17 桐山さんの辛い恋愛経験(1)
長い間人生を生きてきて、苦労して母を育ててくれた方のことをこんな風に言ってはいけないのだろうが、今のおばあちゃんはある意味子供と同じで、車で出かける時など何をするか分からない。
なのでそんな時桐子は気持ちが張りつめっぱなしでひどく疲れてしまう。でもどんなに疲れていても、ガールズバーのバイトに行く日の夕方は疲れは吹っ飛んで気持ちが高揚してくる。
そこは週3回、たった3時間ずつではあるが、いろいろあっても自分の居場所だと思えるようになってきた。
最近はもちろん桐山さんと話せるのが一番うれしかったが、あるドラマの中で誰かが片思いも立派な恋愛だと言っていたのを思い出し、つきあったりはできなくてもこうして同じ空間で呼吸できて、たまにでも楽しく話せるだけでいい、それが分相応だと思ったりしている。
そして以前のように、どうしても桐山さんと話したいなどと力まないようになると、案外意外な時にお鉢が回ってきたりするもののようで、この頃は桐山と続けて話せたりしているのだ。
桐子はやや甘えるような口調で
「桐山さん、今晩は。先日私の悩み聞いてくれたじゃない」
「ああ、あのきんつばの話ね。とても桐子ちゃん興奮して語っていたよ」
「今度は桐山さんの話しを聞かせてよ。そうね、悩みっていうか、桐山さんの恋愛遍歴とか。どう?」
「ははは、そんなに経験豊富な方じゃないよ。奥手な方だと思うし」
「女の子を振ったことってある?」
「どうかな。振られたことは山ほどあるんだけど、振ったこともあるよ。とても苦い経験なんだけどね」
「へーっ、聞きたい!聞きたい!」
「実はね、中学3年生の時に、どういうわけか学年というか学校で一番の美女が私に近づいてきたんだ」
「近づくって、どんな風に?」
「一緒に受験勉強しようって言ってきたんだ」
「えっ、やばい。それで一緒に勉強したの?」
「まあね」
「それ以来一日おきに放課後教室で二人っきりでの勉強会が始まったのさ。机は横に並べていてお互いにわからないところや自信ない箇所を質問し、教え合った。
私は本当は乗り気ではなかったんだけど、始めてみると思ったよりはるかに楽しく、盛り上がった。彼女は数学が得意で、私は英語が得意だったんだけど、このやり方なら苦手な科目も楽しく勉強できるので学力アップが期待でき、二人とも積極的に教え合うようになっていったんだ。
素晴らしいでしょう!辛く孤独な受験生活を乗り切るには理想的とも言えるんじゃないかな。
ただ一日おきとはいえ、しょっちゅう二人で教室で話しているので、さっそく二人はつきあってるなどと噂が立ち始め、この意外な組み合わせに生徒たちは驚くとともに、やっかみや妬みの声が聞こえ始めたんだ。




