変わりゆく日常
……まだ眠たい、もう少しでもいいから眠っていたい。……なんだろう、お腹がに何か乗っているのか、少し呼吸がしにくい、それに起き上がろうと力を入れても起き上がれない……
寝起きということもあり、力も全く入ってないのかもしれないが……それでやる気がなくなって体を動かせない。睡魔に負けた……まぁ、もう少し寝ていてもいいだろう。
「はぁ……はぁ……お兄ちゃん……」
なんだろう……近くから変な声が聞こえてきた。同時にお腹の上で、何かが動いたような気がする。少しだけ目を開くと、そこには白い天井と蛍光灯……顔を右へ向けるとそこには鎖で繋がれた男……が映っているテレビ。
「そっか……昨日ソファーで寝ちゃったのか……」
「そうだよお兄ちゃん! せっかく二人っきりで見てたのに……先に寝ちゃうんだもん」
「あ、ああ……ごめんな莉奈」
思い出した……確か一度見終わったが、その後、莉奈が何度も一緒に見ようと言ってきたんだ。断れなかったからそのまま何度か見ているうちに、先に寝てしまったみたいだな。
「ありがとうな、莉奈」
「い、いいよ、莉奈がお兄ちゃんに何度も頼んじゃったせいだし……」
俺の腹に顔を押し付けていたことは見なかったことにして……多分莉奈が持ってきてくれたのだろう。俺の部屋にあったはずの黒い毛布がいつの間にか、かけられていた。毛布で顔を隠している莉奈の頭を撫でて、ゆっくりと立ち上がる。
そろそろご飯を作ったほうがいいだろう。俺も少しお腹が減っているし、莉奈も何か食べたいかもしれない。作っていたらちょうどいいだろう。
「ご飯作ってくるけど……莉奈はテレビ見とくか?」
「うん! ありがとお兄ちゃん!」
テレビの前にあるテーブルに置いてあったリモコンを渡す。早速再生し始めた莉奈、もう何回これを見ているのだろうか……
毛布に包まって見ている莉奈の顔は幸せそうだ……それより早く作るか。今日はキャベツを特別に出そう……
「なぁ、莉奈」
「ん? どうしたのお兄ちゃん?」
「ああ、その……なんでもない」
「変なお兄ちゃん! 何かあったら言ってよね!」
少しふてたようにしているが……いったい莉奈に何があったのか聞きたい。いきなり甘えてくるようになった莉奈。嬉しさなどで忘れていたが、今考えるとおかしい。
急に「お兄ちゃん」と呼んだり、腕を組んできたりもした。それに、さっきは俺の毛布に包まってテレビを見ていた。朝出た時と、公園に来た時の態度がすごく違う。
「ねぇ、お兄ちゃん……」
「どうした莉奈? キャベツ足りなかったのか?」
「それもあるんだけど……学校で友達いるの?」
思わず飲んでいるお茶を吹き出しそうになってしまった……どういうことだ? これは俺なんかに友達はいないと思われているのか? だから急に優しく……
「もちろんいる……少し」
「そうなんだ……どんな友達? 仲はいいの? 女の人? 莉奈とどっちが大事?」
「い、いい奴らだよ、昔からずっと一緒だし……」
「女の人?」
「男だよ……どうしたんだよ急に?」
莉奈の様子がおかしい、前までなら気にもしてなさそうな事だ。何かあったのか聞きたいが、なかなか聞けない……仲良くなれるのならこのままで良いのでは? そんな考えばかり浮かんでくる。
そんなことを考えていると、いつの間にか莉奈の顔がすぐ目の前に来ていた……怒ったような顔をしているが、俺が何かしただろうか?
「って、近いぞ莉奈! 服にご飯がつきそうになってるし!」
「ねぇ、お兄ちゃん……」
「だからどうしたんだよ? 早く椅子に座れよ」
「……莉奈とそいつらどっちが大事? お兄ちゃんは莉奈のこと……好き?」
「何言ってるんだよ莉奈……ご飯付くぞ」
いきなり変なことを言い出した莉奈へ、椅子に座るよう言うがなかなか座らない。それにもう服にご飯粒が付いてしまっている。だから座れと言ったのに……
莉奈の肩を持って椅子に座らせ、そのついでに服に付いたご飯粒も取っておく。……さっき莉奈は俺に好きかと聞いてきた、いきなり聞かれてもどう答えればいいのかがわからない……
「お兄ちゃんは……莉奈のこと嫌いなんだ……」
「何言ってるんだよ! 嫌いなわけないだろ!」
嫌いなわけがない、嫌う理由がないし可愛い妹のことを嫌だと思ったこともない。いきなりこんな事を言ってくるということは、やはり莉奈に何かあったのか……
「やった! お兄ちゃんは莉奈のこと好きなだね!」
「そんなことは言ってないだろ!」
「お兄ちゃんは莉奈のこと嫌いなんだ……」
……どう言えばいいのかが分からない。莉奈のことを好きと言えば恥ずかしい……だが嫌いといえば莉奈が傷つく……かもしれない。
それに好きと言えば、どんな顔をして毎日莉奈と合うというんだ……莉奈が俺をからかっているのかもしれない、昨日のご飯が遅くなったから怒っているのかいるのか……
「いや、ほら……好き好き! お兄ちゃんは莉奈のことが大好きだぞ!」
「……ほんとに? 莉奈のこと好き? 一番好き? 莉奈が一番大事?」
「ああ、そうだ! だから泣くなよ……早く拭いて」
