第三章・目的
目線:一ノ瀬俊次
「俺が駆けつけたときにはもう、美雪は死んでいた」
部室に重い空気がのしかかる。俺は俯いたまま、静かに呼吸を整えた。康介も黙って俯いている。美雪のことを思い出しているような、しかし思い出したくないというような、複雑な顔をしていた。
「…以来、俺は危険を侵して銃を手に入れ、美雪の元彼、美雪の友達、美雪の血縁者…多くの人の中から、美雪の自殺に関係ありそうな奴をこの手で殺した」
「…それが、復讐か」
康介が口を開く。哀しそうで、怯えているような声だった。
俺はその声を聞き、本題に入ることにした。
「………そう。でも、あいつらは全員、ただの前座だよ。本当の復讐のためのな」
「…本当の、復讐…?」
康介の声に疑問がこもった。眉を吊り上げ、こちらを見ている。
「…ああ。美雪は自殺した。そう俺たちは知らされた。でも違う。美雪は、本当は…」
俺は一呼吸を置いてこう続けた。
「殺されたんだよ」
康介が目を見開く。拳に力がこもり、信じられない、といったような表情を浮かべた。
「…殺された…?」
「ああ」俺ははっきりとそう答えた。
「…他殺と推測した根拠は…?」康介が問いかける。
「あいつが俺に何も言わずに自殺するわけがない。それに、他殺は推測じゃない。確信だよ」
康介の瞳が曇り始めた。何かを怖れているような目で、彼は空を見つめる。俺はたたみかけるように続けた。
「…俺はその犯人に復讐するために、今まで何人もの人間を手にかけてきた。真犯人に、“いつか自分も殺されるかもしれない”という恐怖を味合わせた上で…殺すために」
「…それでお前が、人の命を奪う苦しみを背負うことになってもか」
「俺が、美雪の仇を討つために殺人を犯すことを、苦しいと思ったことはないよ」
声を落ち着かせて、俺はそう答える。康介は切なそうに俯いた。そしてこう言った。
「…お前が復讐のために殺人を犯すことを、美雪が望むと思うか?」
俺はそれを聞いた瞬間に何かがこみ上げ、怒りに任せて叫んでいた。
「美雪の望みは関係ない!」
康介が驚いて俺を見る。俺の呼吸は自然と荒くなっていた。
そうだ。今まで殺してきた誰もが俺にそう言った。「美雪がお前にそんなことを望まない」、「復讐なんかやめろ」。
何も知らないくせに。美雪のことも、俺のことも。恋人を失った気持ちが…大切な人を突然奪われた言い表しようのない感情が、他の人間に解るはずもないのに。
俺はため込んできた思いを吐き出すように言った。
「これは、殺された美雪の復讐じゃない。美雪を殺された、俺の復讐なんだよ…!」
拳に力が入る。俺の目は、康介を睨みつけていた。康介が黙ったまま立ち上がる。その姿をじっと見て、俺は続けた。
「…誰がなんと言おうと、俺は最後の復讐をする。止める気はない。美雪を殺した犯人を、この手で殺す。たとえそいつが、俺のよく知る人間だとしてもな」
「………そうか」
康介は小さく答えて、背を向けるようにして俺の正面に立っている。俺はその姿が憎くてたまらなかった。いつもそうだ。俺たちに内緒で、何かを秘めているような、そんな風貌をしている。影、という表現が正しいのだろか。そういうものを背負った男なんだ。そして、今回も…この事件でも。
康介は肩を揺らして、胸の内ポケットに手を入れる。
そして少し間をおいて、一瞬にしてこちらを向いた。
その右手には、漆黒の拳銃が握られている。
康介はその銃口をまっすぐ俺に向けて、驚いたように瞳孔を開いていた。
俺の銃口も、まっすぐ康介を捉えていた。




