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ダンテライオン

作者: N澤巧T郎

私は名もない一匹のライオン。

この自然界の頂点に君臨している。

人は呼ぶ、百獣の王と。

私はそのライオンの中のライオン。

ハーレムなんぞつくっているそこらへんのやわなライオンとはまったく違う。

私は気高い一匹ライオンなのだ。

狩りなんぞ私一人で十分だ。

群れで狩ろうなんぞ弱者のすること。

私は一人でこの自然の中を生き抜いているのだ。

これからも。

いつまでも。


グ〜


ふふっ。

いくら百獣の王と言っても腹が減っては威厳も保てまい。

ちょうどいい。

目の前にトムソンガゼルの群れがいるじゃないか。


ハラヘリライオンは草から出ないように身を低くしながら一歩一歩踏み出していった。


ぬあきし。

さしあし。

忍び足っと。

!?


一匹のトムソンガゼルがこちらを振り向いた。ライオンは口から水を垂れ流している白い石造のように固まった。


・・・・・・・・・・・。


するとトムソンガゼルは下を向いて草をパクパク。それを見たマーライオンは。


今だ!!!!


一気にそのトムソンガゼルに突進。


フンッフンッフンッフンッ!!


トムソンガゼルムも気づいて逃げるが一歩遅かった。


そこだ!!!


ガブリンコ


見事なものだろう?

クビを一発だ。

さすが気高い一匹ライオンだろう?

そうだろう?

さて、誰も聞いてないし食べるとするか。


ハラペコライオンはその場でハラにかぶりついた。


ムシャムシャ

グシャグシャ


腸はちゃんと噛み切らないとね。

喉に詰まっちゃうから。

ん?

なんだ?


5mくらい前方から小さいトムソンガゼルがこちらをジーっと見つめている。

そのトムソンガゼルを血まみれの顔で見つめ返す。


生まれたてのトムソンガゼルじゃないか。

どうしてこんなところに?

ああそうか。

私が群れを襲ったからはぐれてしまったのか。

まあ俺の知ったこっちゃないがな。


再び流れ出た内臓にかぶりつく。


ムシャムシャ


ふー。


一通り食べ終え顔を上げる。そこにはさっきのトムソンくんが。


なんだ。

まだいるのか。

早くどこか行け。

群れを追うもよし。

ココに残るもよし。

残された人生はお前の自由だからな。


そう真っ赤な顔をして言った満腹ライオンはスッと立ち上がった。するとまだ小さいトムソンガゼルくんがピョンピョンと跳ねるようにして近づいてきた。


っておいこっちにくるな。

体を寄せてくるな。

あっち行けって。


しかしエジソ、いやいやトムソンくんは離れない。


別に今は腹が減ってないから食わんが腹が減ったら食うぞ。

ホントだぞ。

ほら、だからどっか行けって。


それでもいっこうに離れようとせずにピョンピョン周りを跳ね回っているエプソ、いやいやトムソンくんにライオンさんはもうどうでも良くなってしまいました。


私はハラが一杯になったから寝る。

それじゃあな。


そう言ってその場で寝始めたライオンさん。食ってすぐ寝て牛になるかもしれないライオンさん。


ク〜

ク〜


ん、ふぁ〜あ。

よし、牛になってないな。

ムムッ。

こやつ隣で寝ておるわい!!

まったく、私が怖くないのか。

私の威厳はどこへ行ったのやら。

……。

しかし…なんとも言えん寝顔だな。


トムソンガゼルくんはそれはそれは安心しきった顔で暖かそうで嬉しそうで幸せそうでなんというか、なんとも言えない寝顔をしていました。そんなガゼルくんをライオンさんはずっと、静かに、なんとも言えない顔で見ていると、


お、起きたか。

なんだ?


混ぜる、いやいやガゼルくんがライオンさんのハラをなにやらまさぐり始めました。


そうか、乳を探しているのか。

残念だが私には一つしかついとらんからな〜ハッハー。


ガゼルくんはライオンさんの顔を純粋無垢な眼で見つめています。


ちょっとまだ早すぎたかな、うん。

さて、どうしたものか。

メスライオンのとこなんてつれてったら速攻で食われるだろうし。

う〜む。

ん?

