14話 私の支え
警察署に出向いてから数週間が経ち、11月も中旬に差し掛かろうとしていた。
それからも嫌がらせが落ち着くことなく、私の家の前に張り込む人の姿を度々見かける。
初めは刑事さんかななんて呑気に思って窓の外を見ていたが、目が会った瞬間ニタリと笑ってこちらに石を投げつけてくることから嫌がらせだと理解した。
彼の送迎があって漸く出勤出来ていた日々も、次第に恐怖で家から一歩も出られなくなってしまっていた。
「いとちゃん、ただいま」
彼の声が聞こえる。
「......凪くん?」
「ん、僕だよ」
寝転がっていた私は顔だけを彼に向けると、髪を優しく掬い上げられる。
間違いなく彼だと安心していると、ご飯は食べたかと聞かれる。
食べていないと答えると彼は立ち上がってリビングを出ようとした。
不安に駆られた私は咄嗟に彼の服の裾を掴み、またどこかに行くのかと問いかけた。
「今日はもうどこにも行かないよ」
そしてまた彼の言葉に安心した私は再び布団に包まった。
キッチンから出汁の良い香りが漂ってくる。
精神的に不安定になり食事もまともに取れなくなってきた私の為に、きっと消化の良いものを作ってくれているのだとわかった。
寝たきりなのも良くないと体を起こすと、それに気付いた彼が駆け寄ってくる。
「体起こして平気?」
「ん、平気。凪くん、いつからそんなに過保護になったの?」
「昔からずっと過保護だったよ」
「そうだったっけ」
確かにそんなような気もするな、と何気なく窓の方に目を向けるとカーテンが開いている。
窓の外で知らない人がこちらを見ているような気がして、怖くなってまた布団に潜り込んだ。
「ごめんごめん、怖かったね。カーテン閉め忘れててごめんね」
彼のせいじゃない、悪いのは私に嫌がらせをしてくる人なのだ。
伝えたいのに上手く言葉を発せずにいる私を、赤ん坊をあやすように優しく背中を撫でてくれる。
キッチンの方がコトコトと鍋蓋が踊る音が聞こえると、彼がキッチンへ向かっていく足音が聞こえた。
少しして彼が食べれるかと聞いてきたが、今は到底ご飯を食べる気分にはなれない。
後で食べると伝えると、そっかと少し寂しそうな声が聞こえて罪悪感が芽生えた。