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【コミカライズ化】見捨てられ主婦、異世界で食堂やります 〜冷蔵庫は立派な魔道具です〜  作者: 純鈍
第十四話 見知らぬ少女とおやつにぴったりキラキラ魔石ゼリー
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愛情のこもった味


 ◆ ◆ ◆


 誰かに起こされるわけでもなく、ハッとなって目を覚ますと、いつの間にかムムとロロが私にくっ付いて眠っていた。普通ならば、このまま「可愛いぃ!」と心の中で悶えるのだが、視線を逆の方向に向けるとギルがジッと私のことを見つめていたので、それどころではなくなった。


「あ、ごめんなさい。つい、居眠りを」


 ——もしかして、ギル、私の寝顔見てた……!?


 平常心を装って、彼から離れようとしたのだけれど、ムムとロロが眠っていて動けなかった。


「……」


 またギルは何も言わない。ちょっと可哀想だけれど、これはムムとロロを起こさなければいけないかもしれない、と私が思ったときだった。


「エラ、次の休みにデートでも——」


 どんなタイミングでこの人はやって来るのだろうか、レオリオが私たちの前に立ち、勝手に言葉を失った。


 ——あ、もしかして……。

 

「なんてことだ……」


 無言の私たちを見つめたまま、レオリオが言葉をこぼす。


 さすがにこれはムムとロロを見て、がっかりしてしまったのではないだろうか?


「まさか、二人に子供がいるだなんて知らなかったよ。もう僕には勝てない……」


 絶望したようにレオリオが言う。これで彼は私のことを諦めて、もしかしたら、私のことを嫌うのかもしれない。


 彼が自分で言ったのだ。『エラ、やっぱり僕には二人が婚約してるなんて信じられないんだ。二人の間に子供がいるとかなら別だけどね』と。


 そう思っていたのにレオリオはおもむろにゆっくりとムムとロロに近付き


「まるで天使じゃないか……!!」


 と頬を緩ませて言った。結構大きな声で言った。


 ——もうメロメロじゃないの。


「んん……」

「むぅ……」


 眉間に皺を寄せて、身体をくねらせながら起き上がるチビ狼二人。


「あ」


 二人が起きてしまった、と私の口から声が漏れた。


「「ぬ?」」


 寝起きの、しょぼしょぼする瞳で二人がレオリオを見つめる。ぴこんぴこんと動いている獣の耳がとても可愛らしい。


「ほうら、レオリオおじちゃんだよ。お名前は?」


 レオリオの好きのベクトルがおかしなことになっている。多分、敗北を感じ、好きの矢印がムムとロロに向いたのだろうと思う。そして、やっぱり打たれ強い。すでに親戚のおじさんと化している。あっさり諦められたらそれはそれでなんとなく複雑な気持ちになるけれど、それで良かったのだ。


「ムム……」

「ロロ……」


 ムニャムニャしながら二人が自分の名前を答えていて偉いと思ってしまう。これは親バカだろうか?


「そうか、ムムとロロか。よし、おじちゃんが服とおもちゃを買ってあげよう。エラ、二人と少し散歩に行ってきても良いかな?」


「え?」


 突然、真面目な顔でレオリオに言われて、私は間抜けな声を出してしまった。


「ダメかな? 絶対に危険なことはさせないし、すぐに帰ってくると約束するから」


「あの、その、良い、ですけど……」


 一応、レオリオは次期町長になる人間だし、根は決して馬鹿なことはしない真面目な人だということも知っている。だから、戸惑いながらもそう答えてしまったのだけれど、ギルのほうが止めるかもしれないと後から思った。けれど、彼も何も言わなかった。レオリオが悪い人ではない、ということはやっぱり分かっているのだ。


「やった! 二人とも寝起きのところ申し訳ないけど、散歩に行くよ?」


 レオリオも意外と力持ちで、二人を両脇に抱える感じで歩いていってしまった。抱えられて去っていく二人の尻尾が少し揺れていて可愛かった。


「やっとか……」


 立ち上がったギルがそう呟いた気がした。


 そして、こちらにスッと手が伸びてくる。


「あ……、ありがとうございます」


 その手を掴んで立ち上がると、彼は意外にもあっさりと私から離れて店のほうに歩いていってしまった。


 ——なんか不機嫌? ムムとロロのこと? それとも、もうレオリオが私から興味を失ったから、どうでも良くなった? 男は争いたい生き物だって、誰かが言ってた気がするし……。


 悩みながら、私も店のほうに歩いていくと、途中でギルとすれ違うようにマーカスが裏口から出てきた。


「エラ、魔石ゼリーなんだけど、お代は今度で良いから、ってミシェルに渡したよ」


「ごめんなさい、途中で放ったらかしにしてしまって」


 マーカスにスポーツ少年のような爽やかな笑顔を向けられて、逆に罪悪感に襲われる。どうやらミシェルは私が眠っている間に帰ったらしい。


「いいや、エラは働き過ぎなんだよ。たまにはサボったって良いんだ。人間なんだから」


 裏口の扉を開けながら、マーカスが優しく言ってくれた。


 まさかこんな言葉を掛けてもらえるときが来るとは……、つい、目頭が熱くなる。


「そうよ、エラさん。ご飯もちゃんと食べなきゃなんだからね?」


 話を聞いていたらしく、扉の前にはオムライスの乗った器を持ったイマリアが立っていた。私とギルのご飯は自分で適当に何か作ろうと思っていた。だから、これはマーカスとイマリアが二人で作ったのだろうか? 


「ギルさんもよ? さあ、そこに座ってちょうだい」


 休みではあったのだけれど、これから仕事に行こうとしていたであろうギルを引き留め、イマリアは彼もテーブル席に座らせた。その向かい側に私も腰を下ろす。


 そして、私とギルの前にはデミソースの掛かった綺麗なふわとろオムライスが……。


「「どうぞ、召し上がれ」」


 ——もう……息ぴったりだなぁ……。こんなサプライズがあるなんて……。


 両側に立ったマーカスとイマリアに言われて、私はもうすでに泣きそうだった。


「いただきます」

「いただこう」


 両手をちゃんと合わせて、私とギルはオムライスを口に運んだ。


「美味しい……、とても美味しいです」


 そのオムライスは私のことをとても想ってくれている味がした。愛情のこもった味がした——。

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