メロンも狩るのか
◆ ◆ ◆
「あの、セバスチャンさん、子供二人も一緒によろしいですか?」
ムムとロロのことも忘れていない。シルバを見つけ出してお願いする時間は無いし、居場所は分かっているけれどレオリオにお願いするのもなんだか調子良く利用しているみたいで嫌だし、マーカスとイマリアは私と一緒に王城に行ってしまう。
ということは、やっぱり、ムムとロロも一緒に行くしかないのだ。
「ええ、お子様も歓迎いたします」
穏やかな笑みが私の後ろに隠れるムムとロロを見た。子供を歓迎してくれるなんて珍しい。本来なら子供は騒ぐから嫌がられたりする。
「ありがとうございます。——ムム、ロロ、一緒に……」
そう言い掛けて、私の視線がとある一点で止まる。向こうから大きな籠を背負って駆けてくるのは……
「おお、嬢ちゃん、遅れてすまんな。今日の分のフルーツ持ってきたぞ」
果樹園のカルロスだった。ほとんど毎朝フルーツを持ってきてくれているのだけれど、今日は珍しく、お昼時に持ってきてくれた。籠に修復のあとが見られるから、そこを直していたのだと思う。
「あ、カルロス、すみません。私たち、これから王城に行くんです」
「王城!?」
私が答えるとカルロスは驚いたように皺くちゃの両目を見開いた。そして、チラッとセバスチャンのほうを見て、カルロスは私を彼から離した。
「何をしに行くんじゃ?」
こっそりと秘密の話をするようにカルロスが声を絞る。
「アルジャーノン殿下から食事会の料理を頼まれまして」
私もカルロスに合わせるようにひっそりとした声で答えた。
「嬢ちゃん、その子らは嬢ちゃんの子か?」
カルロスの視線が私の後ろに居るムムとロロに移る。レオリオからはまだ聞いていなかったようだ。
「はい、引き取ったんです。ムムとロロです。どうかしましたか……?」
彼があまりにも難しい顔をするものだから、私は恐る恐る尋ねた。
「嬢ちゃん、子供は行かないほうがいい。あそこには悪魔が住んでる」
カルロスのそれは、まるで彼が前にそこに居たことがあるような言い方だった。
「悪魔?」
思わず、聞き返す。
「子供が攫われるかもしれないぞ?」
難しい表情のままでカルロスは私を見た。
そんなことを言われても、私だって子供たちを連れていくことが良い決断ではないことかもしれないと考えなかったわけではない。でも、それしかなかったのだ。
「ですが、誰かに面倒を見てもらうわけにもいかないんです。頼みに行く時間もないですし、引き取ったからにはちゃんと私が面倒を——」
「そんなことを言っとる場合か、大人のわがままで子供を危険にさらすな。わしが面倒を見る。それくらい頼れ。わしだって、もうお前さんの家族みたいなもんじゃ」
「カルロス……」
彼の表情は難しいままだったけれど、瞳には優しさが宿っていた。私は母親失格だ。時には誰かに頼ることも必要だと、みんなが教えてくれているのに。
頑固なところ、私も自分の母親にそっくりだ。
「ほれ、じじとフルーツ狩りでもするか、坊主たち」
少しだけ身を屈めて、カルロスが籠からオレンジを取り出してムムとロロに差し出す。
「フルーツ? イチゴもある?」
私の後ろから出ずに、黒いケモ耳をピコピコさせながらムムがカルロスに尋ねる。
「もちろんあるぞ」
「おれっちイチゴ好き! 行く!」
ムム、イチゴの前に陥落。カルロスの前に飛び出した。
「メロンもある?」
私の後ろに残ったロロが白い尻尾をゆらゆらさせながらカルロスに尋ねる。
「おお、あるぞ」
「ぼっくんメロン好き! 行く!」
ロロ、メロンの前に陥落。ムムと同じくカルロスの前に飛び出した。
「メロンも狩るのか、立派な狩人だな。こりゃ、将来大物になるぞ」
気が付くと、カルロスはすでに孫を溺愛するおじいちゃんと化していた。
「気を付けるんじゃぞ?」
そして、去り際、私にそう言い残した。用心は必要だけれど、彼の言葉にとても怖くなった。それでも、私たちはセバスチャンの移動魔法で一瞬で王城まで来てしまったのだった——。