ちょうどいい。

そこのゾウ。

ちょっと待てい。

ゾウ。


ゾウの親子が2頭こちらに近寄って、母親象が言いました。


「なんだいライオン。私の子供を食べるつもりかい?」


そんなことしたら私の命がないことくらいわかっておるわ。


「それじゃあなんのようだい。こっちは育児で大変なんだよ」


こやつのめんどうをみてやってくれ。


「ん?なんだいこの子は。トムソンガゼルじゃないか。どうしたんだ」


なぜかオレのことを怖がらんのだ。

オレの威厳も地に付いたもんだ。


「ふっ、何をいまさら。まあいいそんなことならお安い御用だ。ほら、こっちへおいで」


トムソンガゼルは4本の足をプルプルさせながらなんとか母親象の乳を吸うことに成功した。


うむ。

いいのみっぷりだ。


「そうだ。ウチの息子とも遊んでやっておくれ」


私に言わんでその子に聞け。


「どうだ?遊んでくれないか?」




トムソンガゼルくんとゾウくんは仲良く遊んでいます。


「それにしても、ライオンがトムソンガゼルを育てるなんて聞いたことないよ」


耳をパタパタさせながら言った。


育てとらん。

腹が減ったら食うさ。


頭の上に鳥を乗っけて言った。


「はっ、無理だね。あんたの眼をみりゃわかる」


鳥を10匹くらい乗せて言った。


ふん、歳よりはイヤだねえ。


たてがみを風になびかせながら言った。


「まだ子供を産めるんだ。そこまで歳食っちゃいないよ。ただ、これで最後だろうがね」


鼻をふりふりしながら言った。


そうかい。

それはそうと、踏まれないだろうな。


ぞうくんはトムソンくんの周りをバタバタと走り回っている。


「大丈夫だろ。たぶん」


ぞうくんとトムソンくんはもみくちゃになっている。




「それじゃあ。また来るよ」


ああ、ご苦労さん。


ゾウの親子はお尻をふりふりさせながら仲良く帰っていった。


ん?

遊びつかれたか。


トムソンくんはライオンさんによりそって寝息を立てて眠っています。


うむ、いいねむっぷりだ。


ライオンさんはトムソンくんを囲うように眠りに突きました。




それから数日後

今日もゾウの親子がやってきて子供同士で遊んでいます。


「そろそろ腹が減ってきたんじゃないのかい?」


そうだな。

そろそろ食べるか。

どっこいしょ。


そう言ってライオンさんは子供とは反対方向に歩いて行きました。


「どこいくんだい?」


今はシマウマが食べたい気分なんだ。


「あんたは一生トムソンガゼルを食べる気が起きないだろうね」


どうだか。




こうしてライオンさんとトムソンくんの毎日が淡々と過ぎていきました。トムソンくんも草を食べられるようになりました。だけどまだまだ子供のトムソンくん。いつでもどこでもライオンさんの後を追いかけます。だけどライオンさんはまだトムソンくんに対してそっけない態度をとっています。ライオンとトムソンガゼル。ライオンさんも古いライオンですから、そう簡単には心を開けないのでしょう。そんなある日の夜のこと。



しかし、大きくなるのは早いもんだな。

前まであんなに小さかったんだがな。


ライオンさんの前でスッと立っているトムソンくんを見てつぶやきました。するとトムソンくんはライオンさんをその真っ黒なよどみのない瞳で見つめ、


『お父さん』


と、言いました。するとライオンさんは目をる丸くして、


なんだ?

お前が言ったのか?


と、聞き返しました。


『そうだよ』


トムソンくんが答えました。


初めてしゃべったと思ったら何を言ってるんだか。

私はお前の父親でも、母親でもない。

それに私はいつだっておまえを食べることが出来るんだ。

そんな私が父親なものか。

私はライオンなんだ。

トムソンガゼルじゃない。

ライオンなんだ。


するとトムソンガゼルくんは凛々しく力強い目でライオンさんを見つめながら言いました。


「それでも、僕の父親はあなた一人です』


ライオンさんはしっぽでパタパタと3回くらい地面をたたいて言いました。


もういい。

寝よう。

明日はゾウが来る。

明日をめい一杯過ごしたいならよく寝ることだ。


『わかってるよ。とうさん』


いいから寝ろ。


『お休みなさい。お父さん』


ライオンさんは心の中で“おやすみ”と優しく語り掛けました。





ふぁ〜あっと。

朝か。

おい、朝だぞ。

起きろ。

おい。


トムソンガゼルくんはいっこうに目を開けようとしません。そして、さっきまで確かに感じていたぬくもりがそこにはありませんでした。


おい・・・・・・。





「おい、ライオンよ。どうした」


ライオンさんは立ち尽くし、地面を見つめ続けていました。


ゾウよ。

私にもよくわからないんだ。


「ん・・・・・・・・」


ゾウさんは、周りでハエが飛んでいて、眼をつむっているトムソンガゼルくんを見ました。


「・・・・そうか・・・・・・・そうか・・・」


それを一緒に見ていたゾウくんが、


「お母さん。なんでトムソンくんは眼を覚まさないの?」


と、聞くと母親ゾウはやさしく言いました。


「ぼうや。トムソンガゼルくんはね。死んでしまったんだよ」


「死・・・・・・」


「ようく覚えておきなさい。この世に生まれたときからいつもそばにあるもの。それが死。いつもは隠れているのに。いつも突然私達に牙を立て、そして必ず傷を残していく。それが死」


