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カフネ  作者: えこ
15/22

15話 異様

1月下旬頃、私のスマホに一件の着信が入る。

番号を見て刑事課の日向さんだろうと思った私は迷わず電話に出た。


「もしもし、刑事課の日向です。雛笠いとさんの携帯でお間違いありませんか」

「はい、雛笠です」

「少しお話したいことがありまして、ご都合のいい日を教えていただけませんか」


私は今からでも大丈夫だと伝えた。

外に出るのは怖いが、タクシーで行き帰りすれば大丈夫だろうと家の前にタクシーを呼んだ。

警察署に着くと丁度向こうから日向さんがやってくるのが見えた。

お久しぶりです、と挨拶を交えてまた取調室へと案内される。

事件に関しては犯人が捕まって裁判も終わり、過失致死罪という判決が下されたらしい。

犯人は故意により刺したわけではないと判断され、罰金刑で済んでしまったとのことだった。


「この判決にはしっかりと訳がありまして、再度雛笠さんにお尋ねしなければならないと思いました」


一体何の話だというのだ。

罰金刑程度で殺人犯が野放しなのは恐ろしく、また夜道でその男と出会したらと考えただけで外出なんてのはいつまで経っても出来そうにない。

日向さんの話を聞くに、私が受けている嫌がらせが原因かもしれないとのこと。


「嫌がらせが、ですか?」

「えぇ。事情聴取の際、犯人はクエストに興じたと言ったんです。クエストは貴方の髪を切ること。だからあの日、犯人は刃物を所持していた」


その言葉で私は閃いてしまった。

やはりカフネというユーザーが私をターゲットにして、他人を使って殺しに来ているのだと悟った。


「何か心当たりが?」


俯き静かに震える私を宥めるように、それでも事情を聞こうと優しく声を掛けてくれる。

私はカフネについて話をした。

しかし深掘りしたわけではない為、表面的なことしか言えなかった。


「もしかしたら、とは思っていました。SNSのタイムラインにカフネというユーザーが投稿したクエストの内容と、私が受けた嫌がらせの内容が一致しているものがあったので......」

「実際、犯人から色々と話を聞くと間違いなくそのカフネというユーザーが貴方を狙うよう誘発しているようです。こちらでもある程度調べてはいますが、まだ犯人像も上手く掴めていないもので......不安にさせてしまって申し訳ありません」


そう言って頭を下げる日向さんを見て、慌てて顔を上げるよう促した。

嫌がらせ程度で警察は動かないという先入観は、日向さんの態度によって一変した。

今回の事件と関係があるからだとは思いつつも、その親身に話を聞いてくれる姿に安心感を覚えたのだ。


「それで、一つ提案があるのですが」

「提案......ですか」

「貴方をお護りする手段として、我々警察の目が行き届くような場所で住まわれてはいかがですか」


魅力的な話だと思った。

事件が解決し怯えることなく自由に生活出来るその時まで、警察は私の面倒を見てくれると言うのだから。

だが同時に今私の為に色々と気を利かせてくれている彼、凪くんのことを思うと即決はできなかった。


「......今、私を護ってくれている人がいるんです。彼に相談してから、改めてお返事させてください」

「......わかりました。私達はいつでも貴方の安全を確保するとお約束しますので、そのことだけは念頭に置いて下さると助かります」

「はい、お気遣いいただいてありがとうございます」


話が済み、私はそのまま家へと帰った。

彼が帰ってくるなり真っ先に相談すると、あっさりと断られてしまった。


「私にとっても凪くんにとっても良い話だと思うの」

「僕は何も負担に思ってないよ。僕がいとちゃんを護るから」

「でも刑事課の日向さんって方がすごく良くしてくれて、警察の人が近くにいればきっと嫌がらせする人だって」

「いとちゃん」


話を途中で遮った彼は、私と向き合ったかと思えば歩を進めグイグイと迫ってくる。

その姿がどこか異様に思えて恐怖し、後退りをすれば躓いてしまい、ベッドの上に尻餅を着く。


「僕がいるんだから大丈夫。わざわざ警察の手を煩わせることないでしょ?」


私の頬をそっと撫で、掬った髪に彼は口付けをした。

わかったと返事をすれば満足気に私から離れ、夕食の支度の為にリビングを出て行ってしまった。

彼にこれ以上気を遣わせない為にも良い話だと思ったが、当人はそれを嫌がっているように見える。

そこから次第に違和感は生まれていった。

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