④『究極の魔法の正体』
月明かりに照らされた書斎で、四人は魔法陣の中心に置かれた手紙を開いた。アイリの手が僅かに震えている。デクストラが静かに頷き、ジョシュアが励むように微笑んだ。マリンは優雅に髪をかきあげ、「さあ、始めましょう」と言った。
古びた封蝋を外すと、大賢者グレーの達筆な文字が浮かび上がる。
『愛する弟子たちへ
わしは孫のアイリに、最後の魔法をかけた。それは必ず会える魔法。わしが知る者同士が、あるきっかけで出会う魔法じゃ。
死を悟ってから身辺整理をしていた時、一人の男に出会った。歴史研究家のアマテラスという男じゃ。彼はわしの人生を研究していると言い、わしの半生を客観的に語ってくれた。そして、わしは重大な気付きを得た。
それは、弟子たちの繋がりが途切れていることじゃ。
戦争の時代。魔法発展の時代。そして一般魔法の時代。それぞれの時代に、それぞれの想いを持った弟子たちがおった。しかし、時代が違うというだけで、その繋がりは生まれなかった。
これは、わしの最大の過ちじゃったかもしれん。
魔法は人のためにある。それは確かじゃ。しかし、魔法を使う者同士も、繋がっていなければならない。世代を超えて、種族を超えて、時代を超えて。
この魔法陣は、そのための仕掛けじゃ。わしの死を知った時、お前たちの心に小さな波紋を起こし、自然とここへ導く。
そう、これこそが最後の魔法—「縁結びの魔法陣」じゃ。
デクストラよ。お前は魔導の時代を知る最後の者じゃ。
マリンよ。お前は種族の壁を越えて、魔法の新しい道を切り開いた。
ジョシュアよ。お前は魔法を人々の中へと広げていく若き導き手じゃ。
そしてアイリよ。お前は未来へと繋ぐ希望の光じゃ。
四者四様の魂。しかし、その根底にあるものは同じはず。
人を想い、魔法を愛する心じゃ。
これがわしの最後の授業じゃ。
愛する者たちよ。これからは互いに手を取り合い、新しい時代を創っていってくれ。
さようなら。そして、ようこそ。
新しい絆の始まりへ—』
手紙を読み終えた時、魔法陣が柔らかな光を放った。
「まさか…」デクストラが呟く。
「本当に会えるなんて」マリンが微笑む。
「師匠らしいですね」ジョシュアが目を潤ませる。
「おじいさま…」アイリが小さく涙を拭う。
魔法陣の光は、四人の影を一つに重ね合わせた。
それぞれの時代。それぞれの立場。それぞれの想い。
全てが交差する瞬間だった。
夜が明けるまで、四人は語り合った。
デクストラは戦場での師の姿を。
マリンは学園での温かな思い出を。
ジョシュアは生活魔法を研究する日々を。
アイリは最期の穏やかな時間を。
そして夜明け。
四人は再会を約束して別れた。
デクストラは王都へ。
「魔導いや戦争の歴史を、しっかりと伝えていかねばな」
マリンは学園へ。
「新しいカリキュラムを考えないと。種族を超えた魔法使いの交流をもっと深めましょう」
ジョシュアは辺境へ。
「生活魔法を、もっと多くの人に」
アイリは家に残り。
「ここを、みんなが集える場所にしていきます」
四人の背中が、朝日に輝いていた。
大賢者グレーの最後の魔法は、決して派手なものではなかった。
しかし、それは確実に人の心を動かし、新しい絆を生み出していた。
魔法陣は静かに消えたが、その効果は永遠に続いていく。
それは、最も確かな、最も深い、最も人間的な魔法だった。
人と人を、心と心を、過去と未来を繋ぐ—
大賢者グレー・サンドル最後の教えは、そっと四人の心に刻まれていった。




