②承:存在意義
私は監視対象なのか、寮に入り学園生活を強いられた。
ここにいる意味。そんなの私が知りたい。
来たくて来たわけじゃない。
本当に?
ラノベを夢見た。異世界転生。異世界転移。冒険にチート。
転移者になれた事、ここに来られた事が嬉しかった。
けれど現実は違う。
もし転移が私の能力であれば、望めば帰れるはず。
どんなに願っただろうか。
本当は分かっている。これはゲームではない現実。
では、誰が?
『女神レイラリュシエンヌ様の加護を受けし者が世界を救う』。
私には加護がない。
それどころか、秩序を乱したかもしれない。
勇者の年齢が違う。
神官見習いのライオネル様。レジェス先生は設定でいけば、年齢が近いのだろうけど。
勇者ジークハルトは、私と同じ15。学園に通える年齢。
それなのに。まだ勇者として発見されず、任命も受けず。
入学のチャンスは流れた。
聖女は召喚される。秘匿された情報。
それはいつ?
私は、聖女適性の検査結果が出たと呼び出され。神殿に向かう。
聖女ではないと、レジェス先生に言われてしまったのに。今更。
「適性があることが判明しました。さて、あなたは火を怖がるそうですね。過去、初心者の森に火災が生じたのですが。それはあなたが原因ですか?」
「ごめんなさい、転移したばかりで。魔法が使えるのだと思うと嬉しくて。向こうの世界で知った知識を、軽い気持ちで試しました。」
「そうですか。幸い、誰も被害に遭いませんでした。レジェスが実習で、近くに居たのですよ。倒れたあなたを救護したのは彼です。」
レジェス先生が。
あの火災で誰も被害がなかった。
考えもしなかった。あの炎で、自分が死ぬかもしれない恐怖で。
誰かが死ぬなんて思いもしなかった。
「適性がある?でも聖女様は召喚されるのでしょう?私ではない。」
「それを決めるのは、女神レイラリュシエンヌ様です。」
私が聖女に相応しくないのは明らか。
転移に浮かれ、安易に森の中で火の魔法を使い。制御も出来ず。
対処もせずに気を失った。
それから火の魔法を使うのが怖い。
周辺の木を一瞬で覆い尽くしたように、自分もそうなるのではないかと。
「来なさい、制御を教えます。応用すれば、あなたの防御魔法は聖法として結界を施せるでしょう。」
いつからいたのか、レジェス先生が扉の前に立ち。
私を呼び、待つこともせずに背を向ける。
あぁ、推しに嫌われてしまった。
私に出来る事。
ゲーム『レティッシラの聖女~女神の加護を受けし者は世界を救う~』。
何度も周回して、推し以外の攻略もした。
お気に入りのスチルやシナリオが頭にある。
アイテムも魔法もあるのに。お金だけを使い、自分の生活に充てた。
私が何の為にここにいるのか?
そんなの私が楽しむ為だと思っていた。
だって、ラノベでも王命が嫌で城から逃げ出してスローライフ。
代役が居て、本来の役目から外れて自由になるじゃない。
チートで誰からも好かれ、可愛いモフモフに囲まれて。
このゲームだって。
現実は違った。
私は誰かを殺していたかもしれない。
もう元の世界では生きられない。人殺しなど許されない。
私は魔法の制御も出来ず、チートにもなれない。
ナゼ、コノセカイニキタノカ。
「マリー。あなたの本当の名は?」
私は顔を上げる。
レジェス先生の後を付いて来て、辿り着いたのは学園の屋上。
自分の情けなさに、目に涙が溢れ。視界が霞む。
零れ落ち、頬を伝う涙は熱を伴い。外気に触れて、冷たくなって地面に落ちた。
「伊井田 真理。背が低いけれど、学園に通える年齢。冒険者登録も、読んだ創作の物語に感化された。ごめんなさい。この世界がゲームだと、私の知っている情報だけで楽しく生きられるのだと思った。ごめんなさい。……私の役目。もし聖女になる事を求めるのであれば、責任をとって生贄になる。」
「真理、それは言ってはいけない。聖女の役割は、そこで終わりではないのをあなたは知っているはずです。」
これはゲームじゃない。
クリアに必要なアイテムが手元にない。設定の場所になかった。
この世界は滅びてしまうかもしれない。
私は。帰る場所も、家族もいないこの世界で死ぬ。
「ふう。真理……いえ、魔法使いマリー。あなたが選んだのは聖女ではなく、魔法使い。それならば、魔法を教える教師である私は、あなたを立派な魔法使いに仕上げる義務があります。さぁ、涙を拭って。空を見上げなさい。」
渡されたハンカチを目元に当て、少し涙も乾いてきたように思う。
目を上げ、空を見つめる。
地球と同じ。名前は異なるけれど、日が沈み。夕焼け。
「綺麗。」
「この世界を、救う一人に。なってくれませんか?」
この世界を救う一人に。
そう。冒険に。勇者と一緒に魔王を討伐する為に。
ゲームに登場した王子、騎士、神官ライオネル様。そしてレジェス先生。
きっと一緒に来てくれる。
私が、その一人に相応しくなれば。
「なりたいです。私がこの世界に来た意味。もう元の世界に戻る資格もないと覚悟したから。火も、使いこなしてみせる。」
「ふふ。火は使わなくてもいいですよ。私が補佐するので、不足などありません。」
私は、この世界を救う一人になる。




