②承:聖女の適性
傷には生活魔法の浄化を使い、水魔法は控えた。
薬を買えるようなお金も持っていない。
塞がった傷が悪化しないように、教会でもらった刺繡練習用の布で覆う。
魔物は懐かないと学んだ。
すぐに大きくなって人を襲うと。
しかしそれは危険を教えるもの。
この行為を大人が知ったら、罰を与えられるだろう。
それでも、この命は生きているから。
お昼のパンを残し、それを与えて食べさせた。
大人しく、攻撃も威嚇もない。懐いているんじゃないかと錯覚する。
もうこの魔物が私を殺すなら。それでもいい。
いなくても問題はない。むしろオリアンヌから、双子の貴重性を奪いたい。
それなのに。
私から奪ったのは、オリアンヌだった。
数日で成長した魔物は、私の背丈を追い越していたけれど大人しく。
撫でると甘えるようにすり寄ってきたのに。
私が見ている場で。私より先に来て、待ち構え。
見知らぬオリアンヌに威嚇した魔物。
お父さんから貰った剣。
それを構えたと思ったら、左下に一度振って、勢いをつけて魔物に切りかかった。
確実に仕留めるつもりで。容赦なく。
魔物の首が飛び、一面の血しぶき。
それを浴び、拭いもせずに去っていくオリアンヌ。
血に毒性はなかったんだと知る。
悲しみより生じたのは怒り。
「酷い、オリアンヌ。どうして。そんなに私が嫌い?この子には何の罪もないのに。」
オリアンヌは剣を振るい、鞘に納める。
「お姉ちゃん、帰るわよ。」
私を見ない。無表情で、去っていく。
その場で泣き崩れた私を慰めてくれたのは、ユニアミだった。
昨日出会ったばかり。
魔物のことを秘密にしてくれて、私に優しくしてくれた唯一の友達。
だと思った。
けれど。共通の秘密はなくなり。
私達は、まだ学園に通う年齢でもなく。
彼女は神殿の神官ライオネル様に認められ、料理のレシピを学園に持ってきただけの人だった。
将来は、お母さんの後を継ぎ、優秀な薬師になるだろう。
私にとって魔物は魔物だった。
名もつけず。懐かれても情が湧くわけでもなく、殺されても奪われたとしか思わなかった。
妹の無表情。それに怒りを感じた事はない。
だって同じ存在だから。双子。ずっと一緒にお腹の中に居た。
私の片割れ。私の感情の欠如。私の中にあるのが、怒りや妬みであるなら。
あなたの中にある感情は何だろうか。あなたは言った。
『私が守りたいのは、お姉ちゃんだから』
あなたは正しい。
あの魔物は近々、私を殺しただろう。そして私以外の学生も。
それを分かった上で、魔物の傷を手当てし、毎日のように通って餌を与え育てた。
数日間、私が願ったのは。願いを叶えてくれる存在。
そう私に優しくしてくれたユニアミでもない。
学園に入った後。
ユニアミが望んだのは、王子ユーリスや側近の騎士フリックと仲良くなることだった。
もちろん、私にも声をかけてくれた優しい人。
だけどね、あなたじゃないの。私が欲しいのは。
それは偶然に遭遇した場面。
放課後、魔法のレジェス先生がユニアミに告げた。
「あなたに魔法の適性がありません。」
私は魔法が使える。一番の成績をとれるほどではないけれど。
同じ適性がない人を見つけ、自分が持っている能力に安堵し。見下した。
いいえ、常に劣った立場でありながら。妹オリアンヌに敵わない存在を、常に見下してきたのだ。
剣で負けたお父さん。魔法を呆気なく使い、応用までされて教えることが無くなったお母さん。
存在価値を、双子の優秀な妹に見出して。憐れな人達。私は違うと。
あぁ。こんなに楽しい事があるだろうか。
先生も理解していない。きっと優位に立ってきた優秀な人だから。
得意な魔法で、それも自分に特別に与えられたと思っている無詠唱の魔法で。
より優れた魔法の施されたユニアミ。
ユニアミ、あなたは呪われていた。
それが誰なのか私は知らない。知りたいとも思わないし、言う義理もない。
もうあなたは、聖女の適性がない私と同じ。魔法が封じられたかわいそうな人。
そう思っていたのに。
あなたには魔法など使えなくても、得意な料理があった。
あなたのレシピは人気で、学園の食堂も賑わい。城下町に菓子店が増えていった。
なんて素敵な人だろうか。私にとって、あなたが聖女。
私は知っている。あなたのレシピが世界の病蔓延から救ったのだと。
「姉さん、授業を受けないのはいけない。」
「オリアンヌ、あなただけでも私を名前で呼んで欲しい。オリアンヌの姉ではない私でいたいから。」
「わかった。ガーネット、行こう。授業に。遅れるといけない。」
オリアンヌは変わらず無表情で。私の前を歩いて行く。
お父さんが教えた剣術。それは歩き方も、まるで騎士のように。
整然とした身なり、隙のない警戒心。視界はあらゆるものに目を配り。
何をそんなに焦っているのか。片割れの私にも分からない。
聖女の適性があるオリアンヌ。
だけど本人が否定した。なれないのだと。それは。
「ガーネット、私に魔法の適性はなかった。聖女に必要な適性があると言われた後、失われたんだ。奪ったのは、あなただ。ガーネット。あなたには聖女の適性があることになる。」
私に目もむけず告げられた。
私に聖女の適性がある事。




