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【コミカライズ化】見捨てられ主婦、異世界で食堂やります 〜冷蔵庫は立派な魔道具です〜  作者: 純鈍
第八話 果樹園の守り番とやわらかほろりな豚の角煮
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ただ、一つ、条件があるんだ


 私は歩きながらギルに頼まれたもののことを考えていた。


 ——出先で腐りにくいものが良いわよね。スープはダメだろうなぁ、すぐ腐るし、温めないと不味いし。


「あれ?」


 突然、ハッと我に返って、足を止める。朝から市場で新しいお皿でも見ようと思って出てきたのに、考え事をしていたせいで、気が付いたら私は町の外れまで来てしまっていた。


 人の住んでいるようなお家は無く、周りには木々が生い茂っている。来た道を戻れば町に戻れるのだけれど、私の足は別の方向に向いた。素敵なものを見つけてしまったのだ。


「果樹園……?」


 生い茂った木々の先にガラスで出来た大きな建物が見え、近付いて外から見てみると、中には多種多様な果物の木が植えられていた。放置されているのか少し荒れているけれど、レモンやオレンジっぽい果物が生っているのは確認出来る。


 ——果樹園って、なんだか夢があるのよね……。私も趣味で果物を育てたいと、ずっと思ってたんだけど、お世話って難しいのかな?


「ん?」


 キラキラした果物の宝庫のような果樹園を見ていて、私はふと、近くに看板が立っているのに気が付いた。


『果樹園持ち主募集中』


 看板にはそう書かれていた。こんなに美味しい話があるだろうか? と疑う。でも、よく考えてみれば、ここにある果物で色々なものが作れるし、本当にとても楽しそうだ。


「よし……!」


 ——決めた、この果樹園をもらおう!


 意気込んで、誰に話をしに行けば良いのだろう、と看板に視線を戻す。


『果樹園持ち主募集中 希望の者は次期町長レオリオまで』


 ——レオリオ……!?



 ◆ ◆ ◆


 あの人、ちゃんと町長の後継者の仕事していたんだ、と思いながら昼が終わってからギルに一緒に行ってもらえないかと頼もうと思ったら、騎士団を作ったばかりで彼はとても忙しそうだったので、結局、私は一人でレオリオに会いに行くことになった。


 さっそく探してみるとレオリオは広場で町の人たちの相談に乗っていた。


 少し離れたところからちょっとだけ様子を見ていたのだけれど、武器加工屋のおじさんから「材料が足りなくなってきている」と相談されれば、「材料を運ぶ人員を確保してみる、一週間後には改善されるだろう」と真剣に答えていたり、小さな子供を連れた若い母親から「旦那に先立たれて、働きながら子供の面倒を見るのがつらくて」と相談されれば、「それは大変だったね。教会で昼間だけ預かれないか聞いてみよう」と母親を安心させるように優しく笑い掛けてあげていたりしていた。


 そして、彼はみんなから「ありがとう」と言われていた。彼は町のみんなから慕われ、愛されているのだ。


 ——ただの遊び好きの女タラシだと思ってた。


 娯楽が無くなる、と言って頭を抱え、嘆いていた人はどこに消えてしまったのだろうと思う。


「レオリオ、少し良いですか?」


 レオリオの前に並んでいた人の列が途切れたので、私は彼に声を掛けた。


「エラ? どうしたんだい? 僕に会いに来てくれたのかい?」


 透明感のある碧眼が私の姿を捉えて、ニコッと笑った。とても眩しい。


「いえ、あの、そうなんですけど、町外れにある果樹園のことで」


 彼がおかしな聞き方をするから、私も変な答え方になってしまった。ごめんなさい、私の目的はあなたではなくて、果樹園なんです。


「もしかして、あの果樹園を欲しいとか?」


 レオリオがピタリと動きを止め、そう言った。なんだか、様子がおかしい気がする。もしかして、私みたいな素人が欲しいと言ってはいけないのだろうか?


「はい、譲っていただきたいんです。ダメでしょうか?」


 ダメかもしれないけれど、言ってしまった。言ってしまってから心配になって下からレオリオの顔を覗き込む。


「いいや、僕は手放そうと考えていたから良いんだ。ただ……」


 そこで口ごもるレオリオ。


「ただ……?」


 気になって同じ言葉で聞き返す私。


「ただ、一つ、条件があるんだ」


 一つ、と右手の人差し指を立てて、そう言うレオリオの視線は心無くどこか遠くを見ている気がした。

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