自称病弱で夢見がちな妹が、王子様に出逢える確率は・・・
※終盤は微ホラー風味。
わたくしには、少々困った妹がおりますの。
妹は、少々身体が弱い……らしいのですわ。
らしいというのは、わたくしの所見では……うちの家庭教師はちょっと厳しいけれど、淑女を育て上げるのが上手いと有名な方なのですが。妹は、その家庭教師の授業を仮病を使ってサボっている可能性があるからです。
自分の苦手だったり、嫌いな授業を、「今日は調子が悪くて……申し訳ありませんが、授業は受けられそうにありません」と言って、お休みするのです。
まあ、妹がサボっているお陰で、代わりに先生の授業を受ける時間が長くなったわたくしの成績は、どんどん上がって行くのですけど。
それは兎も角、最近の妹はロマンス小説に嵌まっていて、益々病弱アピールをして来て……わたくし、妹の将来が心配でなりません。
お父様もお母様も妹に甘いのですが、妹のことを思えばこそ、ということでわたくしは言葉を尽くして両親を説得しましたの。
それで、今日は夢見がちで病弱アピールをし捲る妹に少々、これからの現実的なお話をさせて頂くことにしました。
ああ、両親が妹に直接話すには少々つらい内容だと思うので、今日は出掛けてもらいましたわ。なので、邪魔者は居りません。
というワケで、
「あなた、いつまで自分は病弱だと言い張るつもり?」
今日も授業をサボって、寝室でごろごろしながらロマンス小説を読んでいた妹に突撃しました。
「なっ、お姉様! 酷い! わたくし、本当に具合が悪くて……」
うつ伏せで枕を胸の下に入れ、肘をついてガッツリロマンス小説を読んでいた妹が、慌てて小説を枕の下に隠し、毛布を被ってわたくしを非難します。
色々と全く隠せていませんが。
「あ、そういうのはもういいの。ほら? あなたが小説読むのが好きで、『いつか王子様が……』とか夢見ちゃってるイタい子なのは判ってるから」
「はっ、はあっ!? お、お姉様っ!? 失礼じゃないかしらっ!?」
「はいはい、そういうのもいいの。単刀直入に訊くわ。あなた、将来は結婚せずに保養所や療養所で余生を暮らすのかしら? それとも、空気のいい田舎でお父様とお母様と一緒に暮らすの?」
「は? お姉様、なに言ってるの? そんなの勿論、わたくしのことを見染めてくださった素敵な方に嫁いで一生大事にされて暮らすに決まってるでしょ」
ハッと、わたくしを馬鹿にするように答える妹。本当に、頭の弱い可哀想な子……
「あのね、現実的に考えて、よ? 病弱な女性を好んで嫁に迎え入れる貴族家は、非常に少ないの。あなたの好きなロマンス小説では、病弱だったヒロインが健康になって、素敵な殿方に望まれてハッピーエンドになるけど。現実には、病弱な女性は倦厭されて嫁ぐのが難しいのよ」
自称病弱で夢見がちな妹が、王子様に出逢える確率は・・・ぶっちゃけ、ゼロですわね。
「え?」
「貴族の役目は血を繋いで残し、家を繁栄させること。病弱な女性に子供を産ませるのは、とても危険なの。それこそ、命を落とす可能性が高くなるもの。それに、生まれた子供まで病弱だったら困るじゃない。だから、子供がいなくても構わないという方にしか、望まれないわ」
なんなら、病弱な子の兄弟姉妹にも影響があったりするけど。今は、これはいいわ。
「あなたの好きなロマンス小説でよくあるでしょう? 契約結婚や白い結婚。病弱な貴族女性と結婚して、けれど夫婦生活は行わず、旦那様は他の愛する女性のところへ行ってしまう。更には、他の健康な女性に産ませた子を、病弱な女性の子として育てる……なんてお話が」
「そ、それは……その、ヒロインが他のヒーローに助けられてハッピーエンドになるし……」
「ええ。物語の中では、ね。知ってるかしら? 病弱女性を好んで娶って、死ぬのを待って、その持参金を自分のものにする……という婚家があるらしいの」
「え?」
「病弱な娘を娶ってもらえるだけで有難いと喜んで、多くの持参金を付けて嫁がせる家があるの。で、その女性が亡くなったら持参金を返さなくていい、と。そういう契約を交わしておくと、持参金は婚家のものになる。それで、病弱女性ばかりを好んで娶る家があるらしいわ」
何度も資産家の夫と死別を繰り返し、遺産相続をして裕福になった未亡人……所謂、疑惑の女性と通じるところがありますわよね。
「あなたが、どうしても結婚したいというなら、もしかしたらそういう家に嫁ぐ可能性もあるから。頭に入れておいてちょうだいね? ちなみに、亡くなった病弱女性は殺された……という黒い噂もあるから。あなたが、そういう家に望まれてしまわないか、とっても心配だわ……」
わたくしの言い募る言葉に、段々と顔色を失くして行く妹。
「他にも、儚げな女性を娶って……秘密の部屋に剥製にして飾っている、という猟奇的な噂があったりするわね。狩場と、腕のいい剥製師を持っているような大領地持ちの貴族だから。あまり滅多なことは言えないけど……昔、等身大のお人形がどこぞのオークションで高値で落札されて……それが実際の女性の剥製だったという事件があったの。その美しい容姿から、数十年前に高位貴族に嫁いで若くして病気で亡くなった悲劇の女性ではないか、と少し騒ぎになったことがあったの」
