21 Yes and No の苦悩
桐山さんは静かに語りだした。
「大学に入学して柄にもなく男声合唱団に入ったんだけど、すぐに交流のある女声合唱団のある女の子が好きになったんだ。
その頃の私は高校が男子校であったこともあり、女の子とつき合ったことがなかったばかりかデートの誘い方にも疎かったので、いきなり告白して当然のごとく断られてしまったのだ。
しかしその頃の私は、どんなに冷たくされても情熱的に愛を注げばきっと恋は実ると強く信じていたんだ。なので振られても何とか彼女にアプローチする作戦を考え続けていた。
そんなある晩、大学のコンパでビールを飲んでいたら、妹が彼女と同じ合唱団に属している男がいたのだ。そこで好きな彼女の話をすると、俺の家に来いよという話になり、彼の家に遊びに行き、妹さんに恋愛の話をすると、協力してあげると言って自分の部屋に行くと一冊のノートを持って戻ってきた。
それは合唱団員たちが順番に書いている日誌で、内容は合唱団のことばかりでなく、何でもいいということらしい。プライベートなことなども書けばその人の人となりが分かり、みんながより理解しあえるということだそうだ。
そのノートの中の彼女が書いた箇所を見て、彼女の好きなものを探せばいいというアドバイスだった。
読み進めてみると、彼女はベートーベンの第九が大好きであることが分かったのだ。折りしも12月になったところであり、来週は彼女の女声合唱団の定期演奏会だ。そこで私は一計を案じたんだ。
先ず第九のチケットを2枚買った。その上で定期演奏会には豪華な花束を買い、そこには一言添えたカードをつけて受付に渡した。
その花束は演奏会終了後に受付係から彼女に渡されるはずであり、それはかなり嬉しいことであることを私は知っていたのだ。
演奏会後私は自宅に帰り、彼女の反応を待った。すると思った通り彼女から電話が来たのだ。彼女は予想通り上機嫌で感謝の言葉を述べた。私はその瞬間を待っていたのだ。
『ベートーベンの第九のチケットが2枚あるんだけど、一緒に行きませんか?』
彼女は一瞬沈黙になったが
『ええ、是非』
と応えた。
やったー、遂に彼女との初デートが実現する、やはり情熱は通じるのだ、と思った。ところが翌日また彼女から電話が来て
『あの、私、第九に行くのはやめました』
私は理解に苦しんだ。映画やテレビドラマでは、ここまでやれば相手が分かってくれておつき合いが始まるではないか。どうしてこうなるのかな。難しすぎる」
「うーん。女の私にも分からないわ。難しい人を好きになっちゃったのね」




