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暗渠街の糀寺さん 〜冤罪で無法地帯に堕ちましたが実はよろず屋の若旦那だった同級生に求婚されました〜  作者: 縁代まと
第一章 暗渠街の婚約者

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第18話 本物の罪人も同然だ

 奴隷商を出た足で蒼蓉ツァンロンが向かったのは屈強な男性が店長を務めるファンシーなカフェだった。

 あまりにも蒼蓉の趣味とかけ離れた場所だが、店長が相当な手練れのため面倒な客がほとんど来ないところを気に入っているのだという。

 料理も見た目は可愛いが味は高級レストラン並みで、ただの卵サンドを頼んだはずの柚良ゆらは目をまん丸にすることになった。


 その後、柚良のリクエストで何軒かの店を回り、日も暮れてきたからと蒼蓉は「予約しておいたんだ」と宿泊するホテルへ柚良を招いた。


「……えっ!? 同じ部屋なんですか!?」


 ――そして柚良がチェックインの際に発した第一声がこれである。

 蒼蓉はにっこりと笑いながらひとつしかない鍵を持って移動し始めた。


「いつも同じ建物で過ごしてるんだ、似たようなものじゃないか」

「その理論で行くと個室の中に個室が必要になりますよ」

糀寺こうじさんはボクと同じ部屋じゃ嫌?」


 なにかを試すような、それでいて楽しんでいるような声音で蒼蓉は問う。

 柚良は眉をハの字にしながら答えた。


「寝相がすこぶる悪いので蒼蓉くんを蹴り落としたら大変だなと……」

「なに、さっきから心配してたのってそこなのか」

「あ! 言っときますけどベッドが分かれてても被害が出る時は出ますからね!」

「被害」

「妹と寝てた時なんて相手のベッドにまで転がっていって蹴落としてましたから」

「君はカッコウの雛かなにかか」


 しかし被害だねそれは、と蒼蓉はどこか頭が痛そうな表情をして部屋へと入った。

 ぱちりと電気のつけられた部屋は明るく、窓の外には少々下卑た夜景が広がっている。ネオンの灯りは妖しく見えるが、それでも暗渠街あんきょがいにしては整っており綺麗だった。

 窓に近寄った柚良は目を輝かせる。


「すごい、この窓……魔法障壁四重ですよ、しかもこんな大きなサイズで。繋ぎ目もないし良い職人がいますね……!」

「うーん、ボクもそろそろ慣れないとな」

「蒼蓉くんもあまり見ないものなんですか?」

「いや、こっちの話だ」


 つっけどんにそう言いながら、どことなくつまらなさそうな表情をしている蒼蓉は年相応に見えた。

 柚良は首を傾げていたが、このホテルの宿泊代まで出してもらっているのだと思い出すといそいそと荷物を置いて蒼蓉の外套を脱がしにかかる。


「お客様気分でいすぎましたね……! 今日はいっぱい歩きましたし、ゆっくり休みましょう」

「べつにそこまでする必要はないんだが――ああ、まあ」


 外套を脱がせている柚良を見下ろしながら「これはこれでいいか」と蒼蓉は小さく呟いた。

 柚良は今日買ってもらったものを思い返しつつ、どうお返ししようか考えている最中に「買ってもらった」と表現するのに些か気が引ける三人の顔を思い浮かべる。


「あの三人も安くはなかったんでしょう? おかげで色んな人の才能開花のお手伝いをできそうで私としては嬉しいですけど」

「――そういえば糀寺さんって人に魔法を教えるのが好きなんだね。ひとりで黙々と突き詰めるタイプだと思ってたが」

「魔法って千差万別なんですよ、同じ魔法でも使う人によって癖が違いますし。そういうのを見るのが好きなんですよね。あと自分の教え子が魔法を活かして各所で活躍するのって最高じゃありません?」


 表の世界でひとりで黙々と突き詰めることが多かったのは正体を隠しながら学校に通っていたからであり、柚良の本質は様々な人間の魔法やその成長を求めていた。

 そう目をきらきらさせる柚良を見て蒼蓉は片側の口角を上げる。


「でもここは暗渠街だ、表の世界のように輝かしい未来なんか待っちゃいないよ」


 蒼蓉は柚良に覆い被さるように壁に手をつき、彼女を自分の方へ向かせると歯を見せて笑った。

 獲物を見据えた獣のような目だった。


「君の生徒が、君の教えた魔法で人を殺すかもしれない。犯罪を犯すかもしれない。そもそも力を得ることを目的にあの学校へ通っている人も多いからね」

「……」

「間接的な人殺し。これで君は本物の罪人も同然だ」


 良い枷だろと蒼蓉は緑色の瞳で柚良を見つめる。

 しかし柚良は後ろ暗い表情をすることなく、蒼蓉の目をしっかりと見つめ返した。


「本物の罪人も同然、ですか。蒼蓉くんは私が無実だと思ってくれてるんですね」


 皇子殺しの犯人は糀寺柚良だ。そう大半の表の世界の住人は信じている。

 蒼蓉はどちらでもいいと口にしていたが、本心は柚良を無実だと思っているのではないか。それを指摘すると「現場に君の証拠はごまんとあったらしいけど、そんなの簡単にでっちあげられるからね」と蒼蓉は肩を竦めた。


