13話 違和感
家に帰ると血相を変えた彼が慌てて玄関まで出迎えた。
「いとちゃん、何で連絡返さないの!」
珍しい姿に思わずクスッと笑いながらも、ただいまと返事をした。
私のコートと鞄を受け取ってはリビングまで私の手を引く。
「ごめんね、色々立て込んでて連絡返せなくって」
「無事なら何よりだよ。それより、今日はどこ行ってたの?」
「警察署に行った後、カフェに寄ってたの」
「警察署......?なんで?」
あの事件に関しての事情聴取を受けていたことを話すと、彼は私の髪をまた掬って遊び出した。
嫌がらせの話も警察に相談したと言うと遊ばせていた指をピタリと止めて、そっかと呟いた。
「また何か分かったら連絡するって」
「嫌がらせなくなるといいね」
ご飯にしようと立ち上がってキッチンへと向かう彼の背中を目で追う。
警察署へ行った話をしてからか、食事の最中も他愛ない会話の最中も、どこか彼と目が合わないような気がしてならない。
やはり黙って出掛けた挙句連絡も返さなかったのだから、怒ってしまっているのだろうか。
寝る前、彼に一言謝ると笑って大丈夫だと言った。
「心配かけて本当にごめんなさい」
「無事なら何よりって言ったでしょ、怒ってないよ。でも、僕がいつでもいとちゃんのこと気にかけてるってことは忘れないで」
「......うん、ありがと」
どういたしまして、と私の頬を撫でて彼は眠りについてしまった。
そんな彼とは反対に中々眠りにつけなかった私はスマホでSNSを開く。
タイムラインにはいつでも小動物の可愛い動画が流れていたが、今日は少し違った。
"#カフネ"、"#クエスト成功"とタグ付けられたポストが目に入る。
ユーザーをブロックしたというのに、こうしてポストする人がいるんじゃ目に入る。
タグもブロックしようとした時、ポストの文面に書かれたクエストの内容をふと読んでしまった。
「......爪?」
思わず口に出すと、隣で彼が少し唸って寝返りをうった。
起こしてしまったかと思ったが、彼は未だ眠り続けたまま。
見てはダメだと言われていたが、気になってしまった私はバレないようこっそりとそのポストを読んでいく。
おすすめとしてタイムラインに流れてきた投稿は三週間も前のものだ。
ターゲットの鞄に剥いだ爪を入れるという内容で、賞金として一万円を貰ったと記されている。
悪趣味で気味が悪くなったが、パズルのピースが合わさっていくような感覚を覚えた。
私の鞄に剥いだ爪が入っていることと、このポストの内容が一致していることに気付いた。
これは単なる偶然に過ぎないのだろうか。
気になってしまったもののこれ以上深堀りするのは怖くなってしまった。
見なかったことにしようと蓋をして眠ることにした。