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⑫異界世紀末記―最後の聖女―  作者: 邑 紫貴
第二章:逆行 エルティナ

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②承:聖女見習い


神殿での奉仕。

朝の礼拝から始まり、掃除に洗濯。

清浄な状態にしてから料理に食事、後片付け。

休憩もなく聖女や過去の歴史を学ぶ。

魔法学園と同等の教育。

召喚された聖女にとっての2年。

それを見習いは5年間、学園の入学前に学ぶ。


彼女の努力は、こんなところにもあったのかと目の当たりにする。

学園で他の生徒と同じように学び、休みの日には神殿で復習と予習。

休みなく。家族にも会えず。


私は他の見習いに負けるわけにいかない。

魔法はもちろん、座学も。

私は恵まれている。

家族との交流も週に一度は許され、誰も欠けることなく。

未来を回避した家族。多くの国民。

誰かが回避している。

聖女様はまだ召喚されていないのに。

一体、誰が。


「エルティナ、こちらへ。」

神官ライオネルに呼ばれ、女神レイラリュシエンヌ様の像の前。

私は両膝をつき両手を組んで祈る。

あの時のような啓示はない。

あの事を誰にも言っていない。

それでも家族やライオネルは風を感じ、私に期待の目を向けた。

「ライオネル様、何か。」

「聖女エルティナよ。」

「いえ、私は聖女ではありません。それは女神レイラリュシエンヌ様に誓って申し上げます。私から聖女見習いに候補したとはいえ、聖女様になりたいわけではありません。なってはいけない。本物が未来に現れるのですから。」

まるで予言のような言葉。

ライオネル様は、以前とは違う。

感情を抑制された無表情だった記憶がある。

そして言葉はどこか棘があるような、時に鋭かった気がする。

私が聖女様を嫌っていたからかもしれない。

けれど、今のライオネル様は穏やかに微笑んで。

丁寧な言葉だけれど、棘など感じない語調。

「そうですね、予告された魔王の復活。それに備えて、私達は常に努力をしなければなりません。あなたの弛まぬ努力、何がそうさせるのかと。問うまでもありませんでしたね。」

心配してくれたのだろうか。

「ありがとうございます、女神レイラリュシエンヌ様に祈る機会を増やしてくださり感謝いたします。」

この礼拝堂は特別。

日課の礼拝では入れない場所。私達は見習いだから。

「あなたに女神レイラリュシエンヌ様の加護がありますように。」

ライオネル様は私に微笑んで、そう告げた。

『加護』とは。

私も穏やかに微笑んだ気がする。


学園では学ばない部分。

聖女とは。清廉潔白。自己犠牲。

なんとも抽象的。言葉の羅列。

だけど私は知っている。

彼女こそ聖女そのもの。

努力と忍耐。家族との愛を求め帰ることを願い。

希望を捨てず。この世界の為に。

私にそれが出来ただろうか。

出来ない。望んでいない場所に来て。

あぁ、なんと尊い存在なのだろう。


与えられた環境は当たり前じゃない。

失ったものを得るなど贅沢な話。

だからこそ家族との一時も無駄にしたくない。

学べる時間も、聖女様が来るまでの期間。

私に出来ることを探して。

この世界は無理でも、この国民一人の為に何が出来るだろうか。


「ライオネル様、この本の事をもっと詳しく知るにはどうすればいいですか?」

神殿に集められた伝記の巻物や、口伝の走り書きの写し。古代魔法や古代言語。

ありとあらゆる知識を吸収し、それでも見つからない答え。

「どれほどの考察をしたのですか。」

「3つの証拠が欲しいのです。2つまでは見つかりますが、可能性を広げると覆る。そんな不確かな情報は切り捨てなければ。」

何を信じるか。

私には分からないから。

「エルティナ、あなたが目指すのは聖女ではないと私に告げたのはいつの事でしょうか。」

「もう3年です。後2年しかありません。」

「まだ魔王復活には猶予があります。」

「聖女様が来るのです!学園の入学前、召喚されて。私は、それまでに何が出来るのかと。」

「……召喚?何を言っているのですか。」

はっ。

それって、まだ秘匿されている事?

思わず出た言葉に、口を押え。

私は何も変わっていないのだと、自己嫌悪する。

「ライオネル様、ごめんなさい。忘れてください。私は書物を読みすぎて、何か勘違いをしたのです。誰にも言いません、誰にも言わないでください。」

あぁ、本当に成長しない。

取り乱すなど、見習いにもふさわしくない。

ライオネル様は私の両肩に優しく手を乗せ、穏やかに微笑む。

心音が自分に聞こえるほどバクバクしている。

「息をゆっくりと吐きなさい。」

ライオネル様は私の目を見つめたまま。

言われた通りしなければ。

私は軽く吸った息を吐き出し。

それを繰り返して、少しずつ長くしていく。

「落ち着きましたか?」

「はい。」

落ち着いたけれど。

今度は情けなさに、涙が零れた。

それは無意識に近く感情的でもない。

自然と溢れて零れ落ちていく。

ライオネル様は優しく抱き寄せ、私の背中を撫でた。

「よく頑張っていますよ。あなたは無理のしすぎです。焦らなくてもいい。私がいます。魔王だって倒せるでしょう。この世界もきっと。」

そう、聖女様がもうすぐ来るのだから。

魔王だって。この世界だって。きっと。


「召喚など、昔に滅んだ失敗の記述しか見た事がありませんからね。未来を切り開くのは、常にこの世界に生まれた者なのです。だから勇者も見つかったのですよ。」


召喚はない。

世界を救うのは。




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