「それに、君の実力ならそんな痕跡残さず皇子のひとりやふたり殺せるんだろ?」

「物騒ですね。まあいくつか手は浮かびますけども」

「ほら、ならきっと糀寺さんの仕業じゃない」


 やっぱり高く買われている。

 そう感じながら柚良は頬を掻いた。


「で、わざわざ改めて罪人扱いしたのは暗渠街から逃げ出させないためですか?」


 枷ということはそういうことだろう。

 蒼蓉は満足げに頷いたが、そんなことしなくても逃げないのになと柚良は思った。

 いくら痕跡を残さず皇子を殺せる実力があったところで、無実を証明する力や知恵はないのだ。暗渠街に辿り着き、蒼蓉に拾われるまでの最悪な日々がそれを物語っている。


 証明できない限り柚良は表の世界には帰れず、ここに留まり続けるしかない。


「蒼蓉くんは変な方向に努力しすぎですよ」

「そう言われたのは初めてだな……」

「そして無駄骨です。ぶっちゃけ私、案外暗渠街と水が合っているようなんで、罪人でなくてもここにいたいなって思い始めてますもん。だってこの街――」


 柚良は片側しか見えない目で蒼蓉に改めて視線を返す。


「――非合法なこと、めちゃくちゃ試せるじゃないですか」

「おや」

「魔法って人体実験した方が効率良いんですよね。でもよく止められちゃいまして」

「へえ、糀寺さんはそういう考え方をするタイプだったのか」

「多のために少が不積を背負うことも時には必要ですよ」


 柚良がそうにっこりと笑うと蒼蓉も同じような笑みを返し、そっと手を伸ばして柚良の三つ編みを解いた。

 毛先のばらりと広がった薄紫と黄色の髪を指で梳きながら蒼蓉は言う。


「意外だなぁ、以前から堕ちきってたわけか」

「……? まあそう見える人もいるでしょう」

「たしかにボクの心配は無駄骨だったわけだ。これなら小学生の頃からアプローチしとけばよかった」


 そんな頃からスカウトを考えていたのかと柚良が目を丸くしていると、蒼蓉はようやく体を離して自分の黒いシャツを指した。


「心配事がなくなってホッとしたよ。……で、どうせなら全部脱がせてくれないか? このまま風呂に入っちゃうから」

「あはは、ちっちゃい子みたいですよ蒼蓉くん」


 柚良は肩を揺らして笑いつつ外套をコートハンガーに掛ける。

 直後、蒼蓉に後ろから肩に手を置かれぎょっとした。そんな柚良に構わず蒼蓉は言う。


「小さな子なら一緒に入ろうか」

「へ!? それはあまりお勧めできませんが……」

「お勧めできない? 嫌とかではなく?」


 不思議そうな声が耳元に降ってくるのをくすぐったいなと思いながら柚良は困ったような笑みを浮かべる。

 そのまま振り返ると前髪で隠れている側の目を指した。


璃花リーファさんに洗ってもらう時もこの辺は自分でやってましたけど、あまり見てて気持ちいいものじゃないと思うんですよね」

「そっちの目、たしか事故で怪我したんじゃなかったかな? それくらいなら別に見慣れて――」

「おお、ご存知でしたか。でもそれ嘘なんです。しょっぴかれるの嫌でしたから」


 柚良のあっけらかんとした言葉に蒼蓉は怪訝そうな顔をする。

 そして柚良は軽い口調のまま続けた。


「さっき言った通り、魔法って人体実験した方が効率良いんですよ」

「……」

「反応も見やすいですしね。で、契約の類も生体を触媒や代償にする方が通りも良いし便利なんです。ほら、東の国の呪いも毛髪や爪や歯を使うものが多いでしょう?」

「……」

「右目が魔法実験で使い物にならなくなったんで、契約に使ったわけです。目として機能していなくても生体に違いはないですし。エコですね! でも表の世界じゃ……えへへ、非合法でして。ヤバいな~ということで事故で怪我したことにしました」

「……つまり、多のために少が不積を背負うって話の『少』は糀寺さんだったと?」


 柚良の実験体。

 それは柚良本人だったわけだ。


 目元に影を落とす蒼蓉をよそに柚良は明るく笑った。


「? はい、そんな感じです。まあこの実験のおかげで当時の騎士団長を治せる魔法を作れましたし、結果的に多くの人が助かったので万々歳ですよ。ただ人間の目にあるまじきことになっているので見目が悪いなと」

「見目は気にするのに実験に使うことは気にしないのか」

「いやー、だって……その、こっちの目、視力はないのに瞳の中に瞳があるんですよ。ふたつ綺麗に重なってます。自分のものとはいえわりとギョッとしますよコレ」


 柚良はびびびっと勢いよく髪に隠れたままの右目を指さす。

 伝えようと必死な様子だが、いまいち伝わりきらないのは『おかしな目』が上手く想像できないからだろう。

 蒼蓉は自身の前髪を掻き上げると気だるげに口を開いた。


「これはプラン変更かな……」

「はい?」

「まあ糀寺さんが見られたくないなら今日はひとりで入るよ」


 今日は、と強調しながら蒼蓉はボタンを外しつつ浴室へ向かう。

 興を削がれたといった雰囲気だが、喋る口を閉ざすことはなく準備を続けながら問い掛ける。


「明日、万化亭ばんかていに帰ったら話があるんだ。聞いてくれるかい?」

「もちろんです」

「よし、じゃあ……」


 そう浴室に入りかけた蒼蓉はなにか思い当ったことがあったのか手を止め、眉根を寄せつつ再び柚良のほうを見た。


「……まさかとは思うけど、他にも自分の体で人体実験してないだろうね?」

「あ、内臓と骨をいくつか使ってます」

「君って奴は……」


 生命活動に支障の出る部分は避けてますよと柚良は自信たっぷりな様子で握りこぶしを作った。蒼蓉を安心させるための言葉だが、それはまったく蒼蓉に効いていないようだ。

 蒼蓉は不機嫌ではないものの、代わりに呆れ顔で浴室のドアを閉める。


「もうそれ以上、ボク以外の誰かに君の一部をくれてやるなよ」


 ――そう言い残して。

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