アイスウルフとファイアーウルフ
◆ ◆ ◆
「それで? 何か言いたいことはあるか?」
ギルと私は狼の耳と尻尾を持つ小さな二人を風の檻に入れたまま店に連れてきた。
しかし可哀想に、今は逃げられないように椅子に縛られている。私が説明し直して、盗みがバレたからである。
「ないようだな」
ムッとして何もしゃべらない二人の前に立って、ギルは真顔で言った。
——子供相手にその真顔はちょっと怖い気がするのだけれど?
椅子に縛られた二人の後ろに立ち、そう思う私。
「ならば、少し、調べさせてもらう」
そう言って、二人が何かを持っていないかギルが調べていく。けれど、二人が持っていたのは、この店から盗んだじゃがいもが一つずつだけで、他には何も持っていなかった。
ギルの手が彼らの頭に向かう。
「ワーウルフか」
白いほうの狼の耳にギルが触れると、くすぐったかったのか、そっちの子はふるふると首を振った。
二人はギルに似ている。でも、ワーウルフって人狼?
「これは……」
急にギルが言葉を失うように言ったので、何があったのだろうか? と私は彼の隣に移動した。
「え……っ」
二人の額には魔方陣のような何かの烙印があったのだ。
——ずっと前髪で隠れていて気付かなかった……。
「奴隷の烙印だ。今朝、この町で奴隷商人を見かけた騎士がいる。そこから逃げて来たのだろうが、直に見つかる」
「この国で奴隷商は禁止されているはずでは?」
まだアルは王になっていない。ならば、奴隷商は禁止されているはずだと私は思い込んでいた。
「上手く隠しているだけで、今はまだ禁止されていない。取り締まることも出来ない」
ギルのその言葉が今のこの国の真実だった。
「そんな……。こんなに小さな子供の額に烙印を押すなんて、どうしてそんな酷いことが出来るの……っ」
私は自分の両目からこぼれ落ちていく涙を止めることが出来なかった。急に泣き出した私を見て、小さな二人はとても驚いたことだろう。
そう思っていたけれど……
「おれっち、ムム」
「ぼっくん、ロロ」
二人はぼそりと呟いた。
「っ、へ……?」
驚いたのは私だった。涙を拭いながら、改めて二人を見る。
「だから、おれっちがムム」
不機嫌そうな顔で言う黒い狼の耳の子がムム。
「ぼっくんがロロ」
もじもじとしながら言う白い狼の耳の子がロロ。
「わた、私は、エラです……っ」
名前を教えてくれたことが嬉しくて、また涙が溢れてきた。少しだけ私に心を開いてくれたのだ。
「おれっち、アイスウルフなんだー」
「ぼっくんはファイアーウルフ」
大きな目が自慢げにキラキラと輝いている。でも、その光もすぐに消えた。
「おれっちたち、母ちゃんがちょっと前に死んじゃって、二人きりになっちゃって、お腹空いたなって思ってたら」
「男の人がぼっくんたちを拾ったの。でも、ぼっくんたちのおでこに熱くて痛いのして、部屋に閉じ込めたの」
彼らが嘘を吐いているのか、それとも本当のことを言っているのか、正直、私は単純で騙されやすい人間だから、見分けることが出来ない。それでも、私はムムとロロのことを放っておけなかった。騙されていても構わない。
「美味しいもの、これからたくさん食べましょうね」
私は両腕を広げて、椅子に縛られたままのムムとロロを真正面からギュッと抱きしめた。
彼らのために料理を作ろう。




