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暗渠街の糀寺さん 〜冤罪で無法地帯に堕ちましたが実はよろず屋の若旦那だった同級生に求婚されました〜  作者: 縁代まと
第四章 ヘルパーニュの悪い夢

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第87話 二種類の冷や汗の合間に

「これはこれは、蒼蓉ツァンロン様。お久しぶりです、直接お会いするのはもう何年ぶりになるでしょうか」

「やあ、エイルジーク。元気そうでなによりだよ」


 エリオン本部の応接室にて。

 本当にご立派になられて、と人の好さそうな笑みを浮かべたのはエリオンの長であるエイルジーク・ニェチェだった。


 ふくよかな男性だ。巨漢というよりも柔らかそうな印象を受ける。

 加齢により白く色の変わった髪を整髪料で丁寧に整えており、ふわふわとした口ひげも長さがきっちりと計算されていた。


 彼の身に纏っている白いスーツには余分なシワはひとつたりとも付いていない。

 シンプルなデザインながら美しいループタイには洒落気がある。

 履いている靴も手入れが行き届いており、上品な艶が見て取れた。


 そして穏やかな表情はオルタマリアの報告とは似ても似つかない。


 エイルジークは暗渠街あんきょがいどころか表の世界で出会ったとしても警戒心を持たれることはないだろう。

 そう思わせる柔和な風貌と雰囲気だった。

 蒼蓉は目を細め、形ばかりの笑みを浮かべて挨拶を返すと「さっそく本題なんだが」と切り出した。


「先日オルタマリアがウチに来たんだ。それは把握しているね?」

「はい、徹底的に監視をしていたのですが力が及ばず申し訳ありません。申佑シェンヨウ様とも約束を違えることになってしまい――」

「その約束の内容、ちゃんと覚えてるかい?」


 もちろんです、と即答してエイルジークは深々と頭を下げた。


「ですがオルタマリアには更によく言い聞かせ、二度と同じ過ちが起こらないよう善処致します。どうか、どうか寛大な処置をお願い申し上げます……」

「……。なるほど、じゃあこれが何かわかるか?」


 かちり、と固い音をさせてテーブルの上に置かれたのは壺の破片である。

 エイルジークはそれをまじまじと見つめた後、壺の模様や材質から正体を把握したのかドッと冷や汗を流した。


「こ、これは古代デイナトス帝国の使者が持参した献上品のひとつ、デイナトスの壺。たしか万化亭ばんかていが所有していた品では……」

「それをオルタマリアが壊した」

「!!」


 エイルジークの頬が引き攣る。それにつられて口ひげまで跳ねた。

 隣に座りながら蒼蓉の話を聞いていた柚良ゆらは「よりにもよってそんなものを選んで割ったんですか……!」とエイルジークとは別種の冷や汗を流したが口には出さず、今は自分がやるべきことを進めようと集中する。


 柚良は同行することだけが仕事ではない。

 この話し合いの裏でドロスの三姉妹に指示を出し、屋敷の中を調べるという役目があった。


 老婆の顔にカラスの体を持つドロスの三姉妹は隠密性に優れ、攻撃に転じなければ蒼蓉の影たちですら気づくことができない。

 反面、柚良が使役していることが明るみに出れば『九つの会』のレイラー・エリヴァイ殺しの犯人だという濡れ衣を着せられかねないという諸刃の剣でもあった。

 しかし今回この隠密性を活かさない手はないだろう、と作戦に組み込むことになったわけである。


 幸いにもとんでもない一品を犠牲にしたおかげでエイルジークは蒼蓉にかかりきりになっている。


 柚良は応接室に通される前に屋敷の中に潜ませておいたドロスの三姉妹に探索を開始するように命じた。

 影に潜み、屋敷の中を縦横無尽に動き回るドロスの三姉妹はそれぞれ一定の情報を収集すると定期的に柚良のもとへと報告に訪れる。

 その姿はエイルジークには見えていない。


 カラスの発する人語のような、しかしカラスにはなかなか真似できない囁き声を聞きながら柚良は考える。


(ふむふむ、やっぱり万化亭みたいに結界はあるけど内側に入っちゃえば反応しないタイプかぁ。変なのを招き入れたが最後なのに危ない……あっ、そのぶん人の目による警戒に力を入れてるのかな?)


 エリオンが所有する武器庫の品揃えはなかなかのものであり、私兵用の訓練施設も敷地内に用意されていた。

 恐らく私兵も優秀な人材を用意しているのだろう。

 結界魔法にも抜け穴がある上、魔導師の力量に左右されるため警備の仕方は各組織によって力の入れる部分が異なってくるのだ。

 エリオンは人力による警備に注力していたらしい。


(今のところ様子は普通に見えるけれど、オルタマリアさんの言った通りならその警備をどうにかした人物がいるってことか……)


 優秀な人物を選んでスカウトしていたところを見るに、隠世堂かくりよどうにはそれを難なく成せる人物が所属している可能性がある。

 柚良は慎重に探らせつつ、丸めた手のひらに鎮座したオルタマリアを見下ろした。


 オルタマリアはこの場ではただの召喚獣扱いのため、言葉を発さないよう静かにしている。その円らな瞳はエイルジーク――父親に向けられていた。

 オルタマリアが蒼蓉に謝り倒している父親にどのような感情を抱いているか柚良にはわからない。しかしふたりのやり取りに口を挟む気がないのはよくわかった。


(今回は演技だけど、いつかは目にすることになる光景かもしれないし……その時はオルタマリアさんにとって納得できる結果になると良――……ん?)


 ドロスの三姉妹のうちの一羽が再び柚良に報告する。

 それはゲストルームらしき部屋に、明らかにエリオンに所属しているとは思えない異質な人物がいたという報告だった。

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