような気がした。


「その時に話してたのが、海外に行く時に莉奈も連れて行くこと……その話を聞いて、お兄ちゃんと一緒に海外もいいなって思ったの……でも、お兄ちゃんをどこかに押し付けようって言うのを聞いたの……血も繋がっていないような奴は、ここまで育ててきたことをありがたいと思えって……お兄ちゃんと莉奈が血の繋がってないこと知ったのはそこで……」


「そっか……」


 莉奈はどう思っただろう? 今までお兄ちゃんと思っていた人が、実はただの他人だったことを……それにまだこの話には続きがある。

 俺は死んだ父さんに引き取られたのだ。引き取られるまでは施設で育った。本当の親のことを俺はいっさいっさい知らない。なぜ父さんは施設から俺を引き取ったのか、俺の生みの親は誰なのか、なぜ俺にそのことを教えたのか……それすらもわからない……


「莉奈はね……」


「どうした?」


「お兄ちゃんが好きなの……兄妹としてじゃなくて……一人の女としてお兄ちゃんが……蒼真が好きなの……」

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