第十二章・絶望
目線:一ノ瀬俊次
…嘘だ…嘘だ…。
「…俺が…美雪の自殺の、本当の原因…?…俺が、美雪を…美雪を殺した……?」
目の前が真っ暗で、何も見えない。何も感じない。何も…何も…。
身体中の感覚がなくなり、俺は膝を折って地面に足をついた。同時に、康介がよろけながら立ち上がる。
ふと、手のひらから何かが抜け落ちのを感じた。音を立てて拳銃が床に転がる。それを目にした瞬間、全身の血液が逆流し、何かに身体を引っ張られるような感覚に陥った。
気がついたとき、俺は拳銃を再び握って、その銃口を自分のこめかみに突きつけていた。
そうだ。このまま死んでも構わない。
――――いや……死ぬべきなんだ。
「やめろ!」
大きな叫び声が耳を貫いて、はっと我に返る。康介が真剣な顔で俺を睨みつけていた。
「…やめろ、俊次。これ以上罪を重ねる気か…!」
康介が続けた。
「…罪…?」
俺はただ、その罪を償おうとしただけだ。
俺は美雪を殺した。
美雪を自殺に追い込んで、その上で何人もの関係ない人たちを巻き込んできた。
これは罪滅ぼしなんだ。
「…罪じゃないよ、康介。贖罪だ。俺はこの命を以って、今まで傷つけた人に謝るんだ…」
「違う!自殺ってのは、罪滅ぼしでもなんでもない。ただの逃避なんだよ…!美雪がそうであったように…現実と向き合おうとせずに、逃げてるだけなんだ…!」
わけが解らなくなって声がかすれる。俺の目には、いつの間にか涙が溢れていた。
「…じゃあ…じゃあどうしろってんだよ…?今までしてきたことが、全部俺の思い込みで…他人も…友達も…美雪まで殺したのに……その罪と、その苦しみを背負ったまま惨めに生きろってそう言ってんのかよ…!」
「そう言ってんだよ!」
康介が声を上げる。彼の目にも涙が溢れ、苦痛と悲愴に歪んだ顔をしていた。そして、震える声でこう言った。
「…俺は今日、お前を止めるためにここに来た。…でも、もしかしたら本当は、お前を殺しに来たのかもしれない。美雪を死に追いやった罪滅ぼしをさせるために。美雪を死に追いやられた復讐をするために。……でも間違ってた。人を傷つけておいて、勝手に死ぬのは贖罪じゃない」
罪だ、と康介は続けた。過ちを重ねるだけだ、と。
「…でも…俺は、どうしたらいいんだ…」
「…お前は生きろ、俊次。お前が奪った命の分、生きて、できる限り償って…あの世で美雪に顔向けができるようになるまで…」
言いかけて康介が目を瞑る。そして何かを吐き出すような吐息をついたあと、俺の目をまっすぐ見つめて名前を呼んだ。
「一ノ瀬俊次。お前の悪を、悔いろ」
「………!」
内側から熱いものが込みあがってきた。俺はなんてことを考えてたんだ…。人の命を奪って、そのまま謝りもせずに死のうとしていただなんて…。美雪の自殺とはわけが違うんだ。これは罪滅ぼしじゃない、罪だ。
俺は拳銃をおろし、それを静かに地面に置いた。
康介がゆっくり近づいてくる。先ほどまで拳銃が入っていた胸の内ポケットを探っていた。そしてすぐ傍まで来たとき、ポケットから何かを取り出し、俺の目の前にそれを突きつけた。A4サイズの紙を四つ折りにした、手紙のようなものだった。
「…美雪からお前に、遺書代わりの手紙だ」
「………」
俺は黙ってその紙を手に取り、そっと開いてみた。
そこにはこう書かれていた。




