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暗渠街の糀寺さん 〜冤罪で無法地帯に堕ちましたが実はよろず屋の若旦那だった同級生に求婚されました〜  作者: 縁代まと


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第45話 行方不明者を探して

「……あれっ、どうしたんですかアルノスさん?」


 朝、廊下でアルノスと出くわした柚良ゆらは彼がきょろきょろと辺りを見回しながら歩いていることに気がついて声をかけた。

 そこまで不審な動きではないが、知人がしていたら気になる動きである。

 声に反応して顔を向けたアルノスは気難しげな表情だったが、柚良を見るなりぱっと笑みを浮かべて歩み寄った。


「メタリーナ先生を探してたんだよ、その辺にいなかった?」

「見当たらないんですか?」


 そうなんだ、とアルノスは困ったように眉を下げた。

 休みの連絡はなかったという。表の世界ならもっと心配するところだが――ここは暗渠街あんきょがいだ。

 なにが起きてもおかしくはない、とアルノスは肩を竦める。


「授業に使う資料も用意してないしさ。今まではふたり体制でやってたから、最悪今日は全部俺がやんなきゃかも」

「それは大変ですね……! お手伝いしましょうか? 昨日どこまでやってたか覚えてますし」

「……たまに覗きにきてたのは知ってたけど、受け持ちの授業以外も覚えてるの?」

「はい、どこまで進んでるのか参考になるので」


 魔法が関わっているからこそなのだろうが、アルノスは「やっぱ柚良ちゃんは凄いなぁ」と呟きつつ窓の外を見遣る。

 屋外も見える範囲にはいないようだ。


「ただの遅刻の可能性もあるけど、あと十分探していなかったら頼もうかな」

「お任せを!」

「ただ若旦那には手伝わせたことは秘密にしといてくれよ」


 どうせ知らないうちに伝わってそうだけど、と半ば諦めつつアルノスは苦笑した。

 万化亭の目はいったいどこにあるのかわからないのが恐ろしいのだ。

 息のかかった施設である校舎内なら尚のことである。


(それにしてもメタリーナは本当にどうしたんだ……? 仕事にプライドはあるみたいだから無断欠勤はしたことないのに)


 ただの遅刻の可能性もあると言ったものの、もしそうなら遅刻の原因は碌なものではない。

 日々横行している犯罪に巻き込まれたか、組織間のいざこざか、はたまた馬鹿なチンピラに襲われて足止めされているか。


 メタリーナは性格は決して良くないが、実力はある。

 そう簡単にはやられないだろうが――アルノスから見たここしばらくの彼女はどこかぼうっとしており、心ここに在らずといった様子だった。


(奇襲されたらそれなりの結果にはなるか)


 一応は恩人、気掛かりではあるものの善意からの心配をしているかというと本心は異なる。

 アルノスはそう思案しつつ校内を見て回ったが、結局メタリーナを見つけることはできず、資料集めは柚良に手伝ってもらうことになったのだった。


     ***


 ――それからしばらく経ったが、メタリーナの行方は依然としてわからないままだった。

 その一報は蒼蓉ツァンロンにまで届き、調査が行なわれたものの彼女が今どこにいるかは一向にわからず、ただはっきりしているのは『メタリーナの自室は綺麗に片付けられていた』ということだけである。


 よって蒼蓉は自分の意思で出て行ったと判断し、メタリーナを解雇処分にした。


 曰く「暗渠街ではわりとよくあることだよ、表みたいに正式な手順で辞める人間ばかりじゃない」とのことだが、柚良としては諦められない。


(メタリーナ先生は生徒に教えるのが上手でしたし、似合ってた。だから自分から辞めるなんてことないはず……)


 自分も探しに行きたい。

 そう直談判しようと蒼蓉の自室前まで来た時――中から姿を現した部屋の主、蒼蓉の姿を見て柚良はきょとんとする。


 蒼蓉はブレザーの制服を着ていた。

 柚良も通っていた私立高校の制服である。


「やあ、おはよう糀寺こうじさん」

「あ……えっと、おはようございます。その格好……」

「今日から学校なんだ」


 見れば耳飾りをはじめとした装飾品もなく、爪は素爪であり普段身に纏っている香りもしない。

 表情を除いてすべて柚良が教室で見ていた『優等生の蒼蓉くん』だった。


「今日からだったんですね、というかお家からきちんとその姿だったんですか!?」

「早めに役作りしときたくてさ、特に長期の休み明けはボロが出やすい。どうだい、ちゃんと君の見てきた蒼蓉になってるかな?」


 蒼蓉はそう言うと己の顔を手のひらで覆い隠し――次に顔を見せた時には、どこか自信なさげな優しい青年の顔をしていた。

 あまりの早業に目を丸くした柚良は思わず拍手する。


「蒼蓉くん、役者さんになれますよ!」

「ははは、本当の自分を忘れそうだからいい。それよりなにか用があったんじゃないのか」


 元の表情に戻すと蒼蓉は首を傾げて訊ねた。

 普段は傾げたタイミングで耳飾りが揺れるので、なにもない今は不思議な感覚だ、と柚良は感じながら目的を説明する。


 蒼蓉は「糀寺さんらしいな……」と呟きつつ眉を下げた。


「でも駄目だ、君は一応は隠れてる身なんだから大人しくしときなよ」

「けど……」

「もちろん気に掛ける気持ちはわかるとも。……彼女は教員としては処理した、でも自分で出ていったならその理由は我々に必要なものだ。だから調査は続けてる」


 もうしばらくボクらに任せなよ、と蒼蓉は柚良の髪に触れながら笑う。


「それよりボクは今まで以上に君と会えなくなるのが寂しいな、朝食の時間も合わなくなるしさ」

「あはは、蒼蓉くんはホントに寂しがりやですね」


 頬を掻きつつ柚良は斜め下を見た。


「でも――そうですね、百年ももとせみちの件でもお世話かけちゃうところでしたし、万化亭ばんかていの調査力を信じることにします」

「おや、嬉しいな」

「でもなにかわかったら教えてくださいね……!」

「いいとも、耳障りじゃないものだけね」


 そんなー! と言葉を続けようとした柚良の頭をぽんぽんと撫で、蒼蓉は廊下を歩き始める。


「まぁ糀寺さんは生徒を育てるのに集中しておきなよ、ボクも――」


 そして蒼蓉は自身の耳元をトントンと叩いた。


「――自分の耳で色々と聞いてくるからさ」

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