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わがままちゃんのぼうけん

作者: 畝澄ヒナ

幼稚園の年長さんのリンちゃん、今日もわがままを言っています。

「そのおもちゃちょうだい!」

お友達は困った顔でリンちゃんのお願いを聞きます。

「リンもチョコレートたべたい!」

お友達がお家から持ってきたお菓子も、平気で食べてしまいます。

「せんせい、だっこして!」

チョコレートまみれの手で、先生にだっこをおねだりします。

お友達と先生は、いつの間にかいなくなってしまいます。


リンちゃんは、なぜお友達と先生がいなくなってしまったのか分かりません。

分からないので、考えることをやめ、次はお父さんにわがままを言うことに決めます。

「おとーさん、チョコレートたべたい!」

お父さんは笑顔でリンちゃんにチョコレートをあげます。

「おとーさん、つかれた!」

お父さんは何も言わず、リンちゃんをおんぶします。

「おとーさん! おとーさん!」

隣にお父さんはもういません。

お家までの帰り道で、急にいなくなってしまいます。

リンちゃんは泣きながら、一人でお家まで帰ります。


お家でお母さんがごはんを作っています。

お母さんはリンちゃんにこう言います。

「わがままは、言い過ぎちゃダメよ」

リンちゃんにはその言葉の意味が分かりません。

お母さんはリンちゃんにこう言います。

「お友達とは仲良くするのよ」

リンちゃんには、もう仲良くするお友達が近くにいません。

お母さんはリンちゃんにこう言います。

「先生のことは困らせたらダメよ」

リンちゃんには先生を困らせるつもりはありません。

お母さんはリンちゃんにこう言います。

「お父さんだって疲れてるのよ」

リンちゃんは、いっぱい遊んでくれるお父さんが大好きです。

でも、お父さんはもうお家に帰ってきません。

お母さんは最後にため息をついて、こう言います。

「いい加減にしなさい」


リンちゃんはいつの間にか寝てしまっていたようです。

目を覚ましたリンちゃんは辺りを見回します。

どうやらここは幼稚園のお部屋のようです。

リンちゃんの目の前で、お友達が泣いています。

「リンちゃんがわたしのおもちゃとった!」

リンちゃんは心が少し痛くなって、お母さんの言葉を思い出します。

「お友達とは仲良くするのよ」

リンちゃんはポケットに入っていたお友達のおもちゃを渡します。

「ごめんね」

リンちゃんが謝ると、お友達は笑顔で「いいよ」と言います。

お友達は、リンちゃんと一緒にいてくれるようです。


リンちゃんはもう一人お友達が泣いているのに気が付きます。

「リンちゃんがぼくのチョコレートたべた!」

リンちゃんはまた心が少し痛くなって、もう一度お母さんの言葉を思い出します。

「お友達とは仲良くするのよ」

リンちゃんは胸ポケットに入っていた自分のクッキーを渡します。

「わたしのクッキー、たべていいよ」

お友達は「ありがとう」と言って、クッキーを受け取ります。

もう一人のお友達も、リンちゃんと一緒にいてくれるようです。


リンちゃんの心はまだもやもやしています。

幼稚園のお庭に進むと、先生が困った顔で手洗い場を見つめています。

「リンちゃんはどうやったらお手手を洗ってくれるかな」

リンちゃんは先生が毎日手を洗うように言っていることを知っています。

リンちゃんは手洗いが嫌いです。

でも、困っている先生を見ると心が少し痛くなって、お母さんの言葉を思い出します。

「先生のことは困らせたらダメよ」

リンちゃんは先生の隣で手を洗い始めました。

チョコレートまみれの手はあっという間にきれいになっていきます。

「せんせい、だっこしてくれる?」

先生は笑顔でリンちゃんをだっこします。

先生も、リンちゃんと一緒にいてくれるようです。


まだお父さんとお母さんは見つかりません。

リンちゃんは幼稚園を出て、帰り道にある公園に入ります。

ベンチにはお父さんが座っています。

「今日も仕事疲れたなあ、でも、リンの面倒を見ないと……」

リンちゃんは初めて見るお父さんの姿に少し心が痛くなって、お母さんの言葉を思い出します。

「お父さんだって疲れてるのよ」

リンちゃんはお父さんの後ろにまわり、肩をトントンし始めます。

「おとーさん、おつかれさま」

リンちゃんはお母さんの真似をして、お父さんに声をかけます。

お父さんは笑顔で「ありがとう」と言うと、後ろを向いてリンちゃんを抱きしめます。

お父さんも、リンちゃんと一緒にいてくれるようです。


あとはお母さんを見つけるだけです。

でも、どこを探しても、お家に帰っても、お母さんは見つかりません。

リンちゃんは涙を流して、お母さんの最後の言葉を思い出します。

「いい加減にしなさい」

リンちゃんは、お母さんに嫌われたんだと思い、泣き続けます。

いつの間にか幼稚園に戻ってきていたリンちゃんに、お友達が声を掛けます。

「リンちゃんママのすきなおはなをもっていこうよ」

先生も泣いているリンちゃんに声を掛けます。

「お庭から好きなお花を持っていこうね」

お友達と先生に手伝ってもらい、リンちゃんはお母さんへのプレゼントを完成させます。

でも、どうやって渡せばいいのか分かりません。

そんなリンちゃんにお父さんが声を掛けます。

「一緒にお母さんのところに行こうか」

リンちゃんが一人で探しても見つからなかったお母さん。

お父さんと手をつないで帰ったお家、リンちゃんのお部屋にお母さんは静かに座っていたのです。


お母さんは泣いています。

「いつでもどこでも、リンはわがままばかり。どうしたらいいの……?」

リンちゃんの心はすごく痛くなって、勝手に涙が出てきます。

お父さんに背中を押されて、リンちゃんはお母さんに後ろから抱きつきます。

「おかーさん、ごめんなさい」

お母さんは振り向いてくれません。

「おかーさんのすきなおはな、かんむりにしたの」

リンちゃんはお母さんの頭にひまわりの花冠を乗せます。

「リン、いい子にするから。おかーさん、だいすきだよ」

お母さんはゆっくり振り向き、リンちゃんを抱きしめます。

「私も、大好きよ」

みんな、リンちゃんと一緒にいてくれるようです。

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― 新着の感想 ―
ちょっと不思議で、すごく優しいお話でした。 教訓もありいいですね。 読ませていただきありがとうございました!
ゆっくり少しずつ大人になっていければいいのだと思います。でも現実の世界ではそれができずに崩れてしまう家庭もあるのかなと思うとちょっと切ないです。
2025/01/22 23:15 退会済み
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