7話 事件
自宅に戻り日記帳を開く。
SNSなんかじゃ吐き出せないような、奥深くの気持ちを綴っていく。
今日のページを書き終え、今までの出来事や当時の気持ちを振り返っていると、スマホが鳴り響いた。
画面には、"いとちゃん"と表示されている。
時間は21時を過ぎた頃で、彼女も丁度仕事が終わったんだろうななんて呑気なことを考えながら電話に出た。
「もしもし」
受信ボタンを押して話しかけても一向に返事が返ってこない。
走っているのか、やたらコツコツとパンプスが地面を叩く音が聞こえた。
「いとちゃん?」
「......な、凪くん!」
少し震えた声、上がっている息、何かが可笑しいと不審に思った。
「どうしたの?」
「た、助けて......!お願い......!」
その一言に僕は慌てて立ち上がった。
日記帳を閉じて本棚へと戻して、クローゼットから上着を取り出す。
何処にいるのかと問かければ、いつも仕事の行き帰りに使っている道をずっと走っているのだと言う。
家を飛び出しひたすら走った。
電話は繋げたままで彼女に声を掛けながら走っていると、ついに彼女を見つけた。
「いとちゃん!」
電話を切り、持っていたスマホをポケットに仕舞って駆け寄る。
僕を見つけるなり彼女は安堵したのか腰を抜かし、そのまま地面へと座り込んだ。
「いとちゃん、僕だよ。わかる?」
コクコクと頷きながら涙を流している彼女の頬に触れて、流れる涙を拭った。
周りを確認するも今のところ不審な人は見当たらず、追いかけられていたわけではないのかと考える。
過呼吸を起こしており今にも倒れそうな彼女を抱き上げ、とりあえず自宅へと向かった。
ベッドに降ろし、まだパニック状態の彼女を宥める。
もう僕の家だから安心して、とゆっくり深呼吸するように促した。
1時間以上はかかっただろうか、彼女が漸く呼吸を取り戻し少しずつ事情を聞こうと隣に座ったが、震えていて話せそうにもない。
もう少し落ち着かせた方がいいか、とキッチンへ向かいマグカップにココアを作って持っていった。
それからまた30分か40分して、彼女は落ち着きを取り戻して行った。
「何があったか、聞いていい?」
彼女は小さく頷き、ゆっくりと話し始めた。