①起:魔法使い
私の名前は、伊井田 真理。
この世界は、お気に入りのゲーム『レティッシラの聖女~女神の加護を受けし者は世界を救う~』。
転移した場所は、初心者の森だった。
ラノベ大好きな私は、すぐに悟る。これが異世界転移だと。
「ステータスオープン。」
漫画で見た事があるような透明の画面。
浮かび上がったように見える文字。
並んだ属性の違う魔法。スキル一覧。
あぁ、私は魔法が使えるんだ!
それにお金やアイテムがゲームをやり込んだ時のまま。
この世界で生きていける。
私は手のひらを前に向け、叫ぶ。
「ファイアーボール。」
火球が一直線に、森の中を突き抜けた。
その線上、並んだ木々が炎を纏い。一気に燃え広がった。
茫然とする。
急速な熱の上昇。息苦しさ。
これはゲームではなく、現実。
混乱と恐怖。
私はその場で意識を失った。
神殿の礼拝堂。
女神レイラリュシエンヌ様の像の足台。
そこに隠し扉があり、その中にはゲームをクリアする必須アイテムがある。
星の形をした石。
それは使用時に眩く光り、魔王を一撃で倒せるのだ。
ヌルゲー。だってこれは乙女ゲーム。
重要なのは、誰と仲良くなってハッピーエンドを迎えるか。だから。
私の推しは学園の魔法を教えるレジェス先生。
だからこの世界で魔法使いになる。
他のキャラが嫌いなわけない。
聖女が召喚され、誰かと結ばれる。
でも、その役割は生贄。
私は転移者だから、自分の好きに生きる。
お金は十分にあるから。この世界の知識も。
誰と誰がハッピーエンドになるのか、私の関心はそこだった。
異世界を満喫するには、王道の冒険者登録。
推薦の必要がない年齢は15。
背が低いから登録時に疑われたけれど、小説や漫画で見た嘘を吐いていないか調べるアイテムが反応せず。
冒険者カード発行時、私の血液で表示された登録情報。
公に見える情報で、実年齢は証明された。
後は学園にどうやって入るか。
勇者ジークハルトは分岐で、学園に通うルートが少ない。
私の推しは、レジェス先生。他はどうでもいい。
ジークハルトと同じ依頼を受けたりすれば、一緒に学園に入れるかもしれない。
お金には困っていないし、アイテムもある。
火の魔法は怖い。他の魔法で魔物を倒そう。
数人で討伐する依頼を受け、防御や攻撃力を上げるバフ担当の魔法使いとして参加し、攻撃魔法を使う人から学ぶ。
場数を増やし、依頼とは別に誰にも見られない場所で、弱い魔獣を倒す練習をした。
レベルはカンストして経験値など必要ないのに。
現実は手が震える。魔力の調整も出来ない。
勇者と認められる前のジークハルトを見つけ、積極的に行動を共にした。
防御魔法が認められ、私は神殿に呼ばれた。
神官見習いの幼いライオネル様。かわいい。
あれ?勇者ライオネル様と年齢に差がある?この世界は。
聖女の適性を調べられ、礼拝堂に入ることを許された。
チャンスが到来した。
膝をつき、女神レイラリュシエンヌ様に祈る。
像に近づく許可を頂き、隙を見て隠し扉を探したけれど見つからなかった。
焦って見逃すようなものではない。
隠し場所が違うのか、そこにクリア必須のアイテムはなかった。
ゲームと違う。クリアできないかもしれない。
その恐怖。
その後、学園に連れて行かれ。
推しに出会う。魔法を教えてくれるレジェス先生。
ゲームの設定より若い。
「来なさい、結界を施せるか試そう。」
学園の中庭。先に準備が整った手書きの魔法陣。
その中央に立つように促され。
「手を出しなさい。平を上に。魔法使いでありながら、あなたには基本知識がない。出生場所不明。あなたはどこから来たのですか。」
それは言ってもいいのだろうか。
「違う世界から。多分、召喚される聖女様と同じ場所。私は転移者。」
レジェス先生は私を見つめ、真偽を確かめようとしているのだろうか。
「召喚、まだ秘匿の情報です。あなたが聖女ではないかとも言われている。転移。そうですか。それなら、出来るかもしれない。」
ゲームで見た。私の望んだスチル。
レジェス先生から額にキスされるシーン。
あぁ、眼福だわ。
もったいないけど、目を閉じる。
唇の柔らかさと温もり。触れたまま。
ずっと続けばいいのに。そう願ってしまう。
その時間も終わり。
レジェス先生が私から離れ、手のひらを重ねる。
これはこれで嬉しい。
「集中しなさい。」
怒られてしまった。
気を引き締め、手のひらに集中する。
すると生じたのは恐怖。
「いやぁ!」
推しを突き飛ばしてしまう失態。
「あの、ごめんなさい。火だけは怖いの。」
「……あなたは聖女ではない。召喚されてもいないあなたが、ここに居る意味はなんでしょうか?」
レジェス先生の冷たい視線。
ここにいる意味。存在意義。私は。
ゲームに私、魔法使いマリーは存在しない。
ラノベであれば。この世界を救うのは私?
クリア必須のアイテムは、設定された場所にはなく。
私が、ここに来た意味は何かと問われても。




