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私たち、本当の婚約者ではないですよね?


 ◆ ◆ ◆


 シルバと協力してギルにフルーツティーを飲ますことには成功した。けれど、体内に入ったのがあまりに少量だったためなのか、彼はすぐに目覚めなかった。ただ、呼吸が落ち着いたので、騎士団の数人とシルバとで彼を療養所の一室に運び、あとは様子を見ることになった。


 そして、今、私は一人、彼のベッドの横に座っている。


 なぜ、一人なのかというと、シルバは他の軽傷だった騎士たちの面倒をギルに代わって見る必要があったからだ。医者に診てもらったり、自分たちで包帯を巻いたり……、彼らと違って今の私は能無しだ。


 ギルのことが心配過ぎて、彼らを助けるための料理が作れない。フルーツティーも溶けて地面に落ち、使い物にならなくなってしまった。


「はぁ……」


 ——私が村の入り口で待ってさえいなければ……、ギルは……。


 落ち込んで溜息を吐きながら、彼が横になっているベッドに私が顔を伏せたときだった。


「……」


 顔を伏せていても分かる。無言でむくっとギルが起き上がる気配を感じた。


 慌ててバッと顔を上げて、彼の様子を確認する。


 彼は寝起きにしてはしっかりとした目つきで私を見ていた。


「ギル!」


 ほっとして、思わず、私は彼の首に勢いよく抱きついてしまった。そして、ハッとなる。


 ——しまった……、今のギルは犬じゃないのに……!


「す、すみません。——へ?」


 謝りながら私が身体を離すと、ギルに腕を掴まれ、引き戻された。瞬間、気が付くと、私は彼に優しく抱きしめられていて……


「ついに完成させたのか。お前は天才だな」


 顔は見えないけれど、彼の声はとても嬉しそうだった。もしかすると、私に見せたことのない表情をしているのかもしれない。


 ——彼に喜んでもらえて嬉しい、だなんて思っている私は本当に都合の良い女なのかも。


 そう考えてしまった私は自分から彼の腕から抜け出した。彼の表情は気になるけれど、気持ち的にどうしても見ることが出来ない。


「私の所為でギルを危険な目に遭わせてしまったこと、謝ります。勢いで犬のあなたにするように抱き着いてしまったことも……。でも、私たち、本当の婚約者ではないですよね」


 本当は彼に抱きしめられてドキドキした。でも、これは取引なのだから、本当に結婚するわけではないのだから……。


 会話は噛み合っていないかもしれないけれど、私は視線を伏せて少し冷たい言い方をしてしまった。


「そうだな」


 ギルもいつも通りの無愛想な言い方で返事をしてきた。それに、ギルに頼まれたものも完成した。だから、私はそんなにもう自分は必要とされないのだと思った。


 それなのに、彼は暫くの沈黙のあと、話題を変えるように私に「また頼みたいことがある。作ったものを量産出来るようにしてほしい」と頼んできた。

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