17話 勘
彼女が店を出ると、すれ違うように葵くんが店に入ってきた。
私は今さっき目の前で起きた一連の出来事に不信感を抱いた。
彼女の言うように、きっと何かがおかしいと。
「ちせちゃん?どしたの」
「え、いや......うん。何でもない」
誤魔化そうとしたが、葵くんの口から発された言葉に思わず顔を顰めた。
「そーいやさっき、いとちゃんと男の人が車に乗って行ったよ」
いとちゃんの彼氏?とおちゃらける彼とは裏腹に、ゾッと血の気が引くような感覚がした。
考えすぎだと思いたかった。
少しの望みをかけてどっちの方向に向かったか聞いてみることにした。
彼女の話と彼の言動からするに、きっと今から久住くんの家へと帰るはずだ。
「向こう、かな?ちょっとしか見てなかったからわかんないけど」
そう言って彼が指さした方向は、久住くんの家とは全くの別方向だった。
そこで気付いてしまった。
久住くんは"家に"帰ろうとは言っていなかったことに。
慌ててスマホを取り出し、彼女に電話を掛ける。
コールが鳴り響くだけで一向に出る気配がない。
私の様子を見た葵くんは首を傾げるばかりだ。
「葵くん、車のナンバー見た?それか、車種とか!」
「え、なになに。どうしたのちせちゃん」
「いいから!見た!?」
「いや、どうだったかな......」
思い出している最中の彼を横目にSNSでカフネと調べる。
するとつい数分前にポストが投稿されていた。
"これがラストのクエスト。賞金1,000万。僕を止めてみて"
文章と共に貼り付けられている画像には、車種とナンバーが分かるように撮られた写真だった。
「葵くん、この車だった!?」
「え、あぁー......あ!そう!これ!」
今彼女はこの車に乗せられて家とは反対方向へと向かわされている。
ただの憶測のはずだった私の考えは現実に起きてしまっていた。
この場合警察に通報して話を聞いてもらえるのだろうか。
「ねぇちせちゃん。話して、何があったの」
泣き出しそうな私の顔を覗き込み、心配そうに見つめる。
私はポツポツと今までの出来事を話し始めた。
葵くんは見る見るうちに顔が青ざめていき、慌てて通報をしていた。
案の定相手にされていないようで必死に説得しているのを耳にしながら、彼女が相談した先の警察署を思い出す。
私は急いでその警察署に電話を掛け事情を説明すると、すぐに状況を把握した警察はすぐに対応すると言って電話を切った。
その内この店にも警察が来る。
養父に事の全てを話すと、お客さん一人一人に事情を説明し店を閉めてくれた。
不安が募る一方で警察が到着するまでの間、養父と葵くんは私の傍できっと大丈夫だと宥めてくれた。