結局、その剥製の出所は不明となっているそうだけど。
「まあでも、所詮は噂の域を出ないから。お外でこんなこと口に出しちゃ駄目よ? 下手をしたら、大貴族に目を付けられてしまいますからね」
妹は、今にも倒れてしまいそうな顔でコクコクと必死で頷いた。妹は怖がりだから、猟奇的な話が怖かったのかもしれない。
「だから、ね? 病弱でいるならこれらのことを鑑みて、これからどうするのか決めてちょうだい。一生独身を貫いて保養所で余生を過ごすのか、病弱な女性でも娶ってくれるという方に嫁ぐのか」
ふるふると、泣きそうな顔で首を振る妹。
「それなら……今からでも、ちゃんと真面目に淑女教育を受けて、デビュタントに参加できるようになればあなたが病弱だという噂は少しは払拭できると思うわ」
「本当? お姉様……」
涙の溜まった瞳がわたくしを見上げる。
「ええ。でも、マナーのなっていない方が社交場に出られる程、貴族子女の世界は甘くないわ。あなたがこれまで病欠した分、とても厳しい指導が必要になるし。これ以上お休みするなら、淑女教育も受けられない程に病弱だと有名になってしまうわ。そうしたら……」
「そ、そしたら……?」
「病弱な令嬢ばかりを娶っているという……前妻達が次々病死しているというような疑惑の殿方から、求婚されてしまうかもしれないわ。お父様もお母様も、喜んであなたを嫁がせるかもしれないわね……」
「っ!?!? わ、わたくし、なんだかすっごく元気になった気がしますわ! い、今ならダンスレッスンもできそうです! お姉様っ、ダンスの先生を呼んでくれるかしら!」
あらあら、どうやら妹は唐突に貴族子女としての自覚に目覚めたようね。
よかったわぁ♪
本当……あのまま、病弱を装っていたらどうなっていたことか。
少し前。わたくしの先輩の、好青年として有名な高位貴族令息が、「君の妹は病弱だと聞いたんだが……今度、お見舞いに行ってもいいだろうか?」と聞いて来たの。
そう、狩場と腕のいい剥製師を持っている大領地の貴族子息が。その方、どうやら少し前に病弱だった婚約者様を亡くされて、酷く落ち込んでいたそうなの。
その方。そんなときに、なぜかわたくしに妹のことを聞いたの。これまで、顔を知っているだけで個人的な交流はしたことなかった方なのに。
彼は跡取りではないらしくて、病弱な妹が大貴族の夫人になることはないのですって。それで、彼は狩猟が趣味だそうで……と、なぜかわたくしに、彼のお話を聞かせてくださったの。
妹は、それなりに可愛らしいもの。万が一、彼に見染められたら両親は喜んで彼の家と誼を結ぼうとするでしょうし。
でも、わたくしはなんだか、非常に厭な予感がするのよねぇ? とは言え、相手は大貴族の令息。滅多なことは言えないでしょう?
わたくし、お馬鹿な妹に辟易はしているけど……でも、それなりに可愛いとは思っているの。
だから、ね? 彼は病弱で儚げな女性が好みみたいだし。それなら、妹の方を変えた方がいいじゃない?
それから、妹はどうにかこうにか厳しい家庭教師からマナーの及第点を頂いて、無事にデビュタントに参加することができました。
元気そうな妹は、彼の目に留まることはなかったみたい。
ああ、よかった……
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
数年後――――
貴族の別荘を狙った窃盗事件が多発。犯人一味は、捕まっていない。
更にその後。どこぞのオークションで、等身大の美しい人形が実は本物の女性の剥製だったという事件が起こった。その女性は、何年も前に病死した貴族令嬢ではないかという噂が流れて……すぐに、その噂が立ち消えた。
ただ、どこぞの貴族令息が躍起になってオークションで競り落とそうとしていたとか……
真相は、闇の中。
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
自称病弱な困った妹ちゃんへ、お姉ちゃんが病弱な貴族令嬢は多分こうなるんじゃない? 的なことを話して窘める予定だったのに、なぜか終盤で微ホラー風味に変貌。
多分、暑いからだ。涼が欲しい……_(¦3」∠)_
妹ちゃん、割と危機一髪。お姉ちゃんにガチで嫌われていたら、どうなっていたか……
というワケで、ちょっとは涼しくなったでしょうか?
これ、ホラージャンルじゃね? という質問なら、ホラーにしてはぬるいからです。だってこの話、あんまり怖くないよね?(੭ ᐕ))?
夏のホラー企画に参加してます。R15です。とりあえず、この話よりはもっと怖い……というより、後味悪いかなぁ?( ◜◡◝ )
誤字報告で『見染める』を『見初める』に頂くのですが、文字表記が違うだけで両方同じ意味なので間違ってはいません。単に、書くときに見染めるの方が出て来るだけです。
ブックマーク、評価、いいねをありがとうございます♪(ノ≧▽≦)ノ