6話 受け売り
彼の想い人が嫌がらせをされているという話だった。
初めは笑わせるといった嫌がらせとは言えないような内容だったが、日に日に内容はエスカレートしていったのだと言う。
「最近流行ってるゲームに巻き込まれてるみたいなんだ」
ゲーム。さっき葵くんが話していたあのゲームだろうか。
だとしてもなぜゲームに巻き込まれていると断定できるのか。
疑問に思った私は迷わず聞いた。
「どうしてゲームに巻き込まれてると思うの?」
「これ見て」
彼が差し出したのはスマホだ。
画面にはSNSのDMの内容が映っていた。
"参加希望です"
"かしこまりました。クエストはポストの通りです。成功すれば賞金1000円を差し上げます。尚、DMの内容等のこちらの情報は他言無用でお願いします。情報が漏れた場合は賞金の支払いは致しません。それではお支払い方法を以下からお選びください"
その下には振込か電子マネーか選べるようなボタンがある。
"電子マネー"
"かしこまりました。ではターゲットの情報をお渡し致します"
その下に今度はリンクが貼られている。
リンク押してみて、と促され恐る恐るリンクをタップする。
すると写真、名前、年齢、住所など事細かに個人情報が書かれており、ゾッと寒気を感じた。
「なに、これ......身長とか体重まで......」
これ以上は見ていられないと彼にスマホを返す。
彼は小さく溜息をついてスマホをポケットに仕舞い込んだ。
「彼女から話を聞いて、まさかと思って連絡してみたら......僕も驚いたよ」
「これ犯罪だよね......警察に届けた方がいいんじゃない?」
「彼女は大事にはしたくないって言ってるんだ。僕は大学生で彼女は社会人。どうしたら助けてあげられるかと思ってね」
それに参加者は複数人存在しており、いつ誰がやったかの証拠もないのだと言う。
彼女はゲームの存在を知っているのかと問かければ、知らないだろうねとキッパリと答えていた。
「それならゲームのことを彼女にまず話すべきだと思う」
「今でさえ精神的に参ってるんだ、追い討ちをかけることはしたくない」
「でも情報漏洩だよ、それ。その件だけでも警察に......」
「できれば彼女の負担は減らしたいんだ」
彼は何よりも彼女の体調を優先しているようだった。
正直言って警察に届け出て解決させる以外の方法は見つからない。
主催者は素性もわからないのだ、素人でどうこうできる問題ではないだろう。
暫く考え込んでいると、彼は少し俯いて額に手を置いているのが見える。
ごめん、と一言申し訳なさそうに呟いていた。
「せっかく相談聞いてくれてるのに、解決策に文句つけちゃって。彼女、会社には行ってるんだけど日に日に弱っててさ」
もうそんな姿は見たくないんだ、と言う彼も見るからに参っているようだった。
大切な人が巻き込まれていれば確かに気も滅入るだろう。
きっと自分が解決してあげたいというもどかしさだってあるはずだ。
こんな時、海にぃならなんて声を掛けるだろう。
「......私にできることがあれば、協力するから。なんでも言って」
かつて私が海にぃから貰った言葉だった。
この言葉を貰うだけでどれだけ心強いかは、私がよく知っている。
そう伝えると彼は、本当?と顔を上げる。
「じゃあ、何かあれば彼女を匿ってあげて欲しいんだ。僕はカフネって奴を探したりするつもりだから、きっと僕一人じゃ護りきれない」
「お易い御用だよ」
「でも、僕に頼まれたことは言わないで」
「......どうして?」
きっと気を遣っちゃうから、と力無く笑っていた。
彼が帰って行ったあと、コップを片付ける。
力になれるかもという喜びが大きく、この話も明日葵くんに話そうと考えていた。