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5 ゲーテの言葉

桐子は惨めな気持ちで帰路に着いた。やっと見つけた自分の居場所が、唯一心穏やかに楽しめる癒しの場が無残にも破壊されてしまったのだと思った。もうあそこには行けないと思った。


あそこに行けば桐子の自信が容赦なく打ち砕かれ、傷が深く、大きくなるばかりだと思われた。


家に帰ると早速おばあちゃんに呼ばれた。おばあちゃんは

「自分は頭がおかしい」 とか

「この頃は生きていたくないし、かと言って死にたくもない」

などと訳のわからないことを言っている。


桐子はおばあちゃんを適当にあしらうとお風呂に入って布団に入った。気がつくと頬に涙が流れていた。孤独で惨めだった。


彼女はもともと寝つきが悪い方なので、このままでは眠れないままに一夜を明かしてしまいそうだった。何とか今の状況を好転させなければ、とその方策を考えているとあるゲーテの言葉を思い出した。


正確ではないかもしれないが、確か「すべての恐怖と不安を打ち払うのは活動」とかいう言葉だった。まだまだ自分は若いのだ、こんなことに負けてたまるか、という気持ちになってきた。よし、明日は早速行動に移そう、自分に言い聞かせたらいつのまにか眠っていた。


 朝、目を覚ますと庭でうぐいす色のメジロがかわいい声で泣いている。窓を開けると朝日が差し込んで眩しい。そして桐子の頭の中にモーツァルトのオペラ魔笛の調子のいい序曲が流れ始めた。


1階へ行き、おばあちゃんの血圧を測る手助けをすると朝食を食べ、しばらく新聞を読むなどして時間を潰してから、ケアマネジャーさんに電話をかけた。


 ケアマネジャーさんは定期的に月1回来てくれるのだが、今日は臨時で来てもらった。ケアマネジャーさんとおばあちゃんと桐子の3人でお茶を飲みながら最近の生活や、世間のよもやま話などをしていたが、途中で桐子は切り出した。


「週3回の夜の3時間ずつのヘルパーさんの訪問はとても助かっているのですが、昼間もとっても大変で、振り回されっぱなしで息が詰まりそうになるんです。


週2日の午後のみのデイサービスの時は少しホッとできますし買い物などのちょっとした外出もできるのですが、おばあちゃんが家にいる時は戸締りの件もあるので、外出できませんし度重なる同じ質問に頭がおかしくなりそうになっているんです。


このままでは精神衛生上よくないと思うんです。何か手立てはないでしょうか?」


桐子はおばあちゃんの目の前でケアマネジャーさんに相談をしているのだが、これは全く問題ないのだ。というのも、最近のおばあちゃんはこうした会話についていけないのだ。


それは病院に行った時に顕著に表れる。医師が何を話してもおばあちゃんは分からないので、付き添いの桐子がすべて対応するのだ。その証拠にそんな時、おばあちゃんはこうつぶやくのだ。

「お医者さんが何を言っているのかさっぱり分からなかったよ」

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