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二人の氷の魔法


 次の日の朝、私は魔法の使えるギルとシルバに一つお願いごとをすることにした。


 用意したのは、前日に町の武器加工屋さんで特別に作ってもらった金属のボウル二個と泡立て器だ。調理器具なんて嫌がられると思っていたのに、下絵を見せると武器加工屋のおじさんは「面白い」と言ってやけに乗り気で作ってくれた。まあ、昨日の売り上げはすべて消えたけれど。


「お願いします」


 重ねた上のボウルに卵黄とグラニュー糖を入れて、泡立て器で混ぜながら私は二人に合図を送った。


「「アイスハミング」」


 二人がほぼ同時に呪文を唱えると、二人の手元から風に乗るように小さな氷の塊が下のボウルに入り込んできた。まるで妖精が歌っているような音が聞こえる。


「すごいですね、適度な量の氷が永久的に……」


 ボウルの中で氷は先に入れておいた大量の塩と混ざり、ゆっくりと回っている。これならボウルの中の温度をうんと下げることが出来る。塩の効果もあって、上手くいきそうだ。


「エラちゃん、これね、初期魔法。魔力を一定に保つために最初くらいに永遠練習するやつ」


 魔法に集中しながらもシルバが懐かしむように教えてくれた。これもギルと一緒に習得したのだろう。


「良い感じです。そのままキープしてください」


 砂糖の粒がなくなって白くなったら、少しずつ牛乳を加えて、混ぜる。


 さらに液体のクリームとバニラエッセンスを入れて、混ぜる。ひたすらに混ぜる。


 腕が疲れてくるけれど、時折左右入れ替えて混ぜる。


 どんどん固まってくるので、途中で木べらに替えて、底からすくうように混ぜる。


 全体的に固まったら完成。


「出来ました」


 上手く固まったことにほっと胸を撫で下ろす。


「甘い香りがするな。これはなんだ?」


 シルバが魔法を止めて興味津々な様子でボウルの中を覗き込んだ。つられてギルも手を止める。


「アイスクリームです」


「へぇ、美味そうだな」


シルバ、食べたそうなところ申し訳ないのだけれど、まだ終わっていないのです。ギルも尻尾を振らないでください。


「二人とも、お疲れ様と言いたいところなんですけど、溶けてしまうので魔法を続けてください」


 重ねてあるボウルにホコリが入らないように布を掛けながら私は二人に言った。ちなみに、このボウル、パチオギンギスというステンレスに似た軽い金属で出来ている。


「え? いつまでだ?」


「それは……」


 シルバに尋ねられて、私は口ごもってしまった。なぜなら、まだそのタイミング……いや、その人が来ていないからだ。


 ——昨日はこのくらいの時間に来たはずなのに……。


 そう思っていたときだった。


「おはよう、エラ、ギル。あれ? 新人か?」


 待ち人来たる、マーカスだった。今日も爽やかに笑っている。


「マーカス! あの……」


「シルバだ。ギルの親友」


 カウンターのところから声を掛けたけれど、シルバの挨拶が先だった。うん、大事よね、と思う。


「あのう……」


「そうか、よろしくな」


 再度、声を掛けたけれど、マーカスの返事にかき消された。握手も大事だけれど、と、とと、溶けてしまう!


「あの、あの! マーカス、今すぐ、妹さんのところに連れていってください!」


 悠長に挨拶を交わしている二人を見て、私は我慢が出来なくなり、マーカスのもとにボウルを持って駆け寄って、ついに言ってしまった。

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