会長、どうか私にチャンスをください
◆ ◆ ◆
「会長が参りますので、掛けてお待ちください」
メイドのような格好をした受付嬢が私たち三人を豪華な応接室に案内してくれた。ソファを差し、彼女の金色のロングヘアがさらりと揺れる。
「会長が直々に話を聞いてくださるのですか?」
受付で話をして終わりだと思っていたので、こんなところに通されるとは思わず、私はイマリアとマーカスと一緒にソファに座りながら案内係の彼女に尋ねた。
「会長はどんな方でもどんな物でもご自分の目でチェックされます。失礼な言い方にはなりますが、おかしなものが混ざっていると困りますので」
冷めたグリーンの瞳が扉の前から私を見つめる。どんな人にもこの人は動じなさそうだ。
「そう、ですよね」
——さすがギルド、徹底してるのね。
そう思った瞬間、コンコンッと応接室の扉がノックされた。それをクールな彼女が開ける。
「お待たせしたわね。私がこのギルドの会長、サラです。どうぞ、よろしく」
そう颯爽と入ってきた女性の姿を見て、私は唖然としてしまった。なぜなら……
サラは前世の私の母親にそっくりだったからだ。髪も瞳も黒で、日本人でありながら目鼻立ちがはっきりしているところまで、本当に似ている。まさか、前世、肺ガンで亡くなった母にこの世界で出会えるとは……。
「どうしました?」
「あ、いえ、すみません。私、エラと申します」
サラに不思議そうな顔をされて、私は慌ててソファから立ち上がり、ペコっと頭を下げた。イマリアとマーカスも私に合わせて立ち上がり、頭を下げる。危ない、ちょっと泣きそうだった。
「どうぞ、座って」
「失礼します」
彼女に言われるがままに三人揃ってソファに座り直す。
「それで? 本日はどういったご用件で?」
「はい、あの、私たちは隣町で食堂を営んでおりまして——」
「ゴホゴホッ、ゲホッ!」
私がサラの質問に答えようとすると、彼女は急に激しくむせ始めた。それによく見ると、額には玉のような汗が……。
「大丈夫ですか?」
顔色も悪く、あまりにも突発的に激しくむせたため、私は彼女のことが心配になった。私の母と同じ症状なのだ。もしかしたら、彼女も……。
「だいゴホゲホッ」
サラは大丈夫と言おうとして言えていなかった。その姿を見て、「会長、水を」とクールな彼女がサラにコップに入った水を手渡した。
「ありがとう」
そうお礼を言って、水を一口飲み、サラはやっと少し落ち着いたようだった。
「失礼したわね、続けて」
コップをテーブルに置き、サラが言う。
「食堂で瓶が大量に必要になったので、回してほしいのです」
「一体、瓶を何に使うのです?」
中身がポーションだということは言わずに、なんとか目立たずに成立させたい、と思ったのが仇となったのか、サラの目つきが鋭くなった。
「このフルーツティーを隣町だけで細々と売りたいのです」
私は自分が背負ってきた荷物からフルポの入った瓶を取り出して、テーブルに置いた。それをサラがジッと見つめる。
「細々と売るのに、瓶が大量に必要……? なんだか怪しいわ」
彼女のジトッとした視線が瓶から私に移り、ますます厳しくなってきた。
「嬉しいことに、とても評判なんです。こちらを飲んでいただければ、その理由を分かっていただけると思います」
フルポを飲めば体調の悪そうなサラのこともきっと助けられるし、美味しいことも分かって一石二鳥だと思ったのだけれど、その考えは甘過ぎた。
「認められないわ。怪し過ぎる。何かしらの薬物が入っている可能性もあるし」
サラは頑固で、フルポには一切触れず、一度疑ったものは認めようとしなかった。
私の母も頑固だった。その頑固さが母を殺したようなものかもしれない。母子家庭だったからかもしれないけれど、母は私が高校を卒業するまではしっかりと面倒を見ると働き詰めの毎日だった。それで、ガンの発見が遅れ、見つかったときにはすでに手遅れだったのだ。それでも二年、よく生きてくれたと思う。でも、亡くなってしまった。
私の所為で母は死んだ。私は母を救えなかった。
あのとき、私はそう自分を責めた。だから、今回こそは、この人生こそは母を……母に似たサラを助けたい。
怪しさを払拭するためにはどうしたら良いのか、それは……。
「会長、どうか私にチャンスをください」
私はすっと立ち上がり、サラに向かって深々と頭を下げた。