「でもお母さん。トムソンガゼルくんは笑ってるよ」


「本当なら親からはぐれた時点で死んでいたんだ。それが少しの間だったけど生きれたんだ。幸せだったんだろうね」


ゾウさんは、優しく微笑み続けるトムソンくんを見つめながら言いました。そして、ゆっくりとライオンさんが口を開きます。


本当に幸せだったんだろうか。

こんな孤独なライオンに育てられて。

私はこの子に何をしてあげた?

こんなに速く別れが来ると知っていれば。

最後に、おやすみと言ってやればよかった。


ライオンさんは見つめ続けました。


「私たちは行くよ。ライオン。おまえは誰よりも強く、やさしい父親だった。この子もそれを誇りに思っていただろうよ。おまえはこの子を全身全霊で愛していたさ」


ゾウ親子はいつもより小さくお尻をフリフリさせて帰って行きました。そしてライオンさんはいつも寝るときのようにトムソンくんをやさしく包み込みました。そして、もう動くことのないトムソンくんの体を優しく舐めてあげました。舌から伝わる温度がライオンさんに事実を突きつけます。ライオンさんはそれからずっとトムソンくんの横にいてあげました。何日も何日も、何も口にせず、ただただ横にいました。そんなある日、




「おいライオン」


一匹のハイエナが現れ、やせ細ったライオンさんに投げつけるように言いました。


なんだ貴様ら。

なんの用だ。


「何のようだって?わかるだろ?あんたに用はない。あんたの横でくたばってる方に用があるんだ」


貴様ぁ!!


ライオンさんは立ち上がり、ハイエナを睨みつけた。


「俺たち、腹減ってんだよ」


すると続々とハイエナが現れた。


「あんたが食べないんだったら俺たちにくれよ」


「ってか、今ならあんたも食べれそうだけどな」


ハイエナがやせ細り肋骨が浮き彫りになったライオンに向かって言いました。




いいか貴様ら。




大地を踏みつけ、たてがみを風になびかせ、眼を見開き、牙を見せつけ、ハイエナどもに言い放った。





私は誇り高き百獣の王ライオン!!

誰であろうと我が子に一匹たりとも手出しはさせん!!!




果てしなく続く大平原に悲しみと怒りに震えたライオンの叫びが響き渡った。


「出来ると思ってんのかよ。その体で」


そう思うならかかって来い。

容赦はせんぞ。


しばらくライオンとハイエナたちはにらみ合った。そして、


「ふっ、別にいいさ。死体ならそこら辺に転がってる」


だったらさっさと立ち去れ!!

さもなくば命の保障はないぞ!!


「おうこわこわ」


ハイエナたちは後ろを振り向き歩き出した。2,3歩あるいたところで振り向き言った。


「まあいい。おまえがくたばったときはオレが食ってやる」


ライオンはハイエナたちを睨み続けていました。

そしてライオンはトムソンくんの隣に前足を使って穴を掘りました。そしてトムソンくんをやさしく鼻で押してその穴の中に入れました。そして掘り返した土を元に戻しました。こうすることでハイエナやハゲタカはトムソンくんを見つけることが出来ないと知っていたからです。ふたたび孤独な一匹ライオンとなったライオンさんは眠りについたトムソンくんに向かって、それは優しく言いました。


「・・・おやすみ」


土の中でトムソンくんは永遠に微笑み続けます。雨でもないのに乾いた土がポツポツと色が変わりました。










おっと、雨が降ってきたか。

ちょっと木陰で休むとするか。

ふう。

ん?

なんか聞こえるな。

幻聴?

じゃないな・・・。

あ・・・。


地面には産毛に包まれ口を大きく開けて鳴きまくってる小鳥が一羽。


ピーピー


孤独な一匹ライオンと小鳥が見つめあう。


・・・・・・・・。


ピーチクパーチク


・・・・・・・・。


ピピーピピー!!


ライオンは眼をつむり、過ぎ去りし日を思い返した。

そして、ゆっくり眼を開けた。


ミミズねミミズ。

ちょっと待ってろよ。


雨はすでに止み、たんぽぽの綿毛がそよ風に舞っているのでした。



tHe EnD 


果たして自分はライオンさんのような父親になれるのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私もこんなライオンが大好きです。
2009/04/20 00:55 通りすがり
[一言] 号泣しました。死体をここまで守るなんて・・・すごすぎる。
[一言] 泣かない奴は心が無いな
2007/09/25 21:43 桜のライオン
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