③転:観察
聖女とは。
聖女見習いは自発的な申し出が基本条件。
強制されてなれるものではなく、神殿に奉仕し、女神レイラリュシエンヌ様に使える事。
規則正しい生活。清廉潔白。絶対条件は、ある程度の魔力を持った者。
聖女の適性がないと言われたなら、私に魔力はなかったことになる。
けれど、水の魔法と火の魔法。生活魔法の浄化。
特に最後の浄化は聖法の基本。
私が妹オリアンヌから奪ったもの。
奪った記憶がない。
いつ、どのように?私が聖女?
いいえ、聖女は私にとってユニアミ。
ただ彼女だけが相応しいと思う。
魔物が死んで、オリアンヌはギルドに報告をした。
死体を片付けたのは、王から一任された家系。
聖女見習いに実子が立候補したと。
魔物を手当てした布は剥がされていた。
私が匿っていたのは、ユニアミしか知らない。
約束を守って、誰にも告げなかった。優しい人。
ユニアミのお兄さん、オリアンヌが魔物を殺さなければ、学園に居たのなら被害にあっていたかもしれないのに。
聖女見習い。彼女にも同学年に兄がいた。
なんて巡りあわせだろうか。
私が殺したかもしれない人々。
その被害を食い止めたのは、私の双子の妹オリアンヌ。
私は聖女じゃない。
なれない。なってはいけない。罪を犯したから。
未然に防がれたからといって、それがなかったことにはならないから。
私は私。ユニアミの魔法が封印されているなら、私も魔法を使わない。
どうせならオリアンヌに返したい。私には必要のないものだから。
少し興味が湧いた。
きっとユニアミを聖女にしたくない誰かが封印した。
それが害を成すものなのか。
もしそうなら、命を懸けて邪魔したい。
とても優秀な人。
私もユニアミを、みんなの聖女にしたいわけじゃない。
けれど、聖女として認められた彼女を見てみたい気もする。
矛盾するこの気持ちは何だろうか。
なんて楽しいのだろう。
授業などどうでもいい。
魔法の授業をするレジェス先生。
魔法の適性がないと言われたのに、きちんと授業を受けるオリアンヌ。
本当に魔力がないのだろうか。嘘はついていないと思う。
私が奪った記憶はない。ユニアミのように、誰かに封印されている様子もない。
封印、触れたらどうなるかしら。
きっと尻尾を出すに違いない。
あぁ、私は殺されてしまうかも。
『私が守りたいのは、お姉ちゃんだから』
まさか。私の片割れ。どこまで私を先読みしたのか。
憎い。邪魔させない。
今度こそ。私を確実に殺してくれる人を探す。
誰でもいい。一番の願いは。叶わないから。
観察を続ける。
魔法の授業。試験の座学や実践。それで一番の成績なのは魔法使いマリー。
得意の魔法は何かしら。
この学園の結界を施したと聞いた。
防御系。聖法にも通ずる。なのに、聖女見習いにもならず。
見つかった勇者と魔獣や魔物を倒して、予告された魔王を倒す旅にも同行するのだとか。
欲がないようで、目的が不明。
欠点は火が怖い事。炎の魔法を使わない。
使えないわけないよね、だって私には視えるもの。適性の魔法が。
そう。きっと特別な人に違いない。
聖女候補者なのだろうか。
全て視えるならもっと楽しいのに。
私に視えるのは数名。
この能力がなんなのか知らない。
双子の妹オリアンヌには、きっと別の能力がある。
視えないけれど、片割れだからこそ感じる何か。
お昼、学食で食事を終えて次の教室に移動する廊下。
そこでユニアミから声を掛けられた。
「ガーネット、もしよかったら。試作のお菓子を食べて、感想をもらいないかな。」
観察していたのを感づかれたのかな。
近づきすぎたかもしれない。
「ありがとう。」
差し出されたお菓子を手に取り、口に運ぶ。
上等なバターの香り。口に広がる甘さ。
「美味しい。これも王子様に渡すの?」
嫌味など言ったつもりはないのだけど。
ユニアミは曖昧な笑顔。
「そうね。食べてくれると嬉しいのだけど。」
「婚約者が邪魔なら、私が何とかしようか?」
私の願いが叶うなら。
聖女のようなユニアミを悲しませるのが、誰だろうと。
「ふふ。あなたは強いのね。私が思ったよりずっと。」
言っている意味が分からない。私が強い?
首を傾げた私に。
「あの人に婚約者がいない。不思議よね。予告された魔王の復活が近いなら。」
婚約者不在。それは。
「ユニアミ、前髪に何か付いている。取るから触れてもいいかしら?」
「え、うん。お願い。」
私は手を伸ばし。
封印の施された場所に、そっと近づけた。
ジリッと痺れるような痛み。
あぁ、私の願いを叶えてくれるかしら。アナタは。
湧き上がる歓喜。
口元が緩んでしまう。
指を前髪に二回ほど払うように触れて。
「くすくす。ユニアミ、これからは誰にも触れられないようにするべきよ。油断は禁物。何をされるか分からない学園。そうね……けど何かあれば、私が助けになるわ。あなたは秘密を守ってくれたから。」
私は気づく。あぁ、この人は魔物を助けたかったんじゃないのだと。
そして、窓の外。私に向ける殺意の視線。
なんと心地いいのだろうか。
アナタは私を殺してくれる?
もう、ユニアミは必要ない。
私の邪魔をするとすれば、妹オリアンヌ。
ユニアミと別れ。
外に向かう。
私が願うのは死ぬ事。




