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暗渠街の糀寺さん 〜冤罪で無法地帯に堕ちましたが実はよろず屋の若旦那だった同級生に求婚されました〜  作者: 縁代まと
第一章 暗渠街の婚約者

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第22話 効くってことを教えてあげますね

 万化亭ばんかていで働き始めたアガフォン、ソル、ヘルの三人はそれぞれ従業員として教育され、すぐさま即戦力になった。

 それもこれもベルゴの里の方針で奴隷商にいる頃からしっかりとした教育がされ、上質な下地ができていたからこそだ。

 帳簿をつけるアガフォンとヘル、在庫を一切間違えずに管理するソルを眺めながら蒼蓉ツァンロンが言う。


「これがあそこの売りだ、値は張るけどそれだけの価値があるだろう?」

「いや〜、皆さん私より働き者ですね……!」

「そうでもないと思うよ」


 柚良ゆらの働きぶりを思い返した蒼蓉がそう言ったが、魔法に関わる事柄は趣味の延長のようなものだと捉えている柚良はいまいちピンと来ない顔をした。

 今日は木曜日だ。

 奴隷三人は教育のためにしばらく忙しそうだったため、敢えて接触せず様子見をしていたのである。もちろん不安にならないよう三人には事前に説明済みだった。


 柚良の姿を見つけた三人は背筋を伸ばして立ち上がると頭を下げる。


「皆さん、大分慣れたみたいですね!」

「姐さんのおかげだ。魔法の基礎訓練までしてもらえて、ホントなんて礼を言ったらいいか……」

「そうそう! 基礎訓練も蒼蓉くんが手配してくれたんですよね。どうですか、ちゃんと才能はあったでしょう?」


 柚良がそう訊ねるとアガフォンと顔を見合わせたソルが「ちょっとだけ」と情けなさそうに言った。


「ちょっとだけ……? あー、躓いてるところがあるんですね。……蒼蓉くん」

「一通りの基礎は叩き込んだって報告を受けてる。無茶しないならここから君が引き継いでもいいよ」

「やった! ありがとうございます!」


 この数日で魔法の基礎を叩き込まれたということは相当ハードだっただろう。

 表の世界でも一ヶ月ほどかけて体に覚え込ませることだ。

 それをこの短期間で合格点まで持っていったのなら、やはり才能がある。それもピカイチな。


(それを三人が自覚してないなんてもったいないもんね、……あ、そうだ)


 はっともうひとつの目的を思い出した柚良は「三人に渡したいものがあるんですよ!」と手を叩いた。

 嬉しげなその様子にアガフォンはきょとんとする。


「わ、渡したいもの? 我々にですか?」

「はい、契約を結んだ際に気になっていたので」

「ボクとのデートの真っ最中に買い漁ってたのはこれか」


 納得した様子ながら目が笑っていない蒼蓉を見てアガフォンとソルが冷や汗を流し、ヘルはススッとアガフォンの陰に隠れた。

 それに気づかず柚良は「まずはこれですね」と細長いサイズの箱を取り出す。


「いやー、暗渠街あんきょがいでもやっぱりお手軽な値段じゃなかなか見つかりませんね」

「これは……」

「スモールワンド……魔法補助用の小型杖です。魔力の安定に使えるので今後役立つと思います。加齢してから魔法に目覚めると加減を誤りがちなので」


 箱の中には肘から指先ほどの長さがある木製の杖が収まっていた。

 全体はシックな焦げ茶色で、木目の見える表面に加工がしてあり艶やかな仕上がりとなっている。


「本当はラージワンドで魔力の保存も出来るタイプが欲しかったんですが、あそこじゃ見つかりませんでした……私の愛用していた杖もどこへ行ったのやら……」

「ははは、ウチなら用意してあげられるんだけどね」

「!? さすが万化亭! それはいくらほど――」


 食い気味に言った柚良を見て蒼蓉は卓上のそろばんをパチパチと叩いた。

 指はとんでもない桁の上にある。


「これくらいかな」

「……失敗覚悟で私が機能拡張を試みたほうが望みがあるレベルですね?」


 見間違いかと何度も目を凝らした柚良は「けど職人の技術がなきゃ大抵道具が先に壊れるんですよ。エンチャント然り」と肩を落とした。

 杖はただその形にすればいいというものではない。

 魔力を流しやすい形状にするのも、それでいて洗練されたデザインにするのも、そして耐久性を伴わせることも製作者の技術力次第なのである。


 柚良は魔法の才能は有り余っているが、調薬然り物作りにはあまり向いていなかった。とはいえ普通の魔導師から言わせれば天と地ほどの差があるが、柚良本人はプロと比べるなんて失礼だと考えている。


