③転:死を望むのは
ガーネットが望むのは死。
魔物の手当てをするのは同情や優しさではなく、自分を殺してくれるモノを確保したいだけ。
「なぁ、……確か双子の。オリアンヌ、それに適性なしのガーネットちゃん。」
ガーネットは時間を気にして、先に帰ってしまった。
魔物は弱り果てているのか、眠っている。
私達の殺気も分かった上だろう。
私は剣を構え直し、勇者だろうと容赦はしない。
殺気立ち睨んだ私に目も向けず、ガーネットが去った方角に視線をまっすぐ。
「なぁ、何故ガーネットは死を望む?君が死を望んでいるからじゃないのか。」
私が死を。望んでいる?
今まで私の方を一切、見なかったのに。
勇者ジークハルトは探るような視線を向け。
「やっと見つけた。隠していたのはお前か、オリアンヌ。」
「……勇者ジークハルト、お前はまさか。そんな、どうして。」
隠してきた。誰にも見つからないように。
巡り会う運命。
私も望んだ死。
この世界を救うため、勇者ジークハルトは選ばれた。
私も魔王の討伐に向かうだろう。
姉ガーネットを置いて行く。
私達の目的は同じ。
「あいつは見つからないのか、オリアンヌ。殺せ、それが神からの命令。忘れたとは言わせない。」
忘れていた。お前に会うまで。
だから死を願った。
神からの命令だったからこそ。死を望んだ。
「予告された魔王の復活。まだ時は来ていない。オリアンヌ、あの魔物はお前が殺せ。ガーネットを守れ、命を懸けて。俺もオリアンヌを守るから。」
簡単に言ってくれる。
魔物を殺せ?無理だよ、お前はそれが分かったから引くんだろ。
ガーネットが守護を与えた。
自分を殺すモノとして、誰にも害を及ぼすことが出来ないように。
いくら私でも近づけない。
学園に被害が出るとしても、ガーネットの守護が解除されることがないかもしれない。
そう私は思った。
けれど、数日後。
料理を与えると約束したユニアミに心許し、その守護が解除された。
近づくことが出来なければ、餌を与えることが出来ないから。
無意識だろう。
だから隙が出来た。
私は魔物を殺す。
ガーネットに悲しみはなかった。
自分を殺せるモノを失った怒りだけ。
そう、ユニアミがガーネットに向けたのは。殺意。
だからガーネットは油断したんだ。
きっと心地良かっただろう。
ユニアミの優しさだと思ったんだ。
なんて悲しくて純粋な願い。
ガーネットは消えたいと願い、その願いを叶えようとするユニアミの殺意。
優しさと勘違いするなど。
まだガーネットはあきらめていないのだと気づく。
生きる事。
死を願う私がそばに居てはいけない。
そっと距離を置いて見守る。
勇者ジークハルトは魔法が使えないけれど、みつけたオリアンヌを見守るために学園に来た。
最終的に、私も魔法が使えなくなった。
魔法の試験の度、違う魔法で対処してきた。
それを適性だと先生方は喜ぶ。
その都度オリアンヌに奪われているとも知らず。
そして学園の結界が張り巡らされた中。
突如として望む。恐怖。
勇者ジークハルトは不在。
ガーネットが狙って呼び寄せた。
私が殺す相手。
見つけた。時が来たんだ。
ユニアミの兄、ロレイン。
オリアンヌに向けた殺意。誘発したオリアンヌ。
あぁ、なんて巡り合わせ。
「……君になら、殺されてもいい。」
私に言って、その場を去ったロレイン。
そう。あなたを殺すのは私。
私もあなたになら、殺されてもいい。
「オリアンヌ、あなたは魔王の討伐に行くの?」
勇者と共に行く。けれど、その未来は。
私はガーネットに答えることが出来なかった。
その夜。役目を忘れるなと、警告のように夢を見る。
私の奥深く刻まれた使命。
大きな扉がゆっくり開いて、私の入った場所は何もない空間。
無限に広がる光に満ちた影のない神聖な場所。
地面ではないけれど、足場の確保された道。
後ろで閉じた扉は音も無く消えた。
もう戻れないのだと、私は思った。
とても静かで、他の気配はない。
一面光の中にいると言うのに、感じるのは孤独。
道を真っすぐ進み、円形の足場。
その中央に立つ。
どこからか聞こえてくる声。
「今後、その名を使うことを禁じる。故に消滅する時は本当の名が刻まれることもない。その覚悟があるか?」
ワタシは目を上げて答える。
「はい。新たな名で、与えられた役目を全うすると誓います。」
自分から言い出したこと。
その覚悟は、あの時に決まった。
「では、あなたの望んだことが成るように。」
これは反逆。
それなのに何故、送り出すかのような言葉を?
円形の外側から足元に迫る闇。
恐怖もなく、ただ目を閉じた。
「待て、私は許さないぞ!愛するモノに存在を奪われて、消えることが喜びなんて間違っている!」
あぁ、こんな時まで正論とは。
こんな風に別れが辛くなるし、決して理解してくれないと判っていたから内緒にしていたのに。
ごめん。もう決めたんだ。
ずっと共に居た君とも、永遠の別れだね。
許しは請わない。それが自分に与えられた役目だから。
あの時、決めたんだ。
私たちは必ず、また同じ時を繰り返す。
次こそは助けてみせる。
例え、あなたが私を殺すとしても。
一人で全うすると誓ったのに。
共に生れたのは、止めに入った君。
ガーネットは私が守り切る。




