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第3 . 話「病院の騒動と、学校での新しい私」



病院のベッドの上で目を覚ましたとき、私はまだ頭の奥がぐらぐらしていた。昨日、川に落ちて頭を打ったことは覚えてる。けど――その瞬間、なんだか不思議な感覚が胸の奥に広がったのだ。

まるで一万年前からの知恵とか、よくわからない大昔の“魂”が自分の中に入ってきたみたいで。え、私って今から賢者なの?って感じ。


でもまあ、それを説明するのはちょっとややこしいし、正直いってまだ自分でもよくわかってない。


病室のドアがガラッと開いた。

「みっさぁぁぁぁぁ! 無事だったの!? 生きてる!?」


飛び込んできたのは私の親友、森川葵。いつもテンション高めで、喜怒哀楽が顔に全部出ちゃう子だ。

彼女は私のベッドにばたんっと突っ込んでくると、まるで子犬みたいに私の頭を両手でくしゃくしゃ撫でまわしてきた。


「ちょっ、ちょっと! 頭はまだ…!」

「わぁ! ほんとだ! コブできてる! でも生きてる! 良かった! 美沙ちゃん~っ♡」


“美沙ちゃん”って、この子が呼ぶと、なんかギャグみたいに聞こえるんだよね。


私が苦笑いしていると、葵は真剣そうに眉を寄せて私の体をチェックし始めた。

「手は? 足は? 変なとこ折れてない? ほら、ちょっと立ってみなさいよ」

「いやいや、今立てって、病人に何を…」

「ほら、ほら!」


もう、葵には敵わない。仕方なくちょっと体を起こすと、案外ふつうに動ける自分に驚く。

(…やっぱり、この“一万年前の智慧”とかいうやつのおかげ?)


そこへ、病室のドアが再び音を立てた。

入ってきたのは――例の三人組。田中翔、佐久間蓮、そして木下悠真。


彼らは普段、学校でちょっとした“悪役ポジション”を気取っている。人をからかうのが大好きで、私も散々いじられてきた相手。

でも今日の彼らの顔は、どこか微妙にぎこちない。口元に笑みを浮かべてるんだけど、目が泳いでる。


「よ、よぉ佐藤。元気そうじゃん…」

「死んだかと思ったぜ」

「…まあ、生きてて良かったな」


おいおい、どうしたの。まるで加害者が被害者を見舞いに来たみたいじゃん。

(…いや、実際ちょっとそんな感じ?)


彼らも一応お見舞いの品を持ってきていて、コンビニ袋からお菓子やジュースを出してテーブルに置いた。

「ほら、プリン。病院といえばプリンだろ」

「それ俺が食いたいんだけどな」

「お前バカ、黙っとけ」


…こいつら、ほんとにわかりやすい。


葵は「ふーん」と腕を組み、じろっと三人を睨んだ。

「アンタたち、また美沙姐になんかしたんじゃないでしょうね?」

「な、なにもしてねぇって!」

「そうそう! ただ心配で来ただけ!」


(うわぁ…その慌て方、逆に怪しいんだけど…?)


そんな空気を残したまま、三人は早々に病室を後にした。

葵が大げさにため息をつく。

「ほんっと、あの三人はロクなことしないんだから! でも、美沙ちゃん、なんか前より落ち着いてる?」

「え? そう?」

「うん。なんか、妙に冷静っていうか、大人っぽいっていうか…」


私は笑ってごまかした。だって“一万年前の知恵”を授かりました~なんて言えるわけないじゃん。


そして翌日。私はもう学校へ戻った。


クラスメイトがざわざわしてる。

「え、美沙、もう来たの?」

「頭打ったんじゃなかったっけ?」

「やば、元気じゃん」


みんな心配してくれてたけど、その視線の中にはちょっとした好奇心も混じってた。まるで“変わった美沙”を観察してるみたい。


ロッカーを開けると、中には――まただ。

誰かが死んだ小動物の人形もちろんニセモノだけどを入れておいたり、わざと気持ち悪いメモを貼っていたり。

以前の私なら悲鳴を上げてた。でも今は違う。


私はその人形をすっと取り出し、にこっと笑ってゴミ箱に入れた。

「はい、さようなら」


すると背後から三人組のひそひそ声が聞こえる。

「…おい、反応ねぇぞ?」

「嘘だろ、絶対叫ぶと思ったのに」

「なんか…前と違くね?」


私は振り返らずに、ただ静かに教室へ戻った。心の中でふふっと笑いながら。


教室の机には消しゴムのカスが山盛りに散らかされていて、引き出しにはゴミが詰められていた。

でも私は黙って掃除をして、席に座った。

(…昔の私なら泣いてただろうな。でも今は、違う。)


授業が始まるとき、三人組の一人が黒板を拭いていた。

そのとき――ゴンッ! 黒板消しが私の方に飛んできた。


「うわっ!」と周りの女子が声を上げる。

でも私はひょいっと手を伸ばして、黒板消しをキャッチ。


シーン……。


クラス全員が固まった。


私は何事もなかったかのように、その黒板消しをそっと返した。

「はい、落としたよ」


笑顔でそう言うと、教室がざわめいた。

「え、美沙ってあんなに反射神経良かったっけ?」

「なんか別人みたい…!」


休み時間。女子たちが私のトイレの個室を外からカチャッと鍵をかけて閉じ込めようとしてきた。

「ふふん、出られないでしょ~」なんて聞こえてきたけど――私は落ち着いて扉を押した。

ガンッ! 一発で開いた。


外で待ち構えてた子たちが、目をまんまるにして逃げていった。


(ほんとに、子どもだなぁ…)


放課後。私は自転車置き場で三人組に待ち伏せされた。

「なぁ佐藤、調子に乗ってんじゃねぇぞ」

「前みたいに大人しくしとけよ」

「じゃねぇと痛い目見るぜ」


そう言って、私の自転車をガシャーンと倒した。


……限界だった。


一万年前の知恵を持つ“私”は、こんな子供じみた嫌がらせをされて黙ってるような存在じゃない。

私はすっと一歩前に出て、彼らの一人を軽く押した。


ドサッ。――まるで紙人形みたいに倒れる。


他の二人が慌ててかかってきたけど、私はひょいひょいと避けて、逆に彼らを地面に転がした。


「ちょ、ちょっと待て…! なんでこんなに強ぇんだよ…!」

「くっ…嘘だろ…!」


私はにっこり笑って言った。

「ごめんね。もう前の私じゃないんだ」


その瞬間、背筋がぞくっとした。

(…私、ほんとに変わっちゃったんだ)


三人が呆然と地面に座り込むのを横目に、私は夕焼けの自転車置き場を後にした。


でも――心のどこかでわかってる。

これで彼らが大人しくなるわけじゃない。むしろ、もっと厄介なことをしてくるはず。


それでも私はもう、怖くない。


だって私は、一万年前の知恵を持つ“佐藤美沙”だから。

ここまで読んでくれてありがとう!

作者はブックマークと評価ポイントで生きています(笑)。

応援してもらえると次の更新も頑張れます!

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