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追放②

 エリックはウォーケン王国の13代目国王であるジェームズと、その王妃リリーとの間に生まれた。

 予定よりも2か月近くも早い出産であったが、エリックは大病を患うこともなくすくすくと育っていく。

三つになるころには簡単な読み書きや計算ができるようになったし、その翌年には現象術を行使するのに十分な才をあらわした。剣術も、七つの頃には大人の修練に交じってもついていけるほどの実力を身に着けていた。容姿も、国有数の美姫と名高い母に似て、十分以上に秀でていた。

人は彼を、神童と呼び、ほめそやした。

才も、容姿も、生まれも、そのすべてを恵まれたエリックのじんせいはしかし、決して満たされたものではなかった。

エリックが一歳の時だ。

母であるリリーが崩御した。

リリーは、もともと身体が強い女性ではなかった。

喘息もちで、またよく体調を崩して寝込むことが度々あった。

それが、エリックの出産を機にいよいよ悪化することとなった。

 出産によって消耗した体力は回復することなく、リリーはベッドから起き上がることすらも難しいほどにひどく衰弱していた。

 生命に干渉する現象術である第三術理を習得した、優秀な医官ですらもリリーを癒すことはかなわず、延命させるだけにとどまった。

 そして、エリックの誕生から一年が過ぎたある日の朝方、ひっそりとリリーは息を引き取った。

 この時は、王宮だけでなく国中で彼女の死が弔われたという。

 穏やかで慈悲深いことでも有名だったリリーは、それだけ多くの人々から慕われていたのだ。

 喪が明けてからすぐ、ジェームズは継室を迎えることとなる。

 隣国フレールの第三王女であったアナベルという女性で、いくつかの政治的な思惑が絡んでのことであったのだが、これが後々、エリックとジェームズとの関係にひびを入れる原因の一つとなった。

 政略結婚としての意味合いが強かったこの結婚であったが、アナベルの穏やかな気風もあってか、ジェームズとの関係は順風であり、彼らの間で新しい命が授かるのにはそれほど時間がかからなかった。

 エリックが二歳になってすぐの頃、第二王子であったアスランが誕生した。

 今回の出産はエリックの時とは打って変わり、特段の差しさわりもなく終わった。アナベルは体調を崩すことも、命を落とすこともなかった。

 穏やかで優しい母親の愛情を受け育てられたアスランは、そんな母に似て誰にでも分け隔てなく接する心優しい青年へと成長していくこととなる。

 一方でエリックは、物心つく前には母を亡くしていたものだから、乳母に育てられることになる。

 この乳母は、十分に乳母としての仕事を全うしていたといえる。しかし、エリックの母親代わりとしてはどうしても、不十分であった。

 エリックは幼少期より人並外れて聡明であった。

 聡明であったからこそ、物心ついたころには悟ってしまっていた。自らを育てるこの乳母が、自らの実の母ではないということを。

 実母がすでに亡くなっているということを知るのは、それから少し後のことであった。

 エリックの聡明さが仇となった。

 何よりも親の愛情が必要な時期であるべきその時代を、母の死という喪失感を抱えて送ることとなる。

 さらに悪いことに、異母弟であるアスランにはちゃんと実母がいた。それすらも聡いエリックはわかっていたし、度々目にするアナベルとアスランの幸せそうなひと時はぽっかりと空いたエリックの空虚を少しずつ確実に広げていった。

 実父であるジェームズはそんなエリックのことを気にかけてはいたが、王という立場と自らの公正さに縛られてしまっていたがゆえに、エリックにもアスランにも平等に接していたため、エリックの喪失感を埋めることはできなかった。

 エリックは見た。自らに母親のように接する乳母を。

 エリックは見た。自らの世話をする従者を。

 エリックはわかっていた。彼らから向けられるその感情が、彼の求めている愛情とは別のものであるということを。

 エリックはわかっていた。でも気付かないふりをした。彼の抱く、その感情がなんであるかということを。

 エリックはわからなかった。その感情が少しずつ、少しずつ。エリックをゆがめる毒となってむしばんでいっているのだということを。


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