「そんなわけで機能的には劣りますが、もらってくれますか? アガフォンさん」

「む、む、むしろ頂いても宜しいのですか?」

「もちろん! 先行投資ですから!」


 アガフォンはぷるぷると震える手で杖を受け取ると「ありがとうございます」と頭を何度も下げた。


「頑張って使いこなしましょうね! さて、次はソルさん!」

「俺にもなにか……!?」

「全員にありますよ。ソルさんは――その、間違っていたら申し訳ないんですが」


 柚良はちらりとソルの顔を見上げる。

 ソルも視線を落としたことで目元が翳ったのか、金色の目の奥で瞳孔が収縮した。


「視力、めちゃくちゃ低いですよね?」

「!」

「おや? 書類にはそんな短所書いてなかったけどな」


 不思議そうにする蒼蓉にソルはだらだらと冷や汗を流す。

 書類だけでなく普段の動きや働きぶりを見ていてもそんな気配はなかった。

 しかしその様子だとドンピシャですねと柚良は笑う。


「す、すんません! 商品価値が下がると命に関わると思って、それで、えーっと」

「いいですいいです、わかってて選びましたから!」

「ベルゴの里にいた段階でバレて……!?」

「ソルさんって目つきが悪いじゃないですか、眉間にしわも付いてますし。で、もしかしたらとあたりをつけて観察してたんです」


 ソルは視力が低いことを悟られないために常に目を凝らし続けていた。

 その影響が人相にまで出たのだ。


 低視力でも他に売りになる長所があればベルゴの里での商品価値は保たれる。

 しかしソルは長所を得る前に目が悪くなり、しかもそれは奴隷として里に入った後だったため、見くびられてはならないと必死に勉強したのだという。

 そうぽつぽつ話したソルは眉をハの字にする。


「勉強はからっきしだったけど、あそこの教育が凄くってさ、路地裏で死にかけてた時より断然賢くなったんだ。けどそれに比例するように目が悪くなっちまって……」

「そうでしょうね~……。で、そんなソルさんにはこちらを!」


 柚良は両手の平にのせたメガネケースを差し出す。

 そう、メガネである。


「……えっ!? お、俺、正確な視力測られた覚えないんだけど」

「今後変わるかもしれないんで、長く使えるよう自分で魔力を通して調整できるやつにしました」

「自分で!?」

「今回は私が調整しますね。はいどうぞ!」


 促されたソルはおずおずとメガネ――スクエアタイプの黒縁眼鏡をかけた。


 このフレームに使われている材質が特殊であり、更に特殊なレンズに魔力を伝え度数を変更するのだという。

 柚良は仕組みを更に詳しく説明したがソルにはちんぷんかんぷんだった。


 軽くフレームに触れた柚良が「少しずつ変更していくのでよく見えるタイミングで教えてください」と伝え、度数を調整していく。

 そして判明した一番よく見える度数から少し下げる。これは見えすぎて目が疲れないようにという配慮だ。

 こうしてメガネは『ソル専用メガネ』として完成した。


「す、す、すっげぇ……! ここから棚のラベルまで見える……!」

「それ以上は日常使いにするには目が疲れるんで少し下げてますが、ソルさんが魔法を使いこなせるようになれば用途に応じて変えられますよ」


 つまり目が疲れてもいいからよく見たいものがあれば、その時だけ自分の意思でレンズの度数を変えられるというわけである。

 まさに魔法のような一品だった。

 じっと柚良を見たソルは突然その場に正座すると、きらきらとした眼差しで言う。


「姐さん! やっぱりこれからは敬語を使って敬わせてください!」

「え!? いやホント楽にしてていいですからね!?」

「俺がこうしたいんっすよ!」


 柚良は口籠ったが、どうにも敬語が定着しない環境で幼少期を過ごしたのか、ソル自身は気づいていないものの今も完璧な敬語ではない。

 ならいいか、と柚良は「仕方ないですね」と許可した。


 メガネの時並みに喜ぶソルの隣でヘルが柚良を見上げている。

 そちらへ微笑むと、もちろんヘルさんにもありますよと柚良は親指を立てた。


「ヘルさんは魔力の流れを感じ取るのが苦手じゃないですか?」

「……! はい、基礎訓練の時にそう言われました。……わかるんですか」

「外から専用の魔法を使えば見えますよ。魔力を溜める力はあるけど体に巡らせる力が弱いんですよね。――でも大丈夫! 年若い子にはよくあることです!」


 そこでこれの出番なんですよ〜、と取り出したのはリボン付きのバレッタだった。

 リボンは群青色をしており、クリーム色の控えめなフリルに縁取られている。その中央には花の形に配置された紫色の石が光っていた。

 可愛らしくも気品に溢れている。


「魔力を操作しやすくする補助具です。感じ取りにくいのは魔力の動きが乏しいから! なら動かしてココだー! ってわかりやすくしちゃえば良いんですよ」


 そんな物理的なことへの対処法みたいなのが魔力にも効くのか、と蒼蓉は半信半疑だったが、柚良は自信満々で「効きますとも!」とバレッタを許可を得てからヘルの頭に着けた。

 そして自信満々であり――そして心底楽しげな顔で四人を見て言う。


「ちゃんと効くってこと、私がしっかりと指導して教えてあげますね!」

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