なんと返すか戸惑っていると、急に莉奈の目から涙が出てきて頬を伝った。思わず焦って好きと言ってしまったし、変なことを言ってしまった気がするが忘れよう……
「えへへ、じゃあ今日はずっと一緒にテレビ見ようね!」
「……分かった」
「大好きお兄ちゃん!」
本当に何があったのだろうか……まさか、拓也の家でゲームして負けたから罰ゲームとかだろうか……それだったらこの変わりようにも納得だ。……ただそれは悲しいが。
嬉しそうに笑っている莉奈に腕を引っ張られて、再びソファーへ……また昨日のように何度も見せられるのだろうか……正直あの妹は怖いから見たくないのだが……
「ずっと一緒だよお兄ちゃん……誰にも渡さない……ずっと私と一緒にいようねお兄ちゃん……」
テレビに映っている妹役の声だったのだろうか? 不吉な声が聞こえたが、妹役の人は今は映っていない……横から聞こえたような気がして、窓の方を見るが何時もの庭が見えるだけ……
少し莉奈のことが気になり、隣に座っている莉奈の方を向くと目があった……どうした? そう言おうとしたが言葉が出ない……莉奈の目を見ていると体も動かない……
ついさっきまで自分が動かしていた体が、全く動かない……莉奈に見つめられている……ただそれだけなのに体は思うように動いてくれない……
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「あ、ああ……なんでもない……」
「大丈夫? もしかして眠たいの?」
「大丈夫だよ……なんでもないから……」
何時もの……というわけではないが、ついさっきまでの莉奈に戻った……変わったわけではないが、どこか違う……そんな気がした。
そう……莉奈は普通だ。俺の可愛い妹で、何故か急に性格が変わったが、きっと甘えたくなったのだ……ただそれだけだろう。両親が海外へ行き、最初は一人で頑張っていたがきっと寂しかったのだ……
「これからわずっと一緒だよお兄ちゃん……あは、あはははははは! ……一緒に死のう……お兄ちゃん……」
その言葉は画面の映っている妹が言っただけ……急に手を握ってきた莉奈の方を向くと、まっすぐテレビを見ていた。何故かその顔は笑っているように見えた……
「じゃあ行ってるからな」
「うん! いってらっしゃいお兄ちゃん!」
「おう……じゃあ行ってきます」
莉奈に見送られてバイトへ先へ向かう……後ろを振り返ると、まだ玄関に立っている莉奈。振り返ったことに気づいたのか、大きく手を振ってきた。
俺も振り返しておくが、周りの目が少し恥ずかしい……歩いているお爺さんに、笑いかけられた気がして早歩きになりながらも、端の方を歩いて行く。
莉奈のことは気になるが考えてもしょうがない……俺から聞くより、話してくれるのを待ったほうがいいだろう。その方が莉奈も話しやすいだろうし……
「おお! おはよう蒼真!」
「なんだ京介か……はいはい、おはよう」
「……俺だったら何かいけないのか? 返事は投げやりだし……」
「そんなことないだろう……それよりさっさと入るぞ」
「あ、おい! 待ってくれよ!」
考え事をしていたらいつの間にか、もうバイト先に付いたようだ……京介も今付いたようだしちょうどいいな……後ろで何か言っている気がするが、店に入るのに待つこともないだろう。
話があるのなら店の中ですればいいだろうし。少し古いドアを開けて中へ入る。働いている人達が入る場所……といっても俺と京介だけだが、細い裏道を通った先にあるので人気がない。
ここは京介が掃除しているので結構綺麗だ、ゴミなども落ちていない。俺たちが働く前は、ゴミ箱に溢れるほどのゴミがあったが、京介に掃除するように言ったため今はとても綺麗になっている。
「おはようございます店長」
「おはよう……準備お願いね……」
「わかりました、掃除頼むぞ京介……京介?」
椅子を並べ、その上に寝ている店長に挨拶をした後、すぐに開店の準備をしようとしたのだが……京介の返事がない。まだ入ってきてないのか? 外で遊んでいるのかもしれないな……
入ってきたドアの方を見ると、ちょうどドアが開き京介が入ってきた。何をしてたんだ……少し鼻が赤くなっているが、どうしたのだろうか? まさか鼻のかみすぎか?
「なにしてるんだ、早く掃除して準備手伝えよ」
「俺は今目の前にいる人に、いきなりドアを閉められて……顔を打ったところなんだよ……鼻が痛いぞ……」
「ああ、だから赤くなってるのか……じゃあ準備するぞ」
「え? それだけ? ……おい蒼真、それだけ? おい……どこ行くんだよ、まだ話は終わってないぞ!」
後ろで何か言っているが、相手にしている時間はない。早めに終わらせて俺はゆっくりしたいんだ。後ろで叫んでいるのはほっといて……今日はお客さんは来るのだろうか……
叫んでいる京介に、並べられた椅子に寝転んでいる店長。何時もどうり……何も変わってはいない。さぁ、早めに終わらせて、俺も寝ようかな……
「この映画はね、お兄ちゃん、大好き、取られないようにするには、で検索したら出てきたんだよ!」
(※嘘です)