③転:守護者
ライオネル様が見習いから正式に、最年少の神官になり。
雪解けの祭りが開催される次期。
神殿では薬草の話題が中心。
あぁ、病の蔓延。誰かが回避したんだと思った。
どの時期に自分がいるのかさえ、分かっていなかった。
自分の年齢と、ライオネル様の年齢差。
ジークハルトが私と同じ、年上になっているとして。
むしろ経験を積むには不利ではない。
10年くらい魔王の復活までに猶予があることになるのだろうか。
聖女の召喚もまだ先。
私に出来る事。
レジェス先生から制御の方法を学び、学園を覆う結界を施すことに成功した。
完璧な防御。聖法の一つ。
適性があるから聖女候補にはなっているけれど。私は相応しくない。
だから聖女見習いには、立候補しなかった。
私以外にゲームの事を知る人がいるのか。未来回避をした者がいる。
その人が、ゲームクリア必須のアイテムを持っているのだろうか。
考えても仕方ない。
聖女様の召喚は将来、確実に行われる。決定事項。
私はレジェス先生と共に魔法の研究に没頭する。
将来、魔王を討伐するなら必要な連携は必須。
私は、勇者に任命されないままのジークハルトと依頼を受けて実戦を増やしていく。
ところが。勇者に任命されたのは、冒険者ロレインだった。
私は、どうすべきなのか。
明らかにゲームから逸脱した。
私がジークハルトと共に居たから?
転移したから何かバグでも起きているのだろうか。
勇者任命の知らせを受け、約束したジークハルトとの依頼に向かう事を戸惑う。
重い足取り。待ち合わせ場所。
「どうした、マリー。体調が悪いのか?そうなら、今日は俺だけで依頼を受けるけど。どこかで休むか。」
「行くわ!」
ここで一緒に行かなければ、死亡フラグのようで怖くなった。
「無理するなよ。」
優しいジークハルト。何故。
資質はゲームの設定と変わらず。何故、違う人が。
病の蔓延を防止した薬師の息子。料理のレシピを作ったのは妹。
未来回避したのはロレインの妹、幼いユニアミ。きっと転生者。
「ジークハルト、あなたは勇者として冒険に参加したいと思わないの?」
「は?勇者はなりたくないな。けど。行けるなら、魔王討伐に参加したい。あいつを殺すのは俺だ。」
あいつ。まるで、知り合いみたいなセリフ。それは。
「マリー?最近、特に無理をしているように見える。」
無理を。
無我夢中。何かに没頭していなければ、余計な事を考えてしまうから。
零れ落ちた何か。無意識の涙。
「あれ、何で。」
次々に零れ落ち、止めどなく流れていく。
ジークハルトが優しく抱き寄せ。
「ほら、無理してる。どうした、何があった。言ってみろ。」
「……帰りたい。」
私は、そう言って口を閉ざす。
そう。帰りたい。自分の家に。自分のいた世界に。
もう帰れない。帰る資格がない。
誰かを殺していたかもしれない無責任な遊び心。許されない行為。
「マリー、君を望む人がいる。俺が触れただけで、呪い殺されてしまいそうだ。」
私を望む?呪い?
顔を上げ、目元を拭う。
「今日は、ゆっくり休め。お迎えが来たんだ。」
距離をとって、ジークハルトは私の後ろを見つめる。
振り返ると、そこに居たのはレジェス先生。
「行け、俺が魔法で殺されかねない。殺気に満ちて。ふ。懐かしい感覚に、何故か微笑みそうだ。煽ったつもりはないんだけどな。」
ジークハルトに背を押され、私はレジェス先生の元に走った。
「先生、どうしてここに?はっ。勇者の事で何か。」
「いえ、行きましょう。マリ……マリー、顔色が悪い。ちゃんと寝ていないでしょう。数日、休日を与えます。これ以上の無理をするなら、魔法で眠らせますからね。」
「ごめんなさい。」
何故か怒られてしまった。
体調管理もできないのかと、反省。
頭にそっとレジェス先生の手が触れ、立ち止まる。
視線を向けると、近づいてくる顔。
そっと額に触れるキス。
私は目を閉じた。
レジェス先生からの癒しの魔法。
思わず笑みが漏れてしまう。
唇はそっと離れ。
目を開けると。レジェス先生の視線を受けたまま。
重なる唇。それは。
「私では、あなたの悩みを解消できないでしょうか。」
キスの後、そう悲しそうな表情で問われ。
私は顔を真っ赤にして。何も答えられなかった。
自分に何が起こったのか。
寮に帰り、ベッドに横になる。
無理をしてきた。その上、理解できない状況に知恵熱。
情けなさと、信じられない程の幸せ。
この世界で生きることを許されたようで。涙が零れる。
優しく触れる。冷たい布?手?
誰かが看病してくれているのかな。
「お母さん……ごめん。」
創作の物語。
私が読んだどの話も、転移や転生でその世界で生きる楽しみ。
ワクワクやドキドキを無限に提供し。
苦難も乗り越えて、ハッピーエンドを約束された王道。
これは現実。
きっと帰れない。帰りたい。これはゲームじゃない。
誰かを殺していたかもしれない。その罪悪感。
炎が自分を焼き尽くすような熱、息苦しさ。
自分が受けるべき罰なのではないかと。
誰かの為に死ぬ?
そんな聖女みたいな高尚なものじゃない。
逃げ道として、決まった未来に少しでも自分が生きた証。
霞んだ視界。
「真理、あなたは私が守る。」
あぁ、私はあなたと生きたいと願う。




