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暗渠街の糀寺さん 〜冤罪で無法地帯に堕ちましたが実はよろず屋の若旦那だった同級生に求婚されました〜  作者: 縁代まと
第四章 ヘルパーニュの悪い夢

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第83話 ナメてもらっては困りますわ!

 目を開いた。

 目を開いたのに『閉じたままだ』と錯覚するほど暗い空間だった。


 オルタマリアは重い頭を上げて周囲を見回したが、ついさっきまで閉じていた目でさえ慣れることのない闇に阻まれて場所を把握することが適わない。

 腕は背中側でロープを使って縛られており、ご丁寧に親指まで別途拘束されていた。両足も同じような状態だ。


 しかし口は塞がれていない。

 気を失っている間に窒息することを恐れたのだろう。

 そして、それはもうひとつの可能性も示していた。


(叫んだところで助けは望めないということですわ)


 オルタマリアは思考する。

 恐らく犯人は帰宅した際に鉢合わせた黒髪の女性だろう。

 オルタマリアには見覚えのない人物だったが、大きな組織はそれだけで恨みの対象になるため、見ず知らずの人間から狙われることにオルタマリアは慣れていた。

 誘拐された経験もあり、その時の経験からパニックにならずに確認を進めていく。


(お父様は……覚えている限りでは慌てることもわたくしに殺意を向けることもなかった。けれど最後まであの場にいた。お父様が黒髪の方と敵対していないのなら、あまり助けを望める状態ではなさそうですわね)


 どういう理由かはわからないが、父のエイルジークはオルタマリアがこの状況に陥ったことに一枚噛んでいる。

 しかし父からの愛情を確信しているオルタマリアは「まぁなにか深~い理由があるんでしょう!」と落ち込むことなくモゾモゾと感触だけで拘束を確認した。


(うーん、たぶん巴結びですわ。さすがに自力で脱出は不可能ですわね、奥の手はありますけど……)


 オルタマリアは魔法に秀でているわけではない。

 そして頭は良いが体術も護身術程度で、しかも物騒な暗渠街あんきょがいでは歯が立たないことが多かった。表の世界なら腕っぷしの強い女性として名を馳せていただろうが暗渠街では基準が異なる。


 それでも比較的安全に過ごせていたのはエリオンの後ろ盾あってのことだ。

 ただし、オルタマリアは蒼蓉が絡むと何事も全力で取り組む。同時に人間の限界も越えてしまうため、壁くらいなら登れてしまう勢いがあった。

 それが結界の張られた万化亭ばんかていの壁であったとしても、だ。


 その勢いを以てしても、今のこの状況からは抜け出せない。


 結界に焼かれた時も無傷ではなかった。痛みもあった。

 今も無理に逃げ出そうとするなら親指を引き千切る勢いが必要だろう。


 しかしそんな怪我をして拘束を外せたとしても、手負いのままここから脱出できるとは思えなかった。

 この暗闇から抜け出すすべもわからなければ、例の女性の実力や他に仲間がいるのかどうかも明瞭ではない状況なのだから。猪突猛進なオルタマリアだが自ら死に向かうほど馬鹿ではない。

 そのため拘束を外すなら無傷が条件になる。


 そんなオルタマリアの持つ奥の手なら、ここからあっという間に抜け出すことができるだろう。それどころか万化亭ばんかていへ助けを求めに行くことも可能だ。

 しかし大きなリスクも存在しており、三分以内に片をつけなければオルタマリアの今後の人生を丸ごと賭けることになるような代物だった。


(それを使って屋敷の外へ逃げるのではなく、この場で犯人を倒せれば三分以内になんとかなるかもしれませんが――)


