③転:幼き日
私は家に帰り、その日の出来事を母と兄に語った。
子どものように無邪気に、特別な薬剤の本を借りられたのだと。
もちろん見つけた巻物の事は、誰にも告げないようにと口止めをされた。
魔王復活に際し、聖女の足止めのような病の蔓延。
その解決方法。
けれど、それでは解決しない。
まだ私に出来る事、しなければならない事がある。
間に合うだろうか。
寒い季節が来る前だからギリギリかもしれない。
まだライオネル様が神官になっていないから、きっと大丈夫。
次の日、私は日課の薬草採取に兄と共に向かう。
アイテムボックスから出しておいた種を、父が亡くなった辺りに植える。
今もなお、焦げ目の残る回復しない木々。
それは不始末ではなく、人為的な魔法の痕跡。
誰かが魔法で火を放った。
その人か、煙を見つけて対応した誰かが水魔法で消火した。
魔力の少なからずある場所、だからこそ薬は育つだろう。
水魔法で潤うこの地は、乾燥しない。
失敗しない場所。
お父さん……
「ユニアミ、悲しい顔をしないで。そうだ!前に言っていた魔法の話をしよう。」
手を差し伸べられ、繋いだ手を引かれるままに付いて行く。
少し開けた場所に、光が降り注ぎ。
一面の花。
「わぁ。綺麗。」
「座って、さっき見つけた木の実を食べよう。朝ごはん前だけど、母さんには内緒だよ。」
優しい笑顔。
そして、また額にキスを落とす。
そう。私の魔法を封じる行為。
「これはね。詠唱を声に出さず、口を閉じてするんだ。そうすると効力が強まるんだよ。俺の妹、大切な家族。喪いたくないから、女神レイラリュシエンヌ様の加護を求めて。俺の最大限の防御魔法を君に施す。生きて。死なないで。」
お父さんが死んでから、お兄ちゃんの涙を見た事がなかった。
それをこんな場面で。何をそんなに。
そうだよね、不安になって当然。
魔王の復活が予告され、勇者の捜索が始まったのだと聞いた。
私の手元には、ゲームをクリアするために必須のアイテムがあるから。
油断は禁物。気を引き締める。
まだ病の蔓延を防いでいないから。
種が芽を出して、順調に成長すると仮定して。
どう配布するか。
紫蘇なら。ジュースにすれば、教会に置けば幼い子供達には行き届く。
大人は。どうすれば。
兄からもらった木の実を口に入れ。甘さが広がる。
美味しい。こんなふうに手軽に食べられなければ。
「お兄ちゃん、もうすぐ入学だね。」
「……ユニアミ、学園には君が通うために。俺は冒険者になったよ。」
冒険者になった。いつ。何故。
「嫌だ、置いて行かないで。どこにも行かないで。」
「置いて行かない。だけど連れてもいけない。それは、例え学園に入れたとしても離れ離れだ。」
「通えばいいじゃない。だって!…………」
だって学園に魔物が出て。
お兄ちゃん達の学年は大勢が巻き込まれて。
あぁ、ダメだ。回避しなければ。
危険だけど兄を学園に入れなければ、私は動けない。
未来を回避するのは私。
料理を考えなきゃ。後は販路。値段はどうでもいい。
相手は国民全員なのだから。
売れれば学園に通える金額は手に入る。
「ユニアミ?どうしたの。泣かないで。」
気づいたら目から涙が零れていた。
あぁ、この世界ではまだ7歳。
シナリオの事を考えていたから、気持ちは大人の感覚だった。
大学に通いながら、小さな喫茶店やコンビニのバイトをして。
乙女ゲームにハマった。
夢はいつか自分の店を持つこと。だった。
記憶はそこで途切れている。
死んだんだ。夢も叶わず。
優しく抱き寄せる兄に甘え、私は静かに泣いた。
「そろそろ朝ご飯の時間だ、落ち着いた?帰ろう?」
言い訳が思い浮かばないのだろう。
私も説明が出来ない。涙を拭い。
兄が先に立ちあがって、私に手を差し伸べる。
手を取って、そのまま繋いで歩く。
家までの帰り道に、少しだけ薬草を採り。
「今日は、母さんに教えてもらった場所にユニアミを連れて行ったから。これだけ。」
お母さんは優しく微笑み。
「あら、もうそんな季節なのね。寒い季節も近いわ。」
ここにも四季がある。呼び方は違うけれど。
あぁ、季節で言うと秋なんだ。間に合うだろうか。
記憶が正しければ春頃。
そう雪解けの祭りの後、喜びの後の悲劇として描かれていた。
朝ご飯を終え、片づけや母の仕事を手伝い。
お昼に教会に向かった。
パンと飲み物を受け取り。今日は広い庭に一人。
飲み物は綺麗な水。
井戸や川を神殿の聖女見習いが巡り、癒していくのだ。
聖法の一つ。水魔法でも使えれば。
「ステータスオープン。」
透明の画面。ラノベとかだと見えるのは自分だけ。
大丈夫だろうか。周りを見渡すけれど、私を気にする人などいなかった。
種が成長しなかった場合、ううん。成長した後こそライオネル様の助けが必要になる。
アイテムボックスの中には、イベントで使用した残り。
蒔いた種と同量の残り。
数日で芽が出なかった場合は失敗と考え、他の候補地を探す。
芽が出たら周辺に群生したと思わせるように分散して植える。
葉はジュースを試作しよう。
実は乾燥させて、薬に出来ないか。お母さんに見せてみよう。
それも芽が出た後。偶然に拾ったのだと言って。
花は何に使えるだろうか。
私が救える命は。




