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暗渠街の糀寺さん 〜冤罪で無法地帯に堕ちましたが実はよろず屋の若旦那だった同級生に求婚されました〜  作者: 縁代まと


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第93話 in百年の路ガールズトーク

 黒緋蜂くろひばち頭蓋会とうがいかいにより起こされたかすかの誘拐事件後、百年ももとせみちも被害を受けていたが今ではそんなことが起こったとは思えないほど元の賑わいを取り戻していた。


 ――それどころか事件後に集団的な食い逃げと店主たちで一戦交えたり、中規模マフィアの抗争の舞台になったり、暴れ馬ならぬ馬型の暴れ魔種が現れて台風一過のような有り様になったそうだが、それらの爪痕もまったく見当たらない。


 百年の路は暗渠街あんきょがいの中でも比較的クリーンな場所だが、それは食材に限ったことであり、出店している人間たちは腐っても暗渠街の人間なのだなと柚良ゆらに思わせた。


 そんな場所のオープンカフェにて。

 白くて洒落たイスに腰掛けたヘルは普段通りのポーカーフェイスなものの、どことなくそわそわとしていた。正面にはほのかが座っている。


 仄は白から青のグラデーションが夏を思わせるレーススカートを穿き、淡い緑のカットソーを着ており、学校での動きやすい格好とは真逆の印象だった。

 そんな仄も緊張している様子だが、ヘルと異なり始めから柚良に話を聞いていたのか戸惑っている様子はない。


 ヘルはそうっと柚良を見る。


「柚良さま。その、仄さまを呼んだのはもしかして……」

「はい。戦闘訓練も大切ですが、ここも伸びしろですし大切なところですから」


 仄は学校の屋上にある薬草専用のビニールハウスをひとりで管理できるほど薬草学に精通していた。

 本人からすれば「そんな、まだまだですっ!」らしいが、柚良と知識で渡り合えているのだからその才能は只者ではない。


 仄は少しばかりもじもじしながら言った。


糀寺こうじ先生のおかげで知識を深めることができました。なので、その、役者不足ですがヘルさんに薬草や調薬について色々と教えさせてもらいますねっ……!」

「……! こちらこそ宜しくお願いします。そして学校外では初めまして、仄さま。私は補佐をしていますが柚良さまの奴隷ですので、どうぞヘルをお呼びください」

「え!? えっと、じゃあ私のことは仄と呼んでもらえますか?」


 仄の返答にヘルは目をぱちくりさせる。

 そのまま反応に困ってしまい、柚良を見上げると「身分は気にしなくていいんですよ?」とあっけらかんとした答えが返ってきた。

 連続で相手の返答に戸惑ったヘルは静かにあたふたとしていたが、最後にはピタッと止まって仄を見る。


「ほ……」

「!」

「ほ、……ほ……。――私にはまだ難度が高いようです。仄さんとお呼びしても宜しいでしょうか」


 だらだらと冷や汗を流しつつも期待を込めて言ったヘルの姿に仄と柚良は顔を見合わせ、すぐに笑うと「もちろんです!」と快諾した。

 代わりにヘルのことも呼び捨てにせずさん付けとなったが、ヘルも強くは反対せず、丁度その時に注文していた品々が到着したことで本決定となる。


 柚良が頼んだのは山盛りミートパスタ。しかもミートボール入りである。

 大変ボリュームのあるそのパスタは店主が剛腕を唸らせ作ったもので、お洒落なカフェの裏定番メニューとなっていた。


 仄が頼んだのは数種のチーズを使ったピザとサラダ。

 ピザは店内に設置されたピザ窯で焼かれており、カフェの表の定番メニューがこれだ。ヘルから見ると大きいが仄の前に置かれるや否や通常サイズに見え始める。


 ヘルが頼んだのはオムライス。

 ケチャップで花が描かれている。もちろんこれも屈強な店主による傑作だった。


「さて、お行儀云々は抜きにして食べながら薬草と調薬について話しましょうか。仄さん、初心者のヘルさんが作るのに適した薬はなんですか?」

「危険度と失敗率の低い回復薬や麻酔薬です。効果はピンキリですが計量ミスをしても形になる範囲が広いので。あっ、もちろん材料の質が高いこと前提ですが……!」

「あー、私の時は初めて作った際に最高級の回復薬を目指したせいか爆発したんですよね。あれも低い品質から始めれば良かったなぁ……ヘルさん、これ反面教師にしてください!」


 普通は調薬をミスしても回復薬なら爆発はしない。

 仄は絶句し、ヘルは少し前に万化亭ばんかていの構成員や使用人内で噂になっていた異臭騒ぎを思い出した。


「もしかして失敗するとにおいも酷いことに……?」

「ざ、材料によっては。もしかして糀寺先生、そういう失敗もしたことが?」


 ヘルの様子に仄は恐る恐る柚良を見る。

 刺激臭を伴う場合はあるが、それにも程度というものがあるのだ。


 柚良は苦笑しつつ「大変なことになりましたけど、薬としては成功しましたよ!」と言ったのちに薬の形容し難い色合いや調薬方法、そして材料を述べて仄を再び絶句させた。


「先生、それってもはや独自ブレンドの新薬ですよ! 真似できない感じの……!」


 感嘆半分、焦り半分といった表情で仄はヘルを見る。


「ヘ、ヘルさん、基礎からがっつり学びましょう! 下手に天才のやることを見てると二本しかない腕を十本あると錯覚して失敗しまくっちゃいます!」

「え、私の腕は二本――」

「魔法を学ぶ際に薄々察知してました。お願いします、仄さん」


 魔法に関してはヘルには才能があった。

 柚良も精通しており、加えてヘルの力量も把握していた。


 しかし薬に関してはそうではない。

 教える側も教えられる側も慣れておらず、しかも前者は規格外というオマケ付きである。そのアンバランスさが仄は怖い様子だった。


 柚良はなにか言いたげだったが、初めに自身の不慣れさを挙げた上で仄を抜擢したのは他でもない柚良自身だ。

 そのためピザを食べつつヘルに熱く語る仄を見てそっと身を引く。

 ヘルは熱心に耳を傾けていた。


(なんにせよ……お二人のお友達度が上がったのは喜ばしいことだしオッケー!)


 話し込むふたりの姿を眺めながら、柚良は満足げにミートパスタを頬張った。

 薬の勉強も息抜きもまだまだ始まったばかりである。

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