④聖女エルティナと神官ライオネルと誰か
私は聖女見習いに立候補し、神官ライオネル様の元でまた学ぶ。
「聖女エルティナよ。」
「ライオネル様、まだ私は見習いですよ。」
そう答えると、ライオネル様は少し口元を緩め。
「私にとって、聖女はあなた一人だと告げたのを覚えておられるでしょうか。」
覚えている。決して忘れない。
けれど。
「いいえ、私の中で聖女はリセ様だけです。誰が、何と言おうと。だから。あなたには聖女と呼ばれるより、ただの見習いエルティナでいさせてください。」
聖女は生贄。私のこの恋心は、永遠に叶わない。
あなたの為にも命を懸ける。あなたはこの国の神官。未来を担う一人だから。
「私を守って死ぬなど、決して言わないでくださいね。」
ライオネル様は口を閉ざし、私をじっと見つめ。
「わかりました。」
表情の読めない顔。それでいい。
「エルティナ、ギルドからの報告がありました。ユニアミとロレインの父、そして勇者ジークハルトの父親を含め、冒険者数名を無事保護。火災による被害は最小限に止めることに成功したとの事です。」
火災は必要。
魔法使いマリーには悪いけど、少しのトラウマは我慢してもらわないと。
転移者だからか、マリーにはループの記憶が残ることがなかった。
私にしても、残ることが希少。
全てを覚えていたのが王子ユーリス。
私の願いの元凶だからか。それも神の領域。
「今回の未来回避、ユニアミの全面支援を行うように。」
ユニアミしか知らない方法。所持できない種。
それは聖女リセ様からの支援。
「エルティナ、あなたが望むのはユーリスなのですか?」
「いいえ、私が望むのは国民の未来。ユーリスには、挫けている暇など与えてあげないわ。贅沢よ。望む者を常に隣にいるようにしているのですから。」
ユーリスはこの国の王に相応しい。
本当に国民の事を優先できる女性を見つけたのだから。
幾度と繰り返し、記憶に残る中。手放してあげることもできるのに。
ユニアミが、この世界で生きることを望むから。
私は聖女として生贄に相応しいだろうか。
罪を償う必要がある。許されない罪を犯し。
ライオネル様は神官。女神レイラリュシエンヌ様に使える。
人として転生したのなら、オリアンヌ様の元で仕えたいのではないのかしら。
「さぁ、エルティナ。記憶があるとはいえ、聖法の訓練はやり直しですよ。」
手を差し出され。私はその手を取る。
「神官ライオネル様、お手柔らかに。」
これくらい触れるのを許してくれるかしら。
あなたとの時間。自分が聖女に相応しくないのは理解した上で。
聖女リセ様に少しでも近づきたい。だから、この想いは。
「神官ライオネル様、私が臆病になったら。また逃げようとするなら。あなたが私を殺して欲しい。」
手を引く後ろ姿のライオネル様は、足も止めず。
前を見つめたまま。返事はなかった。
私はもう涙は流さない。泣いても未来は変わらなかった。
死ぬ度に繰り返すけれど。それももう終わり。
聖女リセ様は、この世界に一度しか来ていない。
それならあの人は。
誰…………
「エルティナ!」
名を呼ばれ、霞む視界。
倒れたのか、横になっている自分。
神官ライオネル様の腕に抱かれ、上から注がれる視線。
その表情が悲しくて。
思わず手を伸ばし、ライオネル様の頬に触れた。
「ごめんなさい、疲れが出たのかも。前にも、顔色が悪いと注意を受けたような気がするわ。駄目ね、体調管理も出来ないなんて。」
「いいえ、まだあなたは幼いのですよ。記憶を積み重ねているとはいえ。無理をさせてしまったのは私です。」
腕の中。この時が少しでも続くことを願ってしまう。
駄目だ、私に願う権利などない。
「ライオネル様、あなたには役目がありますよね。ユニアミの未来回避。行ってください。時間を無駄にしないで。」
もう二度と繰り返さないと誓ったから。
国民の誰も死んでほしくない。回避できるのなら。
私は目を閉じ、聖法を唱える。
回復の祝詞。
「……エルティナ、私はまだ神官になっていない時期なのをお忘れなく。」
口に何かが触れる感触。
目を開けると、間近にあるのはライオネル様の顔。
触れたのは。
「な、何を。そんな事をしては。」
「ふ。だから言いましたよね。まだ、私は神官になる前の見習いだと。きっと女神レイラリュシエンヌ様も許して下さるでしょう。いえ、許して下さらなければ彼女の邪魔をするのも良いでしょう。」
何を言っているのか。
見習いだから許される事ではない。
「ライオネル様、このことはなかったことにします。」
「いいえ、起こってしまったことを取り消すことなどできません。でしょう?」
そう。なかったことに出来るのなら。
けれど、それとこれは。
「ふふ。さぁ、あなたをベッドまで運びましょう。残念です、神官にならない未来なら。」
「聞こえないわ。何も聞こえない!」
この幼い一時を。私は願ってしまいそうになるから。
優しくしないで。この想いは絶たねばならない。
キスなど。忘れなければ。
ライオネル様は神官にならなければ。
これ以上、未来を変えるわけにはいかないから。
願ってはいけない。手に入れない。
……あれは偶然手に入ったものではない。
誰かが意図して私に持たせた。
それが誰だったのか、私の記憶にはなかった。




