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⑫異界世紀末記―最後の聖女―  作者: 邑 紫貴
第二章:逆行 エルティナ

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①起:繰返し


目覚めると、そこは自分が普段使用しているベッドの上。

手は震え、全身を伝う汗。熱が奪われるような寒さ。

思い出せるのは、手を伸ばした先に居る婚約者。

自分に向ける婚約者の視線はいつもと同じ。

会場内は静まり返り、王子の吐き出された言葉だけが聞こえる。

私に告げられたのは婚約破棄。

覚悟していた。

あぁ、何をしても。何を言っても無駄なのだと。

そこで私の意識は途切れた。



「お嬢様!あぁ、目覚めたのですね。」

ベッドで身を起こした私を見つけ、慌てて走り去る侍女に問う時間もなく。

私はあの後、気を失ったのだろうか。

しかし何か違和感がある。

汗を拭おうと、手をこめかみに当てると髪の毛先が腕に触れた。

横髪が短い。血の気が引くのが自分でも分かる。

髪を切られてしまった?いつ。どうして。

理解できない状況に言い表せない恐怖。

ベッドから降り、鏡の前に走って向かう。

化粧台の鏡。目にしたのは幼い顔の私。

手を両頬に恐る恐る。指先が触れる感覚。

込み上げた感情に伴う叫び声が、部屋に響いた。


私の部屋に集まった家族、専属の医師、侍女を含めた家に従事する数名。

私を心配し、落ち着くようにと宥め。

お母様が取り乱す私を抱き寄せた。

温かい。まだ生きている。

救わなければ。そう思った。

「ごめんなさい。もう大丈夫です。」

ベッドに運ばれ、そこに横になり。

医師の質問に曖昧に答えた。

今がいつなのか。

触れる感覚はある。夢ではない。

それでもこの現実が受け入れられなくて。

もう一度、目覚めたらまた違う年齢の自分になっているのではないかと。

あの地獄のような場所に引き戻されるのではないかと。

不安と恐怖。

私の背は低く、顔は幼く、髪は短い。

お母様が生きている。

この状況は。

きっと女神さまの加護に違いない。奇跡。


私に出来ることは何だろうか。

もう二度と繰り返さない。

私の過ち。


流行り病の蔓延に、治療の魔法や薬が作られた。

そう聖女様の癒しによる結果、もうあの悲劇は繰り返さないのだと目にし。


今ならお母様を救える。犠牲を減らせる。

決意を新たにした翌日。

自分が婚約前で、病の蔓延後の10歳だと知る。

正確には、病は早期に発見され。

それに効く薬草を使用した料理が、人々を救ったのだと聞いた。

私が救わなくても、お母様は無事。救われた。

それならば。私は。


「お父様、私は聖女見習いに立候補します。」

婚約を回避する方法。

それは神殿に奉仕し、女神レイラリュシエンヌ様に使える事。

結婚が出来ないわけではない。

その道のりは厳しく、ある程度の魔力を持った者に資格があり、過去の私が拒否したもの。

聖女見習いになる事は、王子との婚約と同等の、この家にとっては名誉な特権。

学園の卒業間際までの知識があるなら、試験は簡単だろう。

王子は私ではない人を選ぶのだから。

聖女にはなれないのは分かっている。

本物は召喚されて来るのだから。

この世界ではない場所から、家族と引き離され。

努力していたのを知っている。

ずっと耐え、周りも見ずに。

この世界を救うために尽くしていた聖女様。

あなたに関わることはしない方が良いと思う。

けれど、何らかの支えになりたい。邪魔はしない。

未来は決まってやってくるから。


私の決意に、両親は神殿に私を連れて行ってくれた。

出迎えたのは、聖女様を支えていたライオネル様。

歳の近い姿。あぁ、やはり時は過去なのだと実感する。

王子ユーリスも側近の騎士フリックも、今は同じように幼いのだろうな。


初めて会ったユーリス。ずっと優しかった。

けれど、それは恋ではない。私の望んだ場所でもない。

お父様が望んだのは、更なる家の権力。

お母様を喪った故。

未来は変わった。

お父様は私の錯乱状態を見たからか、今回の『聖女見習い』の件さえ押し留めようとした。

もしかすると婚約の話すらでないかもしれない。

そうかと言って何もせず、未来を変える努力をしている人達に任せてはいられない。

だってここは私の住んでいる世界だから。


「決意の見える目です。行きましょう、女神レイラリュシエンヌ様の像のある場所にご案内いたします。」

心配して私の後ろを歩くお父様とお母様。

そしてお兄様。あなたも近い将来、魔物に襲われる予定が消えた。

最悪な未来を回避した者。私以外に、未来を知る者がいる。その努力をしている人が。

私には何が出来るだろうか。


礼拝堂の中。中央に位置する天窓からの光を受け。

穏やかな微笑みを浮かべた女神レイラリュシエンヌ様の像。

その前に両膝をつき。手を組んで祈りを捧げる。

すると。一瞬、目を閉じているのに暗闇を感じ。

閉じたまま恐怖に包まれる。

これは注いでいた光が遮断されたのだとすれば。

私は相応しくないのでは。


『あなたに加護を与えましょう』


頭に響いた声。

そして目を開けると、光は像から私の所まで伸びてきて。

閉ざされた部屋に、穏やかな風が吹いた。


この世界を私も救う。




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