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カフネ  作者: えこ
18/22

18話 頼りになる人

久住くんが亡くなり、いとちゃんが拘置所に入れられてから一週間程立った。

彼女の関係者で、通報者でもあった私は事情聴取を受けた。

そして今、私は彼女に面会をしに来ている。


「いとちゃん......」


アクリル板越しの彼女はもぬけの殻で、本当に生きた人間なのか不安になるほど生気を感じられなかった。

それほどにやつれていて、目が虚ろだったのだ。


「ちせちゃん、わざわざ面会に来てくれてありがとう」

「いとちゃんのこと心配だったから、当然です」


そっか、と力無く彼女は笑った。

これからどうなってしまうのだろうか。

やはり殺人の罪で起訴されて実刑判決が下ってしまうのか。

彼女は被害者なのに、と肩を落とした時、ふとある考えが過ぎった。

俯いていた私は顔を上げ、まとまりきっていない考えを伝えてみることにした。


「ねぇ、いとちゃん」

「どうしたの?」

「弁護士って、もう決めましたか?」

「弁護士?......いや、まだだけど」

「私、知り合いに弁護士いて!いとちゃんが良ければ、私からお願いしてみます!」


彼女は目を丸くし、何度か瞬きをした。

虚ろだった瞳に少しの光が宿ったような気がしたが、次第に彼女は目を伏せてしまう。


「事件のことは詳しくはわかりません。でも、いとちゃんが自分の意思で殺すなんて有り得ないってことだけはわかります!だから、ここは私に任せてもらえませんか......」


伏せられた目からパタパタと涙がこぼれていくのが目に入る。

やはり、きっと彼女は殺してなんかいないと思えた瞬間だった。

面会時間15分はあっという間に過ぎてしまった。

時間があれば頻繁に顔を出すと言うと、彼女はありがとうと言って笑った。

ここへ来て初めて純粋な笑顔を見た気がした。

自宅へ帰ってすぐ私は電話を掛けると、ツーコール目で繋がった。


「もしもし。どうしたの、ちせちゃん」

「海にぃ。お願いがあるの」


電話ではなく、直接話がしたいからとカフェに来てもらうことにした。

私も身支度を整えてカフェへと向かい、海にぃが到着するのを待つ。

車で来たのか、案外早く彼はやってきた。


「お願いなんて言うから、ちょっと焦った」

「ごめん。お仕事大丈夫だった?」

「用があるって言って少し抜けてきた。1時間くらいなら事務所空けてても平気だよ」


1時間と言えど弁護士は忙しい。

海にぃなんかは特に独立している為、大変だろう。

なるべく手短に話をすることにした。

彼に出すコーヒーを淹れながら早速本題へと入る。


「弁護人を今探してるの」


ソーサーを彼の目の前に置き、今しがた淹れたばかりのコーヒーを出した。

彼は三回程フーフーと冷ましながらゆっくりと一口飲んでいる。


「それで?」

「海にぃに弁護人をお願いしたくて」

「んー......でも......」


依頼者はちせちゃんじゃないよね?と私の目を見ながら問いかけてくる。

私はいとちゃんについて詳しく話した。

彼女には久住くんという幼馴染がいたこと、嫌がらせがあったこと、その嫌がらせはカフネというユーザーの仕業だったこと、そして幼馴染を殺してしまったこと。


「私は久住くんがカフネだと思う」

「どうしてそう思うの?」

「いとちゃんが事件に巻き込まれる1時間前に、久住くんは車でいとちゃんを迎えに来た。そしてカフネのこの最後のポスト」


スマホでSNSを開き、カフネのページに飛んで最後のポストに貼り付けられた写真と投稿された時間を彼に見せる。


「久住くんがいとちゃんを連れて店を出て数分後に投稿されたの。それにこの写真に写ってる車に乗り込んだところを葵くんが目撃してる」

「葵が?」


ジッと画面を覗き込んでいた彼は顔を上げ、葵くんの名前に反応し顔を顰める。

思ったよりも身内が関わっていることに驚いたのか、少し溜息をついてコーヒーに手を伸ばしていた。


「これだけじゃまだ、その久住って人がカフネだとは断定できない」

「でも絶対怪しい!絶対黒だよ!いとちゃんのことも閉じ込めようとしてたし!」

「ちせちゃん」


声を荒らげてしまった私を宥めるように、彼は私の名前を呼んだ。


「依頼者に肩入れするのはわかるよ。でもあくまで証拠を集めてからじゃないと」

「.....ごめん。どうしてもいとちゃんがやったとは思えなくて」


私だって法学部で学んでいる身だ。

彼の言っていることは勿論理解出来る。

だが彼女の悩みも苦しみも聞いてきたからこそ、どうしても無実を証明してあげたかった。

目の前でコーヒーを飲み干して鞄とジャケットを手に取り、彼は立ち上がった。

協力を仰ぐことは出来なかったのだろうと私は肩を落とした。


「何落ち込んでんの」

「だって......何の資格も実績もない今の私じゃ、いとちゃんを助けてあげられないから」

「わかってる。だから今からその依頼者のために手続きを取るんだよ」


えっ、と顔を上げると、彼は笑って私の頭にポンッと手を置いた。


「協力しないなんて一言も言ってない。ちせちゃんにも色々と動いてもらいたいから、急で悪いけどやって欲しいことまとめたらまた連絡する」


そう言ってカウンターにコーヒー代を置いて店を出ようとする彼の背中にありがとうと言うと、振り返ってどういたしましてと言い残して店を出ていった。

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