 リスクはひとつではない。

 賭けの中で賭けをするはめになる。


 オルタマリアがどう選択すべきか悩んでいると突然遠くから明るい光が射し込んで目の奥が痛んだ。

 しかしそれは目が闇に慣れていたせいで、光自体はそう強いものではない。

 何度か瞬きをして眩しさが弱まると――オルタマリアが捕らえられているのは鉄製の柵に囲われた牢であり、光は廊下の先にある階段から漏れていることがわかった。


 そこから何者かが歩いてくる。

 響く足音はひとり分だ。


 それは黒髪の女性だった。

 逆光の中でようやくそう把握した頃には、彼女はオルタマリアの牢の前まで辿り着いていた。


「おっ、起きたか。餓死されちゃ困るから目ェ覚めて良かった良かった」

「餓死?」

「薬の分量ミスっちまってな、二日間寝っぱなしだったんだ。とりあえずメシ食って大人しくねんねしときな」

「……あなた、一体何者なんですの? わたくしを殺さずに捕えているということはなにか企んでますわね?」


 女性は「クメスフォリカだ」と名乗るとキャンプファイヤーかと思うほど豪快に山積みにされたパンと水をのせたトレイをオルタマリアの前に置く。

 食べさせる気はないらしく、暗にそのまま犬食いしろと言っていた。


「言っとくけどそんなに利用価値ないぞ、お前。ただエイルジークの娘なら使えるかなと軽くキープしてるだけだ。ウチは人間の消費量が多くてなにかと入用なんだよ」

「……」


 消費量、という言葉の真意はオルタマリアにはわからない。

 しかし偽名の可能性はあるものの素直に名乗ったところを見るに、それは今後一切表に出されることなく命を奪われる可能性が高いことを示唆していた。


(大分アルコール臭いけれど、我が家で使っているルームフレグランスを纏ってますわね。長時間残る匂いではないので……ここはまだうちの敷地内に違いないですわ。そして階段の位置から地下。地下ならどこかに換気口があるはず)


 オルタマリアがそう逃げる算段を立てていると、クメスフォリカは「アタシが帰る時にお前も連れて帰るから、それまでにちゃんと食えよ」と言い残してその場から去っていった。

 再び真っ暗闇になるなりオルタマリアは素直にパンを咥えるようにして食べる。


 自害予防もしていかなかったのは「使えると思ったけど、まあ死んだら死んだでいっか」ということだ。クメスフォリカの言っていた通り利用価値は低いらしい。

 そんなにも軽く扱われて死ぬのを待つくらいなら、とオルタマリアはコップを倒してトレイに零した水を啜りながら考える。

 そしてばっちり栄養補給をした後、クメスフォリカが消えた方角を見つめながら笑みを浮かべた。


「このオルタマリア・ニェチェをナメてもらっては困りますわ。人間として生きられずともこの命を守り、見事ここから抜け出してみせましょう!」


 その瞳の力強さは奥の手を使う覚悟ができたことを示している。


 オルタマリアは集中すると体内の魔力を特殊なルートを通るように導いた。

 それは体内に魔法陣を描くような複雑さがあり、魔導師ではない人間には至難の業だったが――己の特殊体質のために幼い頃から訓練を積んでいたオルタマリアにはミスのしようがない行為だった。


 ニェチェ家の者は百人にひとりほどの確率で変身体質を持って生まれてくる。


 エイルジークはその体質に当てはまらなかったが、オルタマリアは見事に引き当てていた。

 この事実は秘匿されており、知っているのは一握りの人間のみだ。

 クメスフォリカもそれを把握していたならもう少し『役に立つもの』として扱っていただろう。


 ただしこの変身は三分以内に解除しなければ人間の姿に戻ることが叶わなくなる。

 一日一回しかできない変身先もまったくのランダムであり、人間以外のなにか、という大きな括りしかわからない。


 しかしオルタマリアは経験上、変身先は自分がいる空間よりは大きくならないことを理解していた。サイズに関しては防衛本能が働くのだろう。

 小さければここから脱出できる。

 もし犬ほどの大きさがあったとしても、拘束からは逃れることができる。

 後者の場合はその場で変身を解いてもいい。今ここで使う価値はある。


 そう判断を下したオルタマリアは大きな脈動を感じながら姿を変え――ぺちん、と床に落ちた。


 暗い。

 そのため何に変身したのかわからない。

 しかし拘束は解けた。加えてなぜか翼はないのに飛ぶことができる。


 変身先は一般人的な動物に限らず魔種ましゅも含まれるため、恐らくなんらかの変わり種になったようだ。

 変身した肉体のことをもっと理解すればできることが増えるだろうが、今は飛べるだけで十分だとオルタマリアは空を舞い、檻の隙間をすり抜けた。


 先ほどクメスフォリカが来た時に檻の幅は確認している。

 大分小さくなれたようだ。これならいける、とオルタマリアは風の流れを確認して換気口を探り、その中へと突っ込んだ。


 ――換気口から続くダクト内を移動している間に三分間が経過したが、今のオルタマリアには些細なことだった。

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