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昼休みと悪巧み

 何やらいい匂いがする……少しだけ目を開いて見ると、鼻のすぐそばには焼きそばパンが置かれていた。そうか……パンの匂いだったのか。


「いただきます」


 誰のかは知らないが、俺の机に置いているということは俺へのプレゼントなのだろう。ならば遠慮せずに食べてしまうの一番だ。


 パンを掴んで見ると袋が少し開いている。だから匂いがしたのか……いくら俺だからって袋に入ったままのパンの匂いは分からない……


 誰が開けたのかは知らないが、きっとすぐに食べれるようにしてくれたのだろう。怪しいがお腹が減っている、何か言われても知らないと言えばいいだろう。


 パンを腕の中に隠すように入れて周りを覗くように見ると、教室にいる生徒はまばらだった。弁当を食べている人達がいることから恐らくもう昼なのだろう。


 うつ伏せに寝て、そのまま誰にも見られないように少しずつパンを袋から取り出していく……


「ふぅ……やっと取り出せた」


 パンを袋から取り出すだけで疲れたのは初めてだ……しかしそのおかげでやっとパンを食べられる。パンに挟まった焼きそばがこんなに輝いて見えたのはきっと幻ではない。


「では、いただきます!」


 両手にパンを持ちまずは一口たべてみると……


「美味い! こんなに美味しい焼きそばパンを食べたのは初めてだ……」


 やはり苦労した後に食べたパンは美味しい……パンをくれた人には感謝しなければいけないな。誰かは知らないが。


 食べ終わったパンの袋ををポケットに入れて椅子から立ち上がる。誰にも気づかれぬ内に証拠を捨てなければいけない、どこかのゴミ箱に袋を捨てに行かなければ……


「どこ行くんだよ蒼真」


「ゴミを捨てに行くんだよ、邪魔をするな」


 いつの間にか前の椅子に座っていた馬鹿に気がついた。椅子を後ろに向けて見つめてくる馬鹿……気味の悪い笑で俺に笑いかけてくる姿は不気味だった。


 気にせずに歩いていこうとすると馬鹿に立ちはだかれ、腕を組んで見下ろすように見てくる……身長は俺の方が高いので逆に見下ろしているが。


 本人もそのことに気づいたのか、自分の椅子を持ってきてその上に立った。上履きはそこらへんに放り投げて再び腕を組む。


「さっき……食べたよな? 食べたんだろ? そのポケットに入ってる袋出せよ」


「何をいってるんだ……それよりさっさと椅子から降りろ、目立ってるぞ」


「認めるんなら降りてやろう、認めないんならみんなの前でバラすぞ」


「何をだよ……俺は何も隠してないし、嘘もついていないぞ」


 気づいているのか? そんなことはないはずだ……バレないように食べたのだ、そうでなかったらさっきまでの苦労はなんだったというのだ。


「蒼真……その頬に付いている焼きそばはなんだというのだ? 俺が気づいてないとでも思っているのか?」


「これは……多分朝食べた焼きそばパンが付いていたんだろう、そんなにおかしいことか? お前だって確か制服に食パンを引っ付けて来ただろ?」


「そ、それとこれは別だ! そんなことより蒼真の頬に付いている物はなんだ! さっきまでそこにあったパンを食べたんじゃないのか?」


 どうやら気づいていたようだ……どうりで俺に対して強気なわけだ、弱みを握ったつもりなのだろう。だが素直に認めては何をされるかわからない。


 あんなに気持ち悪い笑を浮かべていたのだ、きっと何か悪巧みでも思いついたのだろう。あのパンが誰のかが分からない限り認めるわけにはいかない……これ以上クラスメイトと仲が悪くなるのは好ましくない、あの馬鹿の物ならいいのだが……


 そもそも誰か俺に近づくこと自体あまりないのにパンなど置くのだろうか? もしかしたらこの馬鹿が俺の机にパンを置いたという可能性もある。


 だがわざわざ俺にパンを食べさて何を脅すというのだろうか? パン一つで何かが起こるわけでもないのだが……


「ねぇ、誰かここに置いといた私のパン知らない?」


「私は知らないよ……何処に置いてたの?」


 いきなり後ろから声が聞こえてきて息が詰まる……後ろを覗き見ると、すぐ後ろの席で二人組の女子が何かを探しているようだった……


 思わず馬鹿の方を見ると今だに椅子の上に立っている。その顔はにやけていている、椅子を蹴ってやりたい衝動に襲われたがなんとか抑える……


「なぁ、京介は何が望みだ……言ってみろ」


「あ、ああ、蒼真には今日から俺のことを名前で呼んでもらうぞ! 馬鹿はダメだからな!」


「わかった、だから早く助けてくれ!」


 これ以上問題を起こせば、今でさえ来にくい学校がさらに来にくくなる……早めにば……京介を説得しなければ……


「ふはははは、じゃあそのポケットに入っているパンの袋を出しなさい」


「ほらよ……これでどうすんだよ?」


「どうするって……今は気分がいいからゴミを捨ててきてやるんだよ」


 そう言ってスキップしながら教室から出て行く京介の背中を、ただ見守ることしかできなかった。どういうことなのかが分からない……


「あ、こんなとこにあった!」


「あったの? 机の中に入ってたんだ……びっくりさせないでよね……」


「あはは、ごめんなさーい、どうしてもチョコパン食べたくって」


 後ろで楽しそうな笑い声が聞こえてきた……じゃあさっきのはなんだったんだ? 呆然と教室を出て行く、名前も知らない女生徒の背中を見送った……


 周りでは楽しそうに弁当などを食べている生徒達がいるので、静かに椅子に座る……あのパンは京介が置いた……ということだろう。そして俺が食べるのを待っていた……ということか。


 あのパンは馬鹿が置いていたもので、さっきの名も知らぬ女生徒は机に置いていたパンを探していた……そしてそのパンは机の中に入っていた……ということか。


 運がなかったということか……馬鹿が後ろの席からパンを盗んで俺に食べさせたと思ったのだが、どうやら俺の勘違いだったようだ。


「たっだいまー! 待ったか蒼真?」


「煩い、さっさと席に座れ」


 スキップしながら教室に入ってきて、右手を振って近づいてきた馬鹿。周りから少し笑われている……こいつと同類と思われたくないな。


「そんな言い方するなよ……ほら苺のジュース」


「どうしたんだこれ? また何かお願いでもあるのか?」


「違うよ……今日から蒼真が俺のことを名前で呼ぶんだなって……ここまで長かったな……」


 俺の机に椅子を向け、片手の肘を机に付けて手のひらに顎を乗せている馬鹿……その目は、屋上でフェンスに寄りかかっている女生徒に向けられているような気がした。


「あっ、白だ」


 なんだろう……すごく殴ってやりたい気持ちだ。今だに屋上に目を向けている馬鹿に対してそう思ってしまった。しばらくの間机にうつ伏せになる……


 見ていると殴ってしまいそうだ、こうしているのが一番いいだろう。馬鹿のためにも俺のためにも。そうしている間にも、馬鹿の呟くような色の報告は続いた……




「なぁなぁ蒼真! あのお菓子取ろうぜ!」


「はいはい、分かってるから……」


「ねぇねぇ!僕と二人っきりでプリクラ撮ろうよ! お菓子なんて後で買えばいいよ!」


「分かってるから引っ張るなよ、後で取ってやるからいじけるなよ京介」


 腕を組んでくる優樹を剥がして、お菓子がたくさん入っているUFOキャッチャーの前で、お金を入れてないのにボタンを連打している京介に声をかける。


 声をかけるとこっちに来たが……ため息を吐きながらお菓子の山を見ている。京介のことは後にしてまずはプリクラでも撮ろう。男だけのプリクラは少し寂しいが……


「あれにしようよ! 蒼真早く!」


「わかったから引っ張るなって……」


 優樹がお目当ての物を見つけて、手を引っ張って来る。正直男だけで入るのは抵抗があるが、仕方ない……優樹を先頭に三人で入る。


 お金を入れて、よくわからないが適当に押していく。別になんでもいいだろう。何時もは優樹が操作するのだが、長い……制限時間ギリギリまで選び続けるので今日は俺がやっておく。


「なんで僕にやらせてくれないの蒼真? 僕が選びたかったのにー」


「優樹が選ぶと長くなるからな、後ろでいじけてるば……京介もいるし早めにしよう」


 思わず馬鹿と呼びそうになってしまった……京介のお願いからこいつのことは名前で呼ぶようにしている。昼が終わり、昼寝から起きた時つい呼んでしまったのだが……いじけてしまい掃除道具を入れるロッカーに入って、その後三十分出てくることはなかった。


 時間が経って出てきた時には埃だらけになっていて、哀れな姿に思わず近づくなと言ってしまい、再びロッカーに入って行く京介を見た。そんな姿を見ていると名前ぐらい呼んであげようと思ったのだ……


 別に人を虐めて喜ぶような性格ではないので、変えてやったのだ。たまに長年呼んでいたためか、呼んでしまいそうになるが……


「じゃあ僕と蒼真が前で、お前は映らないようにしとけ」


「ま、まぁまぁ、一緒に撮ってやろうじゃないか……端っこの方にでも写れよ」


 俺と京介の扱いに凄い差がある優樹……このことから京介は優樹が苦手なようだ。冗談のつもりが、本当に隅っこの方へ移動し、右下の方にギリギリ顔だけ写るんじゃないだろうか……というぐらい画面に映っている京介だった。


 一枚目を撮り、どうやっているのか気になって見てみると……そこには体の下半身のほとんどが外にはみ出している京介の姿があった。


 上半身だけを撮るのではなく、全体を撮る時だったようで、このような事になっているのだろう。写真に映っている京介の顔は悲しそうだった……


「入ってこいよ京介……そんなとこに寝転ぶと汚いぞ……いいだろ優樹?」


「蒼真が言うんなら……あんまり近づくなよ」


「ありがとう蒼真……実を言うとさっきおじさんに踏まれたんだ……可愛い子なら良かったのに」


 思わずそのままでいろ! と言いそうになったが、ゆっくり力なく立ち上がる京介を見て何も言えなかった。外からは何かのゲームの音が少しだけ聞こえるが、ここだけ静かな気がした……


 撮り終えた写真はそれぞれ分けて配っておく。UFOキャッチャーでお菓子を取った後、喜んでいる京介と、プリクラを眺めて嬉しそうにしている優樹達と分かれ、家へ帰るために歩いて行く……

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