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第七章・恋心

目線:高嶺康介(五ヶ月前)



 美雪の部屋に、三人の笑い声が響き渡る。俊次と美雪のノロケ話を初めて聞いているときのことだった。



 「…いや、でもまさか、ふたりが付き合うことになるなんて思わなかったよ」



 僕が笑顔で言う。この日初めて、俊次と美雪が付き合い始めたことを聞いた。一週間前のことらしい。僕たちはきっと、ずっと友達以上恋人未満の関係なんだと勝手に思っていた。いや、正しくは、そう思い込ませることで自分の感情を抑えていた。



 「大丈夫、康介にもすぐ彼女できるって」



 俊次が笑みを浮かべながら言う。嫌味なのか応援なのかわからないが、きっと僕の本心は知らない。僕と俊次に挟まれて、美雪も笑みを浮かべる。その笑顔がたまらなく愛おしくて、そして憎かった。



 「…いやいや、俺なんか全然だよ」と、強がってそう答えてみせる。俊次は、興味ない、といったように目の前のマンガを手に取って読み始めた。



 「…好きな人いないの?今」



 美雪が僕に問いかける。そうだ。彼女もきっと、僕の想いには気づいていない。彼女はまっすぐ僕を見ている。その何気ない質問や仕草が、僕の心を深く傷つけているとも知らないで。



 「……ん~、特にいないかな。何が“好き”っていう感情なのかも、まだ解ってないし」



 僕は苦笑を浮かべてそう答えた。頬がぎこちなく引きつっているのを感じる。「ふ~ん…」と美雪が、納得したような、しかし疑問を覚えているような声でそう言った。哲学なんて興味ないだろう?僕は視線を俊次に向けた。彼はまだマンガを読んでいる。



 「…ねえ、俊次にとって“好きな人”ってなに?」



 からかうつもりだった。恋人である美雪が目の前にいる。答えられるはずはない。僕にだって、ちょっとふたりを困らせるくらいの権利はあるはずだ。



 「…う~ん、そうだなあ……」俊次が言う。



 「ちょっと、やめてよ恥ずかしいっ!」



 美雪が慌てだす。その様子が、素直に可愛いと思った。横目でそれを見ながら、俺は俊次をじっと見ている。彼はマンガを机に置き、少し悩んだあとにこう言った。



 「大切な人……かな」



 僕はその言葉に、思わず心打たれていた。普段冷静な俊次から、そんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ。そうか、これが恋愛というものなんだ。浮かれているとか、そういうものじゃない。ただ純粋に、想っている感情を素直に伝えたくなる。俊次もそうなんだ。本当に美雪のことを大切に想ってるんだ。



 「答えなくていいよ、もう……っ」と、美雪が膝に顔を埋めてつぶやく。彼女もきっと、俊次のことをそう想っている。大切な人なんだ、と。



 僕は少しふたりのことが微笑ましく思えて、からかい笑いではなく、自然と無垢な笑みを浮かべていた。



 「大切な人、か……」



 僕は隣で照れている美雪を見た。結ばれることが叶わなかった、想い人を。いつか三人がばらばらになってしまうことが、いつかお互いを深く傷つけ合ってしまうことが怖くて想いを伝えられなかった、大切な人を。



 僕はふたりを祝福した。これからの未来に、幸せがありますように、と。



 でもやっぱり、純粋にそう思うことができなかった。きっと僕の目は、嫉妬で曇っている。美雪を見つめるその視線には、喜びと同時に憎しみがこもっている。



 なんでだよ。なんでそうやって照れさせてあげれるのが、僕じゃないんだよ。



 そう思ったとき、ほんの一瞬だけだったが、彼女のことを急に抱きしめたくなった。たまらなく愛おしい。壊してしまいたいくらいに。殺してしまいたいくらいに。



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