①起:前世記憶
いつもと同じ朝。
けれどどこか思考がスッキリしているような。
身を起こし、眠いのが残る目覚めで欠伸。
目を擦り、ふと目に入った部屋。
違和感。自分の部屋。だけど重なる記憶はもっと近代的な。
私の名前はユニアミ。
城下町に住む住民の中では割と恵まれた環境。父と母。歳の離れた兄。
私の歳は7。小学1年生だろうか。
違う、学校と言えるのは魔法学園だけ。
その学園までの幼少期、裕福な家庭は家庭教師を付け。
一般の家庭は、近隣の教会に集まり読み書きなどを習う。
それもお昼に、パンと飲み物を提供して女神レイラリュシエンヌ様に祈ってから食べる。
満たされた状況の眠い中、貧しい家庭を支える一環。
それでも貴族とかそんな階級も曖昧で。
この一般家庭にさえ、水洗のトイレとお風呂。個別の部屋。
生活には困らない環境はありがたい。なんて緩いゲーム設定。
私は転生したんだ。
この世界で生まれ育った記憶がある。そして前世の記憶も。
この世界レティッシラがゲームだという知識。
ヌルゲー。安易な乙女ゲーム。
私はそのゲームに登場すらしないモブ。
けれど。他に転生者がいないなら、私が主役になることも可能。
この世界を知り尽くした私はチート。
「ステータスオープン。」
ラノベで読んだ記憶。恥ずかしげもなく試してみる。
すると、なんて都合が良いのか。漫画で見たような一覧が目前に現れ。
アイテムや所持金はゲームした当時のまま、レベルはカンスト。
無いのはクリアに必要なアイテムだけ。
それも簡単に手に入るだろう。
なんて楽しくてワクワクするのだろう。
今、ゲームのシナリオは、どの辺りだろうか。
服を着替え、母の仕事場に向かう。
母は薬師。この環境を生かせるとすれば。
あのイベントがまだであることを願う。
大勢の人を、私が救えるのだから。
きっとこれが私の転生した理由。
女神レイラリュシエンヌ様の加護に違いない。
この世界を救うのは私だ。
「あら、もうこんな時間。朝ご飯にしましょう。お父さんを呼んできて。森の入り口とはいえ気を付けるのよ。」
この世界には前世と同じものが数多くある。
時計。24時間を刻む。
呼び名は異なるけれど、太陽や月と同じものが空に。
目を上げた視界の端。
初心者の森に煙。
お父さん!
「お母さん、森に煙が。ギルドに連絡して!」
母が止めるのも無視して、森に走る。
私なら、魔法で消すことも出来る。
使ったことはないけれど、それどころではない。
炎が上がり、その熱で近づくことも出来ない程。
どう魔法を発動しようかと立ち止まる。
すると上空に大きな水の塊が生じ、それが破裂するように弾けた。
炎の鎮火。
それでも熱がまだ残っていて、森に入るのは困難だった。
私には何も出来なかった。
お母さんが呼んだギルドの人や、神殿の人達が森の捜索をする。
まだ前世の記憶が戻ったばかり。
魔法も使えず。父を喪った。
もう誰も死なせたくない。
この世界に生まれ、この世界で生きていくから。
原因不明の火災。
冒険者の不始末だろうと結論が出た。
誰が水魔法で鎮火したのか、それも不明。
父は冒険者の登録をしていた。
ギルドの依頼があれば、受けると昼から出かけ。何日かいない時もあった。
居る日の朝は、母の調剤に使う薬草を採るのが日課だった。
その日課を兄と私ですることになる。
お兄ちゃんは優しくて、魔法が使えた。
教えて欲しいと言ったけれど、私には使わないで欲しいと頼まれた。
使えるとしても。
兄が見ていた未来がなんだったのか分からない。
ゲームをしてシナリオを知っている。
チートだってできる。聖女にもなれる。そう夢見た主人公に。
前世の記憶に、焦りのようなものがあった。
けれど、この世界で生きる私は。
冒険者だった父親は死んだ。
生活は苦しくなる。
今までの蓄えでは、兄の魔法学園の進学を左右するほどに。
これが現実。
この歳では冒険者登録するにも後見人が必要。
冷静になる。
これはゲームじゃない。
私が聖女にならなくても、誰かがこの世界を救う。
けれど、王子様とか騎士と仲良くなりたい。
それは可能だろう。
父が亡くなって数日。
兄の進学をどうするかの話が出て、お兄ちゃんはお金が工面できないなら冒険者になると言った。
まだ前世の記憶を役立てる事も出来ない私には、どうすることも出来ず。
家族の話し合いの場で、私は黙ったままだった。
朝に、お母さんから頼まれた薬草を探して集め、家に戻って朝食を食べる。
昼までの間、私は母の調剤を手伝った。
そして合間に関連する本を読む事にした。
お母さんは、私の質問に対して丁寧に教えてくれる。
私には見つけたい薬草があった。
その情報を見つけなければ、この世界を“私が”救う事はできない。
それは私だけ。この環境だからこそ。
この世界に生まれ育った故。この両親の元に生まれてきたから。
誰かを救う。
出来るなら、お兄ちゃんには学園で学んで欲しい。
家族を救うのは私。




