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ドキドキ宝物庫


 ◆ ◆ ◆


「では、団ちょ……副団長、また」


「ああ、また詳しいことが決まったら集合を掛ける。よろしく頼む」


 一人ずつ、律儀にギルに挨拶をして、騎士たちは店から去っていった。ギルも一人ずつ、ちゃんと送り出していた。私はそれをカウンターの中から見ていた。


 マーカスとイマリアはテーブルを拭いたり、お皿を片すのを手伝ってくれたので、きっと疲れているだろうと思い、すでにお家に帰した。本当に働き者で優しい兄妹だ。オーナーなのに、こんな扱いで良いのだろうか、と思ってしまうこともある。


「あいつらを集めたは良いが、資金はどうする?」


 店の中央辺りのテーブルに座って、シルバがギルに尋ねている。まさか、何も考えずに騎士たちを集めたのだろうか? この行き当たりばったり感は第二王子とは思えない。


「あれを使う」


 案はあるらしく、ギルは淡々と言った。あれ、とは一体何なのだろうか。


「大丈夫か? お前、犬になった所為で魔力減ってたろ?」


 心配するようにシルバが難しい顔をする。魔力が減っていたのにシルバに勝ったんだ、と思うとちょっと恐ろしい。


「魔力はだいぶ戻った。いけるだろう」


 両手を広げたり閉じたりして、ギルはさらっと言った。そして、おもむろに立ち上がって、店の何もない木の壁に向かって両手を翳し出す。


「ロックアンロック」


 呪文を唱えると、急にそこに重厚な金色の扉が現れた。まるで浮き出てきたみたいだった。


「誰もいない。大丈夫だ」


 その扉には覗き穴があって、ギルはそこから中を確認して、向こう側に誰もいないことが分かると扉をこちら側に向かって開いた。


「おー、懐かしいな」


 シルバが先に入っていく。そして、ギルが……


「お前も来るか?」


 私に向かって、手を差し出してきた。


「あ……、はい」


 ——手を差し出すなんて、ずるい。まだ言葉だけなら断れたのに。


 なんて言い訳をしながら彼のもとに行く私は、単純に扉の向こう側が気になっただけである。そうだ、きっと、そうなのだ。


「わぁ……」


 扉の向こうには宝の山があった。宝石とか、金銀財宝とか、高そうな家具とか、かっこいい剣とか、王冠とか、そんなものばかり。天井の高い洋室の中にぎっしりと詰まっている。この空間は、まるで、イギリスにある古い大きな図書館みたいだ。広い。とにかく広い。


「ギルの宝物庫だ。アルに無理難題を押しつけられて魔物を大量に倒しに行ったからな、やつらが集めてた物をここで保管してる。それと、たまにギルの私物もある」


 シルバが高い天井を見上げながら説明してくれた。その眼差しは「変わらないなぁ」と言っているようだった。


「ここにある金塊の一部を売れば、良い資金になるだろう」


 どこからか、ギルは黒い布の袋を取り出して、近くにあった金のメダルをその中に詰め始めた。シルバも同じようにどこからか袋を取り出して、詰め始める。


 王族でも貯金って大事なんだな、なんてちょっと間の抜けたことを考えながら私は自由に棚を見させてもらった。


「綺麗……」


 台座に置かれた小さな金のナイフに目が留まる。私が惹かれたのは金飾の施されたナイフ自体ではなくて、その柄の底から伸びた綺麗な紺色をしたリボンだった。よく目をこらして見てみると端の方には金の刺繍がしてある。


 このナイフは武器ではなく、何かのお祝いとか、お守り用に作られている気がした。


 ——こういうリボンが似合う女性になりたかったなぁ……。私、地味だし。


「はぁ……」


 深く溜息を吐き、リボンから目を離して、私は二人と合流することにした。でも、さっきの場所に二人の姿はなかった。そういえば、金塊を詰める音も聞こえない。


 ——あれ? もしかして、私を置いて戻った? それとも、別の場所にいる?


 そう思いながら、少し歩いているときだった。


「……っ!?」


 急に口を塞がれて、私は大きなキャビネットの陰に引っ張り込まれた。


「んん」


 抵抗するために呻く私。でも、


「静かに」


 後ろから聞こえたのはギルの声だった。


「アルの猫だ」


 私がピタリと動きを止めると、少し離れた棚の下を指差して、ギルが言った。茶色いペルシャ猫だと思う。床との少し空いた隙間からふわふわとした猫の前足と後ろ足が見えた。


 ——ち、近い……!


 身を隠すためにギルが私を連れてさらに狭い隙間に移動するから、今度は真正面から身体が密着してドキドキしてしまった。だって、これじゃあ、まるで抱きしめられてるみたいで、自分の心臓の音が彼に聞こえてしまいそう。


 いやいや違う違う、これはアルの猫に見つかりそうで緊張してドキドキしてるだけで、吊り橋効果だから……、と自分の心に言い聞かせて数分後、私からは猫の動きは見えなかったけれど、ギルが落ち着いた口調で「気配が消えた」と言った。


 身体を離して、ギルが先に棚の向こう側を確認しに行く。


「もう大丈夫だ。ただ見回りに来ただけだろう」


 こっちに来い、と手で合図されて私は彼のもとに急いだ。もうアルの猫は去ったというのに、なんだか怖い。猫が見張ってるって、どういうことだろう? アルは動物と話でも出来るのだろうか?


「エラちゃん平気だったか? びっくりしたろ?」


 私が頭の中で考えていると、どこからかシルバが出てきて私の安否を確認してくれた。


「ご心配ありがとうございます、大丈夫です」


 色んな意味でまだドキドキしてるけど。


「あの、猫はどうやって入ったんでしょう?」


 宝物庫というのだから、鍵はちゃんと掛かっているはずだ。窓も施錠されてるはず。ならば、壁でもすり抜けてきたのだろうか?


「隣にアルの宝物庫があるんだが、子供の頃にアルが苛立って空けた子供の頭くらいの穴がある。そこを通って来たんだろう」


 そう言ったのはギルだ。


「猫は頭が通れば身体も通るからな」


 シルバもうんうんと頷いている。


 当然のことのように答える二人だけれど、今までに穴を埋めようとは思わなかったのだろうか、とも思う。でも、苛立って穴を空けてしまうくらいだ、何度もやってる可能性がある。気にはなったけれど、恐ろしいので聞くのはやめにした。


「俺があとで換金してくる。お前はまだ目立つべきじゃねぇだろう?」


 宝物庫から戻ってきて、シルバはそう言いながら金塊の入った袋を二階の部屋に運び始めた。もう少し辺りが真っ暗になってから専門の商人に売りに行くそうだ。その方が目立たず危険が少ないから、とか。


「ちょっと外に……」


 店に戻ってきてからも、なんだか、まだ心臓がドキドキいって暴れていて、私はそれを落ち着かせるために裏口から外に出た。

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