④結:視える者は破滅を招く
廊下を走って、殺意を向ける者が居る場所に向かう。
学園にいない。いてはいけない年齢。
何とも不思議な巡り合わせ。
殺気がしたのは学園の裏庭。誰にも気づかれない場所。
そこに面した窓だったから、もしかしてと試した結果。
釣れた。優秀な人。そう、あのユニアミに触れた一瞬で。
結界の施された、この学園に誰にも悟られることなく侵入したのだから。
息切れ、額の汗を拭う私に姿を現し。
殺意は消えて、不機嫌ではあるけれど。
残念、ユニアミと仲良くしていると思われただろうか。
「で?確か適性なしの双子の出来損ないって噂のガーネット。何が目的だ?」
まぁ、封印に触れられたら起こるのは当然で。
それを壊すでもなく、ユニアミの敵でもなく。
知りたいのは目的。だろうな。
「そうね、私を殺してくれるかと期待した。残念。……いえ、そうでもないかしら。交渉次第では。」
まだ私には手がある。自分を殺してくれる方法を模索する。
目の前に居るのはユニアミの兄ロレイン。
「交渉ねぇ。しかもガーネット、君を俺が殺すとか。それではユニアミの近くに居られなくなるじゃないか。……まぁ、もう手遅れかな。俺が何もしなくても、ユニアミは魔王討伐に付いて行くだろう。」
この人の役割は終わったかのように。沈んだ表情。
面白くない。もっと願えばいいのに。
自分を解放して、自由になればいい。
「ロレイン、あなた復讐をしたくない?」
そう。あなたの願いはまだ、叶えるものがあるの。
簡単に終わらせない。私が死ねないのに。
「……俺が復讐?する相手……」
なんて頭の良い人だろうか。
少しの言葉、情報で答えを探す。
ユニアミ、あなたも頭が良い。そんな人は面白いから、とても好き。
無駄に生きている時間を忘れてしまえるから。
「キサマか?」
あぁ、また芽生えた殺意。
このまま殺されてもいい。心地良さ。酔いしれる。
きっと私は笑っていたと思う。
「違うな、学園にいるとすれば。……なるほどね。で?その確証は?」
殺意の中の冷静さ。
素敵な人、ただ妹を守るために生きてきたのだろうか。
優秀なのを隠して、ただの冒険者の一人。
勇者に選ばれなかった理由は。
きっと魔王など興味がないから。それでも旅には同行しないのね。
「ふ。なるほどって、答えが出ているじゃない。そうね、私の願いは叶えてくれる?」
「無理だね。君の妹が、すでに俺を狙っている。」
「はぁ。残念ながら、妹オリアンヌだけは視えないのよね。呼んでもいい?どうせ、何もしないわ。分かるでしょ?あなたと同類なのだから。」
そうロレインは妹を守るために生きてきた。
私の妹オリアンヌは、姉の私を守りたいと言う。同類。
呼んでもいないのに、オリアンヌは腰のある剣に手を当てたまま。
無表情で近づいてくる。
「オリアンヌ、いつからいたの?」
「ずっと。」
ずっと。無表情のまま平然と。
「ふ。ククッ。」
何がおかしいのか、和んでしまっては殺意など程遠く。
「これから、あなたはどうするの?」
きっとロレインは全てを把握して。
答えが出ているのだろう。
「何を?」
何を。どうするか。
「私の興味のない事まで含まれても。……ユニアミは、魔王討伐に付いて行くのね。」
「そう。あの子は優しい。宿命だと思っているようだ。俺が、どれだけの邪魔をしても。覆らない。……優柔不断な王子ユーリス。甘くて見ていたんだ。お菓子を渡すだけで、満足しているようだったから。」
私にも、ユニアミは国母など望んでいないように見えた。
それなのに。この世界の未来を左右するモノを所持している。
曇りのない決意の視線。まるで聖女のように。
私を見ていない。
彼女が見ているのは、この世界での生活。身近な人との幸せな未来。
「だから止めないのね。……あぁ、嫌だ。ここが転換点なのかと、気づいてしまった。私に意味など求められても困る。」
私は文句を言っているのに。ロレインはその場から消える。
オリアンヌは剣から手を放し、空を見上げた。
私も見上げる。
学園に施された結界。完璧な魔法。
「寮に帰りましょう、オリアンヌ。……あなたは魔王討伐に行くの?」
私の後ろを歩くオリアンヌは質問に答えなかった。
迷っているのかな。私の未来が分からないから。
あなたに分からないことは、私にも分からない。
その数日後、魔法使いマリーは行方知れず。
学園に施された結界は消えた。
補うように、神官ライオネル様が同等の結界を施し。
何事もなかったかのように、日々は過ぎて。
私達は学園を卒業した。
予告された魔王の復活。王命を受け、魔王討伐に向かう一行。
私は城門の人だかりに紛れて見送る。
勇者ジークハルト様を先頭に。王子ユーリスと、側近の騎士フリック。そしてユニアミ。
学園で魔法を教えていたレジェス先生。妹オリアンヌ。
私は行かない。オリアンヌは死なないから。
傍観者、だと思っていたんだけどな。
違った。それは、どこから決まったことなのか。
「ガーネット、どうして行かないの。君がいないと。」
気配なく現れたロレインは旅の準備が万端。
ユニアミを遠くから見守るのだろう。
「あなたには、もう私を殺して欲しいなんて頼まない。……あの子は渡さないわよ。」
私は、まだ死ねない。
to be continued




