表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

②『青年期の大賢者』

 魔導将軍デクストラの執務室に、夕陽が差し込んでいた。机上の報告書に目を落とす度に、かつての戦場の記憶が蘇る。


「グレー・サンドル大賢者が逝去されました」


 報告を受けた瞬間、デクストラの胸に静かな痛みが走った。義兄。師。戦友。様々な呼び方が頭をよぎる。


「最期に何か残されていたか?」


「はい。噂では最後の魔法を残されたと…詳細は不明です」


 デクストラは目を細めた。かつての魔導、今で言う古式魔法の可能性が頭をよぎる。現代では使われなくなった、あの時代の魔導の。


***


 馬を駆りながら、デクストラは過去を思い返していた。


 数十年前。彼らは共に戦場に立っていた。グレーの魔導は圧倒的だった。敵陣を焼き尽くし、味方を守り、そして勝利をもたらした。


「甘い!」


 稽古場でグレーに殴られた記憶。数えきれない。しかし、その後には必ず丁寧な指導が続いた。厳しさの中に慈しみがあった。


「人を殺める魔導も、人を生かす魔導も、その本質は同じだ」


 当時は理解できなかったグレーの言葉。それが今、やっと分かる気がしていた。


***


 村に到着したデクストラを、小柄な少女が出迎えた。グレーの孫、アイリだ。


「デクストラ叔父様」彼女は深々と頭を下げた。


「おじい様は、三人の弟子が揃うまで遺言を開けてはいけないと…」


 デクストラは眉をひそめた。三人の弟子—。


 アイリ。そして噂に聞くジョシュア。もう一人は誰なのか。


「他の弟子については、何か聞いていないか?」


 アイリは首を振った。


「ただ、『時が来れば現れる』と言っていただけです」


 デクストラは村を見渡した。平和な風景。かつて自分たちが血で勝ち取った平和。そして、その代償として失われた多くの命。


 グレーは最期に何を伝えようとしているのか。もし、それが古い時代の魔導—人を殺める術であったなら。


 デクストラは密かに決意を固めた。必要とあらば、それを闇に葬ることも覚悟の上で。


***


 アイリの案内で、グレーの書斎に通された。


 部屋の中央には、見慣れない魔法陣が描かれていた。デクストラにも見覚えのない古代文字。しかし、その中心にある印だけは分かった。


 "四魂合一"—4つの魂が一つになる時。


「おじい様は、最期の一年をこの魔法陣の制作に費やしました」アイリが静かに語る。


「そして、『これが私の最後の授業になる』と」


 デクストラは魔法陣を見つめた。これは単なる魔導ではない。むしろ、魔導と魔法の境界そのものを問うているような。


「待とう」デクストラは言った。


「君の兄弟子たちを」


 夕暮れ時、デクストラは村はずれに立っていた。西空が真紅に染まる。


 かつて、同じような夕陽の下で、グレーは言った。


「いつか人々が、魔法に怯えることのない世界を作りたい」


 その言葉の真意を、今ならば理解できる気がした。


***


 その夜、デクストラは宿で一通の手紙を書いていた。


「必要とあらば、私がすべてを終わらせる」


 しかし、ペンを置く手が僅かに震えていた。


 グレー。義兄よ。

 あなたの最後の教えとは、一体何なのか。


 三人の弟子が集うその日まで、デクストラは待ち続けることを決意した。それが、最後の教え子としての、そして義弟としての責務だと感じていた。


 夜空に浮かぶ月を見上げながら、デクストラは思う。

 かつての戦場で見た月と同じ月が、今も変わらず